人気コピーライターの発想法が身につく「創る手帳」
ビジネス書やハウツー本は、書店で大きなコーナーができるくらい大量に出版されているが、それらの本を読んですぐにビジネスセンスが身に付くとは限らない。しかし、それを実践できたり、考え方をトレーニングできるツールがあれば、欲しいと思う人はきっと多いだろう。そんな発想で作られたのが「創る手帳」だ。マンスリーやウィークリーページよりも、メモページのほうが多く、アイデアを生み出す仕掛けがされているという。ビジネス本から誕生した個性的な手帳について、作者に話を聞いた。
メモページたっぷり。めくることでアイデアが生まれる?
「創る手帳2017」は、サントリーの「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」などを担当したコピーライターであり、クリエイティブ・ディレクターである小西利行氏の著作「すごいメモ。」(かんき出版)を読んだエムディエヌコーポレーションの編集者が、「この本を手帳にしたい」と小西氏に連絡を取ったところから始まった。
まったく面識のない編集者からの連絡に小西氏は戸惑ったそうだが、何度かのミーティングで、どういう形にすれば著作の内容が手帳になるのかが見えてきたという。
「エムディエヌの編集の方から"創る手帳"というタイトルを提案されたときに、それなら手帳になると思ったんです。本で書いていた『ダイアリーとメモを連携すると仕事がはかどる』という方法は、何かを創るための方法でしたから」と小西氏。
メモに日付を書いておいてスケジュールと連動させるやり方とは、次のようなイメージだ。例えば。打ち合わせのときに課題が発生したら、次の打ち合わせ日を決め、次回の日付を書いたメモを作っておく。こうすると、次回の打ち合わせの前日に、明日の打ち合わせのために何をしなければならないか、といったことが、その日のメモを見るだけで確認できる。
「メモを見て、そこから予定を確認するほうが話は早いんです。それに、メモは内容を確認して終わりではもったいない。前に書いたメモを見返しているときに、今進行中の案件のアイデアにつながることもあるし、複数の案件が並行して動いているときに、それぞれの案件のメモが別の案件のヒントになったり。考え方が案件を越えて横断するんです。こういう思考に慣れていない人に向けて、メモをめくる習慣をつけてもらいたいというのも、この手帳の役割のひとつです。メモをめくることでアイデアの撹拌(かくはん)が起こるんですよ」と小西氏は言う。日付が付いたメモを大量に書けるように、創る手帳にはたっぷりとメモページが用意されている。
マンスリーページはない!
創る手帳が面白いのは、マンスリーページが用意されていない点だ。その代わり、ウィークリーページは見開き2週間の、変則的なバーチカル型になっている。これは、「2週間を俯瞰(ふかん)できれば、たいていのプロジェクトは大丈夫。1カ月の俯瞰だと長すぎるし、1日に書ける分量も少なくなる」という小西氏の考えに基づく。
「同じ予定を2カ所に書き写すのは面倒じゃないですか」と小西氏が言う。たしかにその通り、同じ予定をマンスリーとウィークリーの各ページに書くのは面倒だし、実際、見開き2週間だけだと使いにくいかというとそうでもない。それにしてもマンスリーページをなくしたのは思い切った仕様だろう。
見開き2週間のウィークリーページには、ひとつの仕掛けが施されている。それが、予定欄とタスクリストが並んでいるレイアウトだ。
「これが、この手帳で一番やりたかったことです。私は、打ち合わせの前日に、『明日の打ち合わせに何が必要だったかな』と思い出すのがとても苦痛でした。前の資料を引っ張り出すのも苦痛で。それで、次の打ち合わせのスケジュールの横に、その打ち合わせのために必要なことを書くようにしたら、いろいろなことがラクになったんです」と小西氏。
つまり、スケジュールと同時に、そのスケジュールに付随するToDoを一緒に書いておけるようにしたレイアウトなのだ。スケジュールは必ず見る。そこに、ToDoが書かれていれば、思い出さなくてもすぐに作業ができるし、前の打ち合わせの日付のメモを参照すれば細部の確認もできる。
「だから、日付入りのメモも大事。そこに日付を書いておけば後で必ず見ますが、デジタルのメモは書いてしまうと安心して意外に見ないんですよ。でも、メモ用紙がスケジュール管理の手帳と一体化していれば、ちゃんと見るんです」と小西氏。
メモをたくさん取るには、判型がやや小さいのでは? という質問には、「このくらいの大きさに書き切れるくらいにしておきたいんです。邪魔にならない大きさにしたかったし、メモもサイズの制限があるほうが書きやすいんです」という答えが返ってきた。明解である。
三角メモとステッチ罫線でアイデアを導く
メモページは、日付欄があるほかにも、罫線が特殊だったり、三角の線が引かれていたりと、これも、他の手帳とは異なる。「私は横罫派です。文章を書くのに横罫は便利だけど、図や表は方眼の方が便利。それで、方眼のマス目にあたる部分の線を消したステッチ罫線を採用しました。一見、横罫ですが、線が切れている部分に注目すると方眼のように使えます。また、表のように使えるように縦の罫線を入れたり、アイデア出しを簡単にする三角メモが書きやすいように、薄く三角の線も入れました」(小西氏)
小西氏が語る「三角メモ」や、罫線の利用法は、巻頭に詳細な解説が入っている。この巻頭の「創る手帳の使い方」の部分は、著書「すごいメモ。」の内容がコンパクトにまとめられたもので、ここを読むだけでメモの取り方、スケジュールとメモの連動の仕方が分かるようになっている。
「『三角メモ』は便利だし、みなさんにも使ってもらいたいんですが、本に書くだけだと、読んでも実際に使ってくれる人はごくわずか。でも、こうやって手帳にして、メモページに線を引いておけば、もう少したくさんの人が使ってくれると思うんです。もちろん、使わない人の邪魔にならないように薄く入れて、使いたい人は線をなぞって濃くして使ってください、というふうにしました」と謙虚だ。
ユーザーのクリエーティビティーを大事にした手帳なので、機能は豊富なのだけど、押しつけがましくない。それもまた創る手帳の大きな特徴。いろいろ用意したから、気に入った部分を使ってみてください、という姿勢で作られているのだ。
「アフォーダンス(afford dance)と言うのですが、『つまりそうだからそうしてしまう』という意味で、そこに線があれば、その線で何かをすると思うんです。真っ白だと誰も三角の線なんて引きませんけど、書いてあれば引いてみたくなる人が出てくる。どう考えたらいいんだろうと何かが滞っている人が、少し考えやすくなるツールを作りたかったんです」と小西氏。発想や解決策、何かを作っていく作業に使える手帳だから「創る手帳」なのだ。
「メモや予定はパラパラと見せたいんです。それに、リニア(直線的)に進むのではなく、行ったり来たりしてほしい。そうやって何かを作り出しながら、生きているということを感じてほしい」と小西氏は話を結んだ。
創る手帳はかなり多くの要素を盛り込んだ手帳なのだが、それがユーザーに向けて開かれているのが面白い。「ここにこれを書く」といった指定はほとんどなく、好きに使えるようになっていて、その使用例が解説されている。メモとスケジュールを分けることも考えたけれど、シンプルなほうがシステムは使いやすいから、という小西氏の言葉通り、難しくない、アイデア創出のヒントになる手帳としてその完成度は高いと思った。
(ライター 納富廉邦)
[日経トレンディネット 2016年12月2日付の記事を再構成]
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