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中央葡萄酒・醸造責任者の三沢彩奈さん

中央葡萄酒・醸造責任者の三沢彩奈さん

日本固有の甲州ブドウから造る白ワイン「甲州」を「世界の甲州」にすべく尽力してきた中央葡萄酒(山梨県甲州市)の三沢茂計社長(68)。地域の先頭に立って活動を続ける一方、中央葡萄酒のワイン造りや経営は、醸造責任者を務める長女の彩奈さん(36)に徐々にバトンタッチしつつある。その彩奈さんは、どう父親からバトンを受け取り、どうやって「世界の甲州」を目指そうとしているのか。彩奈さんに語ってもらった。

女性醸造家はいない、医者になりたかったが

父親の背中を見て育った彩奈さんだったが、子供のころは、家業を継ぐ考えはなかった。

「母方の祖父が医者だったので、小さいころは医者になりたいと思っていました。ワイン造りは、格好いいとは思いましたが、栽培も醸造も現場には男性しかいない。女性の醸造家に会ったこともない。女性は醸造家になれないものだと思っていました」

中央葡萄酒の三沢茂計社長

中央葡萄酒の三沢茂計社長

「考えが変わったのは、大学時代、輸出を始めたばかりの『グレイス甲州』のPRのため、父親とマレーシアの高級日本食レストランを訪ねた時のことです。グレイス甲州を気に入り、毎晩そのレストランで食事をしているという外国人カップルに出会い、『日本を象徴するワイン』と褒め言葉をもらいました。その瞬間、小さいころから祖父や父から聞かされてきた甲州のポテンシャルを確信し、醸造家になろうと決めました」

日本の大学を卒業後、醸造学で世界的に有名な仏ボルドー大学に留学し、本格的にワイン造りを学び始める。その後も、世界最高峰のワインを産出する仏ブルゴーニュ地方や、ワイン新興国として脚光を浴びる南アフリカで勉強や修業を重ね、帰国。2008年、中央葡萄酒の醸造責任者に就任した。

「醸造家になろうと決めてからも、最初は世界で勝負するという考えはありませんでした。そこが、元商社マンで最初からグローバルな視点を持ってワイン造りに臨んだ父と違う点だったと思います。でも、海外で醸造の勉強をするうち、ワインは世界中で飲まれるグローバルなものだということを実感。一転、甲州を世界に広めたいとの思いが強まりました。今は逆に、自分の造った甲州が地元だけで飲まれる姿は、想像できなくなりました」

海外で勝負、苦情ゼロ目指す

「実際に輸出を始めたら、海外で要求されるレベルの高さを痛感しました。例えば、ブショネ(不良コルクが原因の不快なにおい)の苦情が1本でも出たら、ペナルティーを要求してくる輸入業者もいます。以前は、100本に3本ぐらいの確率でブショネが出るのは仕方ないという考えでしたが、ブショネは絶対に出さないという考えに変わりました。それで、コルクの仕入れ先も、信頼できるコルク業者に変更しました。ブショネ率はまだゼロにはなっていませんが、かなり下がっています。早飲みタイプのワインの栓は、ブショネの心配のないスクリューキャップに切り替えました」

醸造責任者に就任して以降も、作業のない冬から春にかけては、季節が反対の南半球に飛び、現地のワイナリーで栽培や醸造の修業を積んだ。ワイン造りは1年に1回しかできない。1年に2回経験すれば、経験値は2倍になる。

「山梨というワイン産地を歴史に残したい」との夢を抱く

「山梨というワイン産地を歴史に残したい」との夢を抱く

14年、彩奈さんの手掛けた「キュヴェ三沢 明野 甲州2013」が、世界的なコンクール「デカンタ・ワールド・ワイン・アワード」で日本ワイン初の金賞を受賞した。翌15年には、「グレイス甲州プライベート・リザーブ2014」が同じく金賞を獲得。今年はスパークリングワインの「グレイス・エクストラ・ブリュット 2011」と「グレイス甲州プライベート・リザーブ2015」が、金賞のさらに上のプラチナ賞を、同時受賞した。

「課題はまだいっぱいあります。甲州はこれまで、日本の高い醸造技術のおかげで味わいがよくなった面もありあます。でも、よいワインを造るには、よいブドウを育てることが何より大切。より素晴らしいワインを造るには、畑でできることがもっとあるのではないかと思っています。アイデアはあるので、これからいろいろと試していきたいと考えています」

栽培と醸造の責任者に加え、海外市場を担当するなど、三沢社長から経営の権限移譲が徐々に進む。

ワイン産地全体を盛り上げないと

 「オーナーシェフのレストランでも、シェフとしては優秀でも経営に失敗したという話を聞くことがあります。ワイナリーも同じで、ワイン造りと経営は全く別物だと思っています。私は父のようにビジネスの経験がないので、そのプレッシャーもあります」

「ワイン造りでは、これまで自分だけで突っ走ってきた面もあります。ワイン造りはそうやってもできないことはありませんが、会社は、自分だけが突っ走っても社員がついてこなければ経営は成り立ちません。時には自分を抑えることも必要かもしれない。そうした様々なことを、これからしっかりと勉強していかなければならないと考えています」

「将来的には、山梨というワイン産地を歴史に残したいという夢があります。グレイスワインは今、海外の大きな賞をもらったりマスコミにたくさん取り上げられたりと、たまたまうまくいっていますが、やはり産地全体の盛り上がりがなければ、山梨を歴史に残すのは難しいのではないかと思います。父がこれまで頑張ってきたように、日本ワイン全体を盛り上げるために何ができるか、考えていきたいと思っています」

(ライター 猪瀬聖)

「キャリアコラム」は随時掲載です。

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