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ディズニーと劇団四季の新挑戦 『ノートルダムの鐘』

2016/12/9

 2016年12月11日(日)、劇団四季の新作ミュージカル『ノートルダムの鐘』が、東京・浜松町の四季劇場[秋]にて幕を開ける。同作は、文豪ヴィクトル・ユゴーが1831年に記した代表作『ノートルダム・ド・パリ』を、ディズニー・シアトリカル・プロダクションズがミュージカル化したものだ。2014年に米国で初演され、劇団四季により日本版が今回初めて上演される。

12月11日、四季劇場[秋]にて開幕、2017年6月25日まで上演。7月から京都、18年4月から横浜で上演される。写真は、カジモドが外の世界への憧れを吐露する『陽ざしの中へ』を歌う場面。(c)Disney(写真:阿部章仁)

 物語の舞台となるのは15世紀末のパリ。ノートルダム大聖堂に閉じ込められながらも、外の世界にあこがれ、いつか自由になることを夢みているカジモドと、彼をひそかに世話する大聖堂大助祭フロロー、同警備隊長フィーバス、そして3人が愛してしまうジプシーの娘エスメラルダがおりなす複雑な愛憎の物語だ。

 四季はこれまでも、『ライオンキング』や『アラジン』といったディズニーミュージカルを上演しており、ディズニーとの提携作品は、本作で6作目となる。しかし、本作はこれまでの提携作品とは大きく異なる点が2つある。

鐘楼に住み、鐘を突き続けてきた孤独な青年カジモド(『ノートルダムの鐘』)(c)Disney(写真:上原タカシ)

 ひとつは、四季が手掛けるディズニーミュージカル作品はニューヨーク・ブロードウェイでの開幕後に日本上陸を果たしているが、『ノートルダムの鐘』は米国カリフォルニア州サンディエゴでの初演後、ニュージャージー州にて上演。ブロードウェイでは公演が行われていない作品なのだ。しかし、劇団四季では「人間と運命の相克という題材は四季が創立以来掲げる作品のテーマ」(劇団四季吉田智誉樹社長)と、上演を決断した。

 もうひとつ従来と異なるのは、ファンタジー色が強いファミリー向けのディズニー作品とは一線を画す、シリアスな内容であること。「新たに大人の観客の獲得が目指せるのではないか」(吉田社長)という狙いもある。

■アニメーションとは異なる結末を用意

誠実で優しいエスメラルダにカジモドは強くひかれていく(『世界の頂上で』)(c)Disney

 楽曲のベースとなるのは、1996年公開のディズニーの長編アニメーション『ノートルダムの鐘』だが、舞台化にあたってはユゴーの原作を重視。ディズニー作品のメロディーメーカーであるアラン・メンケン(『アラジン』『美女と野獣』など)によるキャッチーな楽曲を取り入れながらも、人間が抱える明と暗の様相を丁寧に描いた、“大人のための演劇作品”に昇華させている。

 舞台版の演出を務めるスコット・シュワルツは、「シニカルかつ悲観的なユゴーの世界観は、ディズニー作品としては取り上げにくい領域かもしれません。しかしその中核には闇を排除するような希望の光があり、それを表現したいと思ったのです」と語る。ユゴーの原作に立ち返り、結末もアニメーションとは異なるものを用意した。

 出演候補者は、16年4月に行われた、劇団内外から選考する公開オーディションにて決定。1600通を超える応募の中から、1役に2~3人の出演候補者が選出された。劇団四季では開幕まで出演キャストがわからないことが特徴のひとつ。候補キャストはしのぎを削っている。

 11月下旬に行われた稽古場取材では、54年ぶりに11月に東京都心で初雪が観測されたという荒天の日であったにもかかわらず、多数のマスコミが詰めかけた。取材者用の椅子は、稽古開始前には満席に。新作への関心の高さをうかがわせた。

ジプシーの踊り子・エスメラルダのダンスに誰もが夢中になる(『タンバリンのリズム』) (c)Disney(写真:阿部章仁)
聖職者の立場にありながらエスメラルダに魅了されてしまったフロローが葛藤を歌い上げる(『地獄の炎』)(c)Disney

■身体的特徴を演技で表現

 稽古では、カジモドが外の世界への憧れを歌う『陽ざしの中へ』をはじめ、3つのシーンが披露された。それぞれのシーンの後、シュワルツは俳優たちを集め、キャラクターの心情について事細かに伝える。たとえば、鐘楼の中で一生を過ごすものだと諦念していたカジモドは、この『陽ざしの中へ』を歌う過程で、外の世界へ飛び出すことを決意する。シュワルツは「それぞれ異なるポイントで構わないので、そのポイントを明確に見えるようにしてほしい」と3人のカジモド候補役に指示を出していた。

 原作を読んだことのある人はご存じだろうが、本作は主人公のカジモドが身体的特徴を持っている。しかし、舞台版ではこれを特殊メークを使わずに表現する。4月のオーディションの際も、シュワルツは、カジモド役の受験者に「カジモドの身体的特徴は、特殊メークではなく、俳優が演技で表現するのが本作のコンセプト。また彼は耳も聞こえにくく、発語に関しても障害がある。自分なりにカジモドを表現して歌ってほしい」とリクエストしていた。

カジモド役候補の俳優、左から田中彰孝、海宝直人、スコット・シュワルツ(演出)、飯田達郎(c)Disney(写真:上原タカシ)

 出演候補者の1人である田中彰孝は、稽古場取材後に行われた取材会で「オーディションの際、君たちなりに考えてチャレンジしてみてくれと言われ、驚きました。すごく緊張しましたが、その瞬間から僕たちの中にカジモドの血が流れ始めたと感じています」と語っている。

■観客も「会衆」の1人として体感してほしい

 演出家が徹底したのは、“人間発信”の演劇だ。シンプルな演出を通して観客と物語の距離を縮め、観客にも「会衆(かいしゅう)」の1人として物語を体感してほしいという。

 「社会の中で他者、つまり自分たちの仲間には入らないものに出会ったとき、どのような関係性を築き、他者をどのように受け止めるのか──。他者を排除する傾向が強まる現代において、とても残念なことではあるが、本作のテーマはますます時代にフィットしてきている。完成された演劇作品を通して、ユゴーの小説を読み解いているような体験を味わってほしい」(シュワルツ)

 なお、現時点では、17年6月25日までのチケットを販売。同年7月から京都、18年4月から横浜での公演が決定している。世界的文豪の原作の世界にアプローチするとともに、まさに今世界が置かれている状況をテーマとした『ノートルダムの鐘』。エンターテインメント的要素と社会的意味を併せ持つ、大人のミュージカルといえそうだ。

(ライター 長谷川あや)

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