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これからやってくる「65歳定年時代」。もしかすると70歳まで働くことが当たり前になるかもしれない時代を迎えつつある今、「40歳」という年齢は社会人としてようやく後半戦がスタートする年齢にすぎません。

いま40歳だとすると残り25年、50歳でも15年という仕事人生を、いかに満足度の高いものにするかは、人生そのものを充実したものにするために不可欠なテーマです。最も価値のある「時間」という資産を自分自身のためにどう使うのかを考えるきっかけにしていただければ幸いです。

「あの時は失敗だった」 40代で後悔できる人は幸せだ

「生きている時間」に占める「働いている時間」の割合が3割前後(1日あたり8時間前後)だという人にとって、仕事への満足度は、人生そのものの満足度に対しても、非常に大きな影響度を持つものだと思います。

「就職」という仕事人生のスタートから「リタイア」という仕事人生の終わりまでの限られた時間で、どれだけ満足のできる仕事ができるか?ということは、年齢を重ねるほどに自分にとっての重要度や周囲への影響度が増していくのではないかと思っています。20代の頃の失敗よりも、30代以上で経験・スキルが高まってからの後悔のほうが、より大きく心に残るのはそのためかもしれません。

「32歳の時に同期の中で一番早く課長に昇進して、調子に乗りすぎた。なんとかがんばって出世しようという気持ちで部下に対して厳しすぎるマネジメントをしてしまい、何人もの部下を退職やメンタルで追い込んでしまった。あの当時のことを思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになります」(47歳・元証券会社 営業部長)

「100年以上続く老舗の卸商社を、(5代目経営者だった)自分の力不足で倒産させてしまった。先代への反発もあり、取引先との関係を無視して強引なコストカット・利益重視にかじを切りすぎて、結局一番大切な顧客からの信頼を失ってしまった」(44歳・食品製造卸 元社長)

「3年前、経営方針への違和感を覚え新卒から育ててもらった会社を退職したが、今思うと、あの辞め方はひどかったなと思います。転職したからこそ、比較ができるようになったし、役割が変わったからこそ、時代の流れで収益構造が変わっていく業界の中で、前の会社がいかにベストを尽くしていたかということがようやくわかってきました」(41歳・アパレル 事業部長)

ごく一例ですが、転職相談をさせていただく中で、上記のように過去の仕事への後悔を語られるケースがあります。業務遂行の中で失敗したこと、若気の至りで判断を間違ったことなど、多様な心残りがあります。ただ、これらの方々は、まだ仕事人生の途中で反省点や課題に気付いているだけ幸せなケースです。迷惑をかけた人に対する心の痛みや、仕事上の失敗に対する反省はあったとしても、気づいた瞬間からやり直しがきき、再度チャレンジできる時間が残っているからです。

百パーセント完璧に、判断ミスも失敗もしない人はいないと考えると、自分にとって重みのある後悔や反省をすることがあるとすれば、できれば早めに経験しておいたほうがよいのかもしれません。逆に、一番厄介なのは、いよいよ仕事人生からの引退が迫ったタイミングで、後悔を残してしまうことだと思います。

65歳-現年齢=残り時間から仕事計画を割り戻す

後悔のない仕事人生をやりきるためには、やはり戦略が必要です。最初にやるべきことは、自分にとって「後悔がない状態とは何か?」を明確にしておくこと。このゴール設定ができていないと、その時々の優先事項や環境に振り回されて回り道をしてしまうことになりかねません。

「この仕事をしていて本当によかった」

「自分なりに自分にしかできない価値を発揮できた」

「多くの人に喜んでもらえて幸せだった」

必ずやってくる、仕事人生のラスト一日に、自分はどんな充足感を得たいのか? 引退の瞬間の湯上がり感を想定したら、次は、そこに向かうために必要な要素、足りない要素を特定し、大まかなスケジュールに落とし、日々の行動で自分なりに工夫していくことを実行していくという手順です。

仮に、65歳をフルタイムで働く定年だと考えると、「65歳-現在年齢=残年数」が、自分が仕事で使える残り時間になります。いま40歳だとすれば25年間、50歳の人でも15年間という、かなりまとまった時間がそこにはあります。20代や30代と比べると、確かに選択肢は大きく減っているかもしれませんが、過去に体験した反省や後悔を生かして、もう一度十分にチャレンジできるだけの時間です。

「すでに社内で出世できるタイミングを逃してしまった」

「転職の失敗で、仕事を変わりすぎたために専門キャリアが身に付けられなかった」

「今さらゼロからチャレンジできるわけがない。家族も守らないといけないし、夢みたいなことは考えないように言われたことをやるしかない」

早い人では、40歳前後くらいから上記のようなトラウマを抱えて、「もう今さら自分のキャリアは変えられない」と思いこんでいる方がおられます。40代後半以降になると、なおさら強いあきらめ感を持った方が増えてきます。

確かに学生時代のような青天井の選択肢はないかもしれませんが、約20年(平均寿命から考えると人生の25%相当)という仕事時間が残されていることを考えれば、あきらめが早すぎると言わざるを得ません。

ポイントは「長所伸展」 強みを生かす選択肢を洗い出す

たとえばプロ棋士のように上限年齢が明確な世界や、資格取得や訓練に時間がかかる業界や職種は、確かに若い世代に与えられた選択肢です。しかし、40歳からのキャリア計画にもまだまだ多くの選択肢はあります。

最大の問題は、求人の需給による制約です。基本的に、多くの企業は、ピラミッド構造や文鎮形と言われる構造になっていて、経験=年齢が上がっていくとともに構成人数が減少していきます。そのため、年齢が高くなればなるほど、あるいは入社段階でマネジメント階層以上の役職にこだわってしまうとどうしても募集案件や1求人当たりの採用予定人数が減少する傾向が顕著になります。

また、たとえばベテラン営業マネジャーを募集する「営業支店長」の求人があった場合に、需要が少ないわりに希望者が多いことから、応募が集まりやすく、相対比較のハードルも上がっていきます。選択肢は存在していても、そこにたどり着く確率が低いことが、ミドル世代の転職特有の壁となっています。

その壁を突破する一つ目の方法は、どんな企業にアプローチすべきか、という方向性の見立てがあります。

転職サイトなどで、求人情報そのものは表面的に見えているのですが、その裏側でどんな人がどれくらい応募しているかという相場観がわからない。そのため、どうしても応募者間の競争がこちらには見えない(募集企業側にしか見えない)ので、緊張感が高まらず、履歴書や職務経歴書の書き方などの準備がおろそかになってしまうケースがあります。

自分自身の質的な優位性を売り込める領域はどこか? 自分の過去の経験を振り返って、自分が持つ能力の中で、相対的に強みといえるものは何か? 「スキル」や「経験」といった可視化しやすいものだけではなく、「仕事の進め方」や「周囲の人とのかかわり方」「かかわってきた顧客や市場の特性」など、定性的な観点も含めて、自らの売りになりそうな長所や強みをピックアップし、その強みが求められそうな企業、地域、業界、仕事にはどんなものがあるかを洗い出すことです。

「自分がやってきたことを生かしたい(それ以外考えられない)」とか「いまさら新しいことはできない」というサンクコスト(埋没費用)は、ミドル世代の方々の可能性を恐ろしく狭めてしまっています。自分が経験したことのある職種や、出身業界という枠に縛られずに、フラットに強みを生かせる場所を探すことで、大きく可能性が広がると考えています。

壁を打ち破る二つ目の方法は、絶対的な活動量です。

年齢が上がるほど、椅子は少なくなり、競争率は高まります。30代前半の転職活動を基準に考えると、40歳では2倍、45歳を超えると4倍の活動量が必要になるというのが現状です。

たとえば自分だからこそできた仕事や、誰かに喜んでもらえた仕事、会社で評価されたエピソードなど、自分の中にある宝物の成功体験を掘り返して再発見し、仕事人生の最後のタイミングに後悔しない働き方に、勇気をもってチャレンジしていただきたいと願っています。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は12月23日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
黒田 真行(くろだ・まさゆき)
ルーセントドアーズ代表取締役
「ミドル世代の方々のキャリアの可能性を最大化する」をテーマに、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営している。1989年、関西大学法学部卒業、リクルート入社。1988年より転職メディアの制作・編集・事業企画に携わる。2006~2013年まで転職サイト「リクナビNEXT」編集長。2013年リクルートドクターズキャリア取締役などを経て、2014年ルーセントドアーズを設立。
35歳以上の転職支援サービス「Career Release40」
http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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