男性育児参加「くるみん」制度 プラチナ認定100社超
課員の育休取得を談判、残業禁止… 職場改革を推進
「1歳未満のお子さんを持つ男性部下がいますので、育児休業を取らせてください」。伊藤忠商事は2015年から人事・総務部員が各課の課長に直談判で男性部下の育休取得を促す「課長めぐり」を始めた。きっかけは社員調査で00年に9%だった共働き比率が15年、24%まで上昇したことだ。「子どもが生まれた男性は働き方を変えて育児に参加するとともに、上司も意識を変える必要があった」と同部採用・人材マネジメント室の甲斐元和室長は話す。育休の開始後5日を有給化するなどし、年数人だった男性の育休取得者が15年は60人に。取得率は66%に達し、9月にプラチナくるみん認定を受けた。
15年5月に長男が生まれた通信・モバイルビジネス部の清村篤志さん(35)は、上司のすすめで2月に育休を取った。休日を合わせ6連休とし「認可保育園に入れなかった場合に備えて保活をしたり、初めて遠出して水族館に行ったり。一日中子どもと一緒にいる妻の大変さも実感した」。4月に妻が職場復帰してからは、毎朝保育園への送りを担当。妻の代わりにお迎えに行く日は、その予定をスケジュールに入力してメンバーと共有する。「周囲に理解してもらっている」と話す。
働き方改革にも社を挙げて取り組む。午後8時以降の残業は原則禁止。代わりに朝5~8時の「翌日朝勤務」を奨励し深夜勤務と同様の割増賃金を支給する。16年上期の月平均時間外勤務時間は13年10月の導入前に比べ15%も減った。
「女性が活躍できる環境をつくるには、女性だけでなく男性も働き方を変えているか、育児に参加できているかといった複合的な視点が重要だ」と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員は指摘する。国も働き方改革の旗を振るが、一般労働者(パートタイム以外の常用労働者)の15年の月間総労働時間は168.8時間(厚生労働省毎月勤労統計調査)。2年連続で微増した。一方、男性の育児休業の取得率は2.65%(15年度雇用均等基本調査)にとどまり、国が目標とする「20年までに13%」には遠く及ばない。
イコール・パートナーシップの観点で00年から女性活躍や両立支援に取り組む花王。15年度の男性育休取得率は40%、平均取得日数は8日を超えた。育休の最初の5日を有給化し、男性の育児参加を促す取り組みを始めたのは06年。当時はまだ「男性が育児?」というムードがあったというが、「これからは育児に参加したい男性が育休を取れる風土が必要だと導入した」と人財開発部門統括の青木寧常務執行役員は振り返る。育休からの復職セミナーには夫婦での参加を推奨するなど、「少しおせっかいな取り組み」を続ける。「制度だけでなく、運用を現場に浸透させることが大切。そのためには一歩踏み込んだ取り組みが重要だ」と青木統括は話す。
グループ6社がプラチナくるみん認定を受けるみずほフィナンシャルグループは、現状で1.5%にとどまる男性の育休取得率を18年度末までに100%とする目標を掲げた。「育休全員取得は働き方を変え、生産性を上げることにつながる。部長や支店長に毎月対象者と残日数を通知して取得を促すなど、強力に取り組みたい」とダイバーシティ・インクルージョン推進室の犬塚麻由香室長。9月には全社員を対象にした在宅勤務制度を導入するなど、働き方改革も進める。
6月に第2子が生まれたみずほ銀行営業第十七部の次長、小島英史さん(47)は10月末、5日間の育休を初めて取得。育休経験の意義を実感した。「生産性への意識が高まるだけでなく、仕事以外の多様な経験を積むことが仕事の付加価値を向上させ、顧客満足にもつながると感じた。部下にも取ってもらいたい」
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国、高度な取り組み促す 昨年4月に新たな認定制度
「くるみん」は次世代育成支援対策推進法が求める両立支援のための行動計画をつくり、一定の基準を満たした企業を国が認定する制度だ。11月末現在で2600社超が認定を受けている。法改正を経て15年4月、より高い水準の企業を認定する「プラチナくるみん」が誕生した。男性の育児休業取得、労働時間の削減や多様な働き方の整備、女性の就労継続などについて、くるみんより高い水準の取り組みや実績を求める。認定企業は108社。銀行や保険、サービスなどが目立つ。
くるみんをめぐっては、新入社員の女性の過労自殺が起きた電通が認定を受けていたことが問題となった(電通の辞退申し出を東京労働局が11月1日に承認)。「くるみんは行動計画期間内の取り組みと成果を認定するものだが、より適切なものに見直していく」と厚生労働省職業家庭両立課。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子主席研究員は「企業は認定で取り組みをアピールするだけでなく、ハラスメントの防止やコンプライアンス(法令順守)意識を高めるといった『守り』の取り組みも重要」と指摘する。
(女性面編集長 佐藤珠希)
[日本経済新聞夕刊2016年12月19日付]
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