久しぶりに会う親 どんな変化があれば認知症?
単なる物忘れと認知症の違いって?
まず確認しておきたいのは、単なる物忘れと認知症の違いだ。
「相手の名前がとっさに出てこない」という経験は、高齢者のみならず、多くの人にあるだろう。このような物忘れが多少増えても、それは加齢によって起こる脳の衰えで、認知症ではない。だが、「いつも通っている場所の道が分からなくなった」「約束を頻繁に忘れるようになった」といったことが起こったら、それは認知症かもしれない。
認知症と加齢による物忘れを分かりやすく比較すると、体験の一部を忘れるのが加齢による物忘れで、体験そのものを忘れるのが認知症の特徴だ。
例えば、財布のありかがわからないとき、物忘れの場合、「どこにしまったか忘れてしまった」と頭を抱えることになるが、認知症の場合、「財布がなくなった。誰かが盗んだ」となってしまう。
また、認知症になると新しいことを覚えるのが難しくなるが、加齢による物忘れの場合、学習能力は保持されている。さらに認知症は徐々に進行するが、加齢による物忘れは、基本的に進行や悪化はしない。また、自分は認知症かもしれないと心配するような人は認知症の可能性は低いが、物忘れが進行しているのに、自覚がない人は認知症である可能性が高いのだという。
症状が進まないと周囲が気付けないことが多い
ただ、「単なる物忘れなら、脳の老化で認知症ではない」と安心させておきながら申し訳ないが、認知症は、かなり症状が進まないと、周りがなかなか気付けないのも特徴である。
川崎幸クリニック院長、杉山孝博さんによれば、病院では「薬をちゃんと飲んでいる」と医師に答えているのに、別々に暮らす家族が家に行ってみたら飲み忘れの薬が大量に残っていたとか、電話ではきちんと生活しているような受け答えをしていたのに、実際にはごみ屋敷状態になっていた、ということが、認知症患者ではよくあるのだという。
認知症がなかなか気付かれない理由について、杉山さんは、「私たち人間は、人前では自分をよく見せたいという心理が働くので、たまにしか会わない人には普段の姿をなかなか見せない。だから、年に1回か2回帰郷する娘・息子には、認知症かどうか気付けないのです。やはり、最初に気付くのは一緒に住んでいる家族などの身近な人です」と話す。
とはいえ、核家族化が進んだ現代社会。自分とは別に暮らす親の認知症に早く気付きたいという人は多いだろう。どうすればいいのだろうか。
判断に役立つチェックリストの一つが、「認知症の人と家族の会」が作成した「家族がつくった認知症早期発見のめやす」(下記参照)だ。
帰郷した折や、電話で話す際などに、これら20個のチェック項目を念頭に置きつつ、「最近あったことなどについて話をよく聞いたり、よく観察したりすれば、変化に気付くことがある程度は可能です」(杉山さん)。
当てはまる項目がいくつかあれば、認知症の疑いが強いので、一度病院で詳しい検査をしてもらうといいだろう。
チェックポイントはあくまでも目安である。いくつか気になる項目があるなら、医療機関を受診しよう。認知症は、「精神科」「神経科」「神経内科」「老年診療科」「老年内科」などが専門だが、最近は「もの忘れ外来」「認知症外来」などもある。どこに行けばいいか分からない場合はかかりつけ医の先生に相談してみるのも一手段だ。
(ライター 伊藤左知子)
この人に聞きました
川崎幸(さいわい)クリニック院長。1947年愛知県生まれ。東京大学医学部付属病院での内科研修を経て1975年川崎幸病院に内科医として勤務。1998年9月川崎幸病院の外来部門を独立させて川崎幸クリニックが設立し院長に就任、現在に至る。公益社団法人認知症の人と家族の会(旧呆け老人をかかえる家族の会)全国本部の副代表理事、神奈川県支部代表。公益社団法人日本認知症グループホーム協会顧問。
[日経Gooday 2015年12月25日付記事を再構成]
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