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スタバのうますぎる黒板画 陰に「謎の画伯」17人衆

日経デザイン

2016/12/18

日経デザイン

 スターバックスの店舗に入ると必ず目に入るのが、コーヒーやケーキ、フラペチーノやサンドイッチといった、お薦めの商品が描かれた黒板のイラストだろう。チョークペンで描かれた美味しそうに見えるイラストはすべて、各店舗のイラストが得意なパートナーたちの手によるものだ。

店舗のイラストは、モーニングタイムなど3つの時間帯で異なる。蛍光色は使わず、指定のアースカラーのチョークペンで描く。このイラストは、セレオ八王子北館店の布施菜麻氏の作品
描く商品は決まっているが、どんなフレーズを入れるか、どんな背景を一緒に描くかは自由。店舗ごとに個性あふれるイラストが出来上がる。このイラストも、布施氏の作品

 これらのイラストはどれも個性にあふれており、来店客とパートナー(スターバックス店舗でのアルバイトと社員の総称)のコミュニケーションツールとしても一役買っている。

 商品だけでなく四季折々の風景や「深まるチョコレート」などといったキャッチフレーズも美しいフォントで入り、商品を選ぶ際に思わず笑みがこぼれるだろう。来店客から「あの絵の商品ください」と注文が入るなど、各店舗の売り上げにも貢献しているという。

■全国から選ばれし17人の「GAHAKU」

 しかしイラストを描くパートナーは、必ずしも美術系の教育機関を出ているわけではない。なぜ、スターバックスの店舗のイラストのレベルは高いのか。イラストがうまいパートナーが偶然、いただけなのか。

 実はそうしたイラストの描き方を支援する人たちがスターバックスにいた。それが「GAHAKU」と呼ばれるパートナーたちである。

GAHAKUである布施氏は、「カップに氷が入っていて、しずくが滴っているというようなリアルさで商品を表現するだけでなく、朝顔やひまわり、海の波など、四季折々の風景を一緒に描いたりするのもいい」と話す(写真:丸毛透)

 スターバックスは毎年、全国の店舗から応募されたイラストを社内コンテストで評価。優秀なパートナーをGAHAKUとして表彰している。1000店舗以上ある中で、GAHAKUはわずか17人。この人数で全国をカバーし、イラストを指導している。昨年(2015年)の場合、応募者は約250人いたというから、約15倍の狭き門である。

 正式な職位ではないが、任命されると全国のパートナーにイラストの描き方を指導する立場になる。社内のホームページに自分が描いたイラストのお手本をアップして「この商品はこう描いたら良い」「このイラストを描く手順はこうすべき」といったコツを伝授するほか、各エリアの店舗に出張して直接に指導することもある。

 どの商品をどんなテーマで描くかは本社側から通達されるが、どのように描くかはGAHAKUの裁量次第。同じテーマでありながら、全く描き方が異なるケースも多いという。

 任期は1年だけで、いったんGAHAKUになったら、その後は応募できない仕組み。GAHAKUの制度は2013年からスタート。それ以前も店舗に手書きのイラストはあったが、「イラストを描く人にスポットが当たるように」との狙いで始めたという。

■ネット上で各店を指導、描きに行くことも

 手書きのチョークペンにこだわる理由は、各店舗のオリジナリティーを出すことと、手書きの温かさを演出したいからだという。コーヒーが持つ自然の素朴さを表現するため、使用するチョークペンの色の種類はスターバックスが事前に指定している。強烈な色合いのイラストではなく、アースカラーなどの淡色系が多いのはそうした理由だ。

 JR八王子駅にあるスターバックスのセレオ八王子北館店のパートナー、布施菜麻氏もGAHAKUの1人で、2015年に選出された。現在、西東京や山梨県のエリアにある100店以上を担当。ネット上で指導するほかに、新しい店舗ができるとイラストを描きに行くこともある。

スターバックスの社内サイトに掲載された、イラストの描き方を示した画像や解説。実際に描くパートナーの身になってGAHAKUが指導している

 GAHAKUの選考基準は、上手く描けるだけではなく、「みずみずしく描ける」「リアルに描ける」「速く描ける」といった何らかの個性を持っている点。布施氏が得意とするのは「対象をリアルに描けること」だと言う。しかも時間をかけず、30分ほどで1つのイラストを完成させる。

 布施氏は美術系学校の出身者だが、必ずしも美術の勉強をした人が選ばれるわけではない。イラストの趣味が高じてGAHAKUになった人もいるそうだ。

 重要なポイントは、来店客の目に留まるようにインパクトを出すこと。そのため、多少デフォルメするのも描くコツの1つだと言う。

ほかの店舗のGAHAKUが描いたイラスト
どのイラストも個性的だが、来店客に訴求すべきポイントはそれぞれきちんと押えている

 GAHAKUになっても、特別な手当てが出るわけではない。それでも布施氏は「新しいことにどんどん挑戦して店舗を盛り上げたいし、コーヒーやスターバックスが好きなので、GAHAKUに選ばれたことでさらにやりがいが出てくるようになった」と語る。

 スターバックスのブランド力は、現場の1人ひとりのパートナーたちのモチベーションに支えられていると言っても過言ではない。それを象徴している1つが、各店舗のイラストなのだろう。

(ライター 山本裕美子)

[日経デザイン2016年9月号の記事を再構成]

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