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雇用保険改正、シニアの味方に 失業給付手厚く

2016/12/18

働く高齢者に大きな影響がある雇用保険の改正が年明け1月に迫ってきた。65歳以降に転職した人も雇用保険の対象になるほか、加入者は失業給付の支給回数制限がなくなり、介護休業給付金も利用できる。公的年金の先細りが懸念されるなか、上手に制度を使えば家計の強い味方となりそうだ。

厚生労働省によれば、60歳以上の常用労働者は2016年6月時点で324万5千人に達した(グラフA、従業員31人以上規模企業)。長寿化に加え公的年金への懸念などから右肩上がりで増えている。政府は高齢労働者の就労を支援する様々な政策を打ち出している。「特に来年1月の雇用保険改正は65歳以上の労働者にとって有利な点が目立つ」と社会保険労務士の池田直子氏は強調する。

現在は週20時間以上働き、31日以上の雇用見込みがある人は雇用保険に入るのが原則だが、65歳以上で新規雇用された人は加入できない。65歳前から雇用保険に入って同じ会社で働く人は加入し続けられるが、65歳未満に比べるといくつかの制約があった。

■64万人が新規に

来年1月以降は加入時の年齢による制限はなくなり、労働時間などの条件を満たした人はだれでも雇用保険へ加入できる。厚労省の試算では約64万人が新規加入する見込みだ。この改正で、まず失業給付が大きく変わる。65歳以上の加入者が失業すると、賃金の50~80%の30~50日分を高年齢求職者給付金としてもらえる。現在は一回だけ受け取れるが、来年から回数制限はなくなる(図B

さらに失業給付の対象になるための期間条件が短くなる。64歳までは基本的に「離職前2年間に被保険者期間が12カ月以上ある」ことが必要だが、65歳以降は「同1年間に被保険者期間6カ月以上」と2分の1に縮む。

給付額は賃金によって変わり、算定基準の上限で計算すると「現在は6370円×30~50日分」(池田氏)。約19万~32万円が一時金として受け取れ、しかも非課税だ。現役世代の失業給付である基本手当を受け取ると厚生年金は停止するが、65歳以上は年金に影響がないことも働くシニアにはメリットだ。

今回の改正で失業給付以上に関心を集める項目もある。介護休業給付金だ。マンション管理会社で働く神奈川県在住の男性Aさん(64)は「妻も高齢で将来の介護が心配。来年から65歳以上も介護休業給付金がもらえると聞いて、万が一のときの助けになると期待している」と話す。

介護休業給付金は家族の介護のため休業した際、雇用保険に加入し一定条件を満たす人が受けとることができる。現在は65歳以上の新規雇用で雇用保険に入っていない人はもちろん、同じ会社で働き続けて雇用保険に加入している65歳以上も対象外だ。

来年1月から65歳以上も対象になるだけでなく、介護が必要な家族1人につき原則1回・最長93日だった休業も最大3回・計93日まで分割取得できるようにもなる。こうした改正に先立ち、今年8月には給付水準が賃金の40%から67%に引き上げられた。

このほか資格講座などの受講費用の原則20~60%(金額上限あり)を雇用保険が補助する教育訓練給付金の対象が広がり、65歳以上で雇用保険に加入する人も一定条件をクリアすれば利用可能になる。さらに64歳以上の雇用保険料は2019年度分まで免除される。来年から65歳以上で雇用保険に新規加入した人も免除の対象なので、当面はコストの負担がない。

■年金減少なだらか

ただAさんは「雇用保険に入るため週20時間以上働くと、今の職場では年金が減るのが心配だ」と話す。雇用保険の改正とは別に今年10月、従業員501人以上の大企業では社会保険への加入基準が改正され、従来の「週30時間以上労働」が「週20時間以上労働で、年収106万円以上など」になったからだ。

60歳以上も厚生年金に加入して働くと、本来もらえるはずの厚生年金が減る可能性がある。在職老齢年金と呼ぶ仕組みだ。年金月額に、月給与と1年間の賞与を勘案した総報酬月額相当額を合算した額が一定以上になった場合に厚生年金が少なくなる。最低賃金が高めの地域の大企業で雇用保険に入る働き方を選べば、厚生年金が減る例が多くなるとみられる。

ただ池田氏は「65歳以上なら年金の減少はあまり心配しなくていいのでは」と話す。在職老齢年金の仕組みは65歳未満と65歳以降で違い、65歳以降は一定の収入があっても厚生年金は減りにくい(表C)からだ。原則65歳から受給する老齢基礎年金は働いても影響は受けない。

65歳以降も厚生年金に入れば、将来の年金が増える利点もある。池田氏は「厚生年金への加入が原則できなくなる70歳まで雇用保険に入るなら、社会保険にも入って働く方が総合的に有利になりやすい」とみている。(堀大介)

■健康保険にも留意 負担見極める必要
60歳以降に働くとき雇用保険や年金と並んで考えておきたいのが健康保険だ。会社員として働くなら勤務先の健保組合に加入し、保険料は会社と折半負担が原則だ。60歳代で厚生年金に入れば、75歳で後期高齢者医療制度に移行するまでは勤務先の健保に加入することになる。
厚生年金に入らず働く場合は、元の勤務先の任意継続被保険者制度または国民健康保険のどちらかを選ぶのが一般的だが、いずれの場合も保険料は高くなりやすい。任意継続は会社と折半負担ではなくなるし、国保は加入人数によっても保険料が変わる。専業主婦の妻を扶養していた人が国保に移ると負担は高まる例が多いという。

[日本経済新聞朝刊2016年12月14日付]

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