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息子が自転車事故の加害者に 親の責任は… 弁護士 志賀剛一

2016/12/15

皆様、初めまして。弁護士の志賀剛一と申します。身近な法律問題を取り上げ、判例などを基に解説するコラムの連載をさせていただくことになりました。何とぞよろしくお願い申し上げます。初回は子どもが自転車事故の加害者になってしまったというケースです。

Case1:息子が自転車で事故を起こし、人にケガをさせてしまいました。我々夫婦は日ごろから自転車の運転には気をつけるよう指導してきたつもりです。それでも被害者の方に対して親が責任を負うのでしょうか。

■親が責任を負う場合とは

息子さんが何歳なのか、どういう事故によって相手にどのようなケガをさせたのかによって事情が異なってきます。息子さんが成人であれば、親が責任を負うことはありません。

本来は加害者本人の自己責任が原則ですが、民法は712条で「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」と規定する一方、714条で「その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と定めています。

民法が規定する「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備え」た者とは判例上、小学校を卒業する程度の年齢、すなわち12歳ぐらいと解されています。ただし、子どもの成長の程度により異なるので、一概には決められません。未成年の子どもの行為について一律に親が責任を負うわけではありませんが、子どもが小学生ぐらいまでであれば、監督者として親の責任が生じる可能性が高いといえるでしょう。

■自転車でも高額の賠償金

もし親が責任を負うとなった場合、その額はいくらぐらいなのでしょうか。これは被害者のケガの程度にもよりますが、後遺症が残るようなケガをさせてしまった場合、とんでもない高額な賠償金が命じられる場合があります。

2013年、小学校5年生の運転する自転車に衝突された被害者が加害児童の親に損害賠償を請求した事案で、実に9500万円もの賠償金の支払いを命じた判決が神戸地裁で出ました。不幸なことに、被害女性は寝たきりで意識が戻らない状態となってしまった事案でした。

自動車運転中の交通事故でこのレベルの賠償金は決して珍しいことではありませんが、自転車の事故かつ親の監督責任が認められた上での高額賠償でしたので、世間の注目を集めました。

自動車事故では少なくとも自賠責保険の加入が義務付けられており、さらに任意保険にも加入していることが多いでしょうが、自転車の場合は保険に加入している人はまだまだ少ないのが実情です。従って、このような高額な賠償金が命じられても現実的に支払えるのかという問題があります。

■問われる「親の監督義務」

前述のとおり、監督義務者がその義務を怠らなかったときや、義務を怠らなくても損害が生じ得なかったときは親も責任を免れることになっています。

しかし、親の監督義務は「何か特定の行為をやめさせるべきだった」という注意義務違反とは異なり、子どもの日常生活や行動すべてが対象となる広範で包括的なものなので、不可抗力に近いような事情が認められない限り、免責を受けるのは非常に難しくなっています。

神戸地裁の自転車事故の事案で、親側は「子どもに対する指導・監督をしていた」と主張しましたが、「指導や注意が功を奏しておらず、監督義務を果たしていない」として親の主張は退けられてしまいました。従って、「日ごろから自転車の運転には気をつけるよう指導してきた」という程度ではなかなか責任を免れるのは難しいように思われます。

では、どういう場合に免責が認められるのでしょうか。04年、小学校の校庭で小学5年生がゴールに向けてフリーキックの練習中、蹴ったボールが門扉を越えて道路へ転がり、バイクで走行中の80代男性が転倒して足を骨折、寝たきりとなり約1年4カ月後、死亡したという事件がありました。

亡くなった男性の遺族が、ボールを蹴った小学生の親を訴えたところ、第一審と第二審はいずれも遺族の訴えを認め、小学生の親が監督義務を怠ったとして賠償を命じました。これに対し、最高裁は15年、校庭でのサッカー練習など日常的な行為で子どもが人に損害を与えた場合について「危険を予想できたなどの特別な事情がない限り、親が監督義務を尽くしていなかったとはいえない」と判断し、「通常のしつけをしており、事故も予想できなかった」と結論付け、遺族側の逆転敗訴となりました。免責が認められるのは極めて特異なケースに限られるということがおわかりいただけるかと思います。

■年齢によって変化する責任能力

子どもが18歳、19歳という年齢になると、「自己の行為の責任を弁識するに足りる」と判断されるため、親に責任が生じる場合はほとんどないといえます。19歳の少年が犯した強盗致傷事件について、監督が行き届かないとして親の責任を否定した最高裁判例もあります。

では14歳、15歳ぐらいだとどうでしょうか。責任能力自体は備わっているといえるでしょう。しかし14歳、15歳に賠償の資力があるとは思えず、親が一切責任を負わないということになると被害者救済ができなくなります。

そこで最高裁は、15歳の少年が強盗殺人を犯した事件で、未成年者に責任能力が認められる場合であっても、15歳の少年の不法行為によって生じた結果と、監督義務者(親)の義務違反の間に因果関係を認める場合は、監督義務者について民法709条(故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う)に基づく不法行為が成立すると判断しています。

つまり、加害者本人が責任能力を欠く場合に親などが責任を負うとした民法714条は適用しないけれども、いわゆる「親の子育て失敗」そのものが民法709条で定める不法行為に当たると判断したわけです。

■日ごろの教育が大切

極端な事例ばかり紹介しましたが、子どもが同級生を殴ってしまったというような故意による暴力、あるいは冒頭の例のように過失による自転車事故で他人にケガをさせてしまったようなケースは日常的に起こりうることであり、皆さんもよく耳にする話ではないでしょうか。

これらの場合、子どもが小学校卒業前であれば、ほぼ例外なく親が賠償責任を負うことになります。日ごろのしつけや教育が大切であるということですね。

志賀剛一(しが・こういち) 志賀・飯田・岡田法律事務所所長。1961年生まれ、名古屋市出身。89年東京弁護士会に登録。2001年港区虎ノ門に現事務所を設立。民・商事事件を中心に、企業から個人まで幅広い事件を取り扱う。難しい言葉を使わず、わかりやすく説明することを心掛けている。08~11年は司法研修所の民事弁護教官として後進の指導も担当。趣味は「馬券派ではないロマン派の競馬」とラーメン食べ歩き。

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