長時間労働で心身に不調 受けられる保障は?
働き女子のお金レスキュー隊!
大手広告代理店・電通の新入社員の女性が、長時間労働による過労から自殺に至った悲しい事件が起きました。その後、同社に家宅捜索が入ったことも大きく報道されました。今回は、長時間労働から身を守るための知識と、万が一、心身を病んでしまった場合に受けられる保障について解説します。
「残業」、この意味をまず確認しておきましょう。働く皆さんは、会社との労働契約で働く時間が決められており、上限は1日8時間、週40時間です。この時間を超えて働くことを、残業(時間外労働)と言います。
従業員が残業をするには、あらかじめ労使で書面による協定を結び、労働基準監督署に提出します。この協定書は、労働基準法36条に規定されているため「36(サブロク)協定」と呼ばれています。該当部分が就業規則に書かれているはずですから、確認してみましょう。
厚生労働省は、36協定があっても、残業は週15時間、月45時間、年360時間が上限と定めています。しかし、ここには抜け道が。36協定に「特別条項」を付けると、1年に6カ月まで、限度時間を超えた残業が認められるのです。例えば「経理部は決算業務で忙しい4月と5月は、月60時間までの残業を認める」などのケースです。本当に忙しい短期間だけならいいのですが、1年のうち6カ月も限度時間を超えれば、労働環境は厳しいでしょう。
また、従業員10人未満の会社は、そもそも就業規則を作る義務がありません。このため、中小企業では36協定の締結がないまま、長時間労働をしているケースもあると思われます。
会社に言われて、実際に働いた時間より短い時間を申告した経験はないでしょうか。しかし残業時間は、タイムカードなどで打刻された時間ではなく、実際に働いた時間が問題になります。手帳にメモをする、会社を出る時に会社のパソコンから自分にメールするなどして、労働時間の証拠を残しましょう。
過労による心身の不調は労災認定される可能性も
2013年、日本は国連の関連委員会から、長時間労働や過労死の防止対策強化を求める「勧告」を受けました。
月100時間以上の残業をした人は、会社に申し出れば、医師の面接指導を受けることができます。しかし月100時間未満でも、不調を感じたら早めに病院に行き、代休や有休を取りましょう。
長時間労働が月80時間などに及ぶ場合、会社の安全配慮義務違反となるケースがあり、「不調は長時間労働が原因」と認定される可能性もあります。これがいわゆる労災認定です。精神疾患による労災申請数は、15年度には過去最多の1515人となり、472人が認定されました。
労災に認定されると、病院での治療費が、完治するまで無料になります。また、出社できずに有休も使い果たした場合、復職するまでの間、休む前の給与の約8割が国から支給されます。
病気で休んでいる間の保障には傷病手当金もありますが、給付金額が給与の3分の2、支給期間も最長1年半。労災に認定されたほうが、手厚い保障が受けられるのです。
さらに、重い精神障害が続き、認定条件に当てはまる場合は、国から「障害年金」を受け取ることができます。厚生年金に加入している人は、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」の2種類が受け取れ(障害等級3級は障害厚生年金のみ)、金額は障害の等級によって年約54万165万円(休む前の年収が400万円、16年度の場合)。申請窓口は、年金事務所です。労災の給付金と同時に受け取ることも可能で、その場合は労災の給付金が一部減額されます。
労災も障害年金も、申請しないと受給対象になりません。健康に働くことが一番ですが、万が一に備えて、こうした制度の存在を知っておきましょう。
今月の回答者
北村庄吾さん
1991年に国家資格者の総合事務所「BraiN」を設立。新刊『制度を知って賢く生きる 人生を左右するお金のカベ』(日本経済新聞出版社)が発売中。給与計算実務能力検定2級の試験を、2017年3月20日(月・祝)に全国主要都市で実施予定。http://jitsumu-up.jp/
[日経ウーマン 2017年1月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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