寝たきりでも温泉旅行 民間介護サービス多様に

ヘルパーが付き添う介護旅行(SPIあ・える倶楽部)
ヘルパーが付き添う介護旅行(SPIあ・える倶楽部)

介護が必要な状態になったとき、介護サービスを安く利用できる介護保険制度は力強い味方だ。しかし制度の財政は厳しくなる一方で、多様化する利用者の要望に応える余力はない。そこで政府は介護保険に頼らない全額自費サービスの普及に力を入れ始めた。保険外サービスとはどのようなもので、費用はどの程度かかるのか。利用の際の注意点はどこだろうか。

「妻が喜んでいるのがわかるし、介護している私も気分が晴れる」

東京都で暮らすAさん(77)は、年に数回、寝たきりの妻(60)を連れて温泉旅行に出掛ける。脳血管疾患が原因で今の状態となった妻は、介護保険で最重度の「要介護5」に認定されている。筋肉が固まるのを防ぐために温泉が有効と聞き、出掛けることにしたのだが、旅行に介護保険は使えない。

探してみると、介護技術と旅行知識を学んだトラベルヘルパーを派遣するサービスがあった。妻の入浴には2人のヘルパーが必要になる。旅館には貸し切り風呂などがあることが条件だ。関東の温泉地に3泊4日の旅をすると、費用は総計で60万~90万円になった。Aさんは「うちは一番費用がかかる例。本人の状態によってはもっと安く済むだろう」という。

状態急変に対応

ヘルパーを派遣したのは介護旅行会社SPIあ・える倶楽部(東京・渋谷)。年約500件の旅行を手掛ける。ヘルパーを1人派遣する料金は交通費や宿泊費なども含め、1日当たり平均6万円程度。篠塚恭一社長は「旅行や外出はできないと思っている人が多い。こんなサービスがあることも知ってほしい」と語る。

看護師の派遣サービスもある。ホスピタリティ・ワン(東京・港)は、入院している高齢者の一時帰宅の際に看護師を付き添わせるサービスに力を入れる。

介護保険にも看護師が要介護者宅を訪問するサービスがあるが、入院中の人は使えない。一方で、入院中の高齢者は家に帰って「家族と食事したい」「ペットの世話をしたい」といった希望を持つ人も多い。

そこで状態の急変にも対応できる看護師を派遣するサービスを始めた。1時間6千円で4~6時間ほど使う人が多い。同社の高丸慶社長は「一時帰宅すれば、退院して家で療養していけるかどうかといった判断もしやすくなる」と話す。

介護保険は基本的に介護が必要となった人の世話をする仕組みだ。介護必要度に応じたサービスを受けて、利用者はその費用の原則1割を負担するだけで済む。ただし、どんな世話でもするわけではなく、メニューは決まっている。

旅行などはメニューにはない。通常の介護保険サービスとは明らかに別物だ。このような費用負担が全額自費になるのはわかりやすい。これに対し、介護保険からのサービスと一体的な保険外サービスもある。

SOMPOケアメッセージは都内の一部地域で「在宅老人ホーム」というサービスを実施している。自宅にいても老人ホームに入居したときと同じように生活を丸ごと支えるとうたう。

夜間も含めて1日に数回、決まった時間にヘルパーがやって来てトイレや食事の介助などをしてくれるほか、緊急連絡にも対応する。ここは介護保険の対象。このほか、食事の宅配や掃除や洗濯、ちょっとした困り事への対処などの生活支援サービスも請け負う。この部分は保険外だ。

介護保険でもヘルパーが掃除や洗濯をしてくれるが、要介護高齢者が一人暮らしの場合だけなどに限られ制約が大きいので、そこは保険外にした。同サービスで介護保険の1割負担は要介護度によって1万2千~3万8千円。保険外の生活支援や配食はそれぞれ1カ月2万円、約4万1千円(1日3食の場合)。合計すると月7万~10万円だ。

内容確認が必要

このサービスを使っている「要介護3」のBさん(91)は「今、不便はない」と話す。食事は同居する息子(64)が用意してくれるので、費用は1割負担部分が約2万円と生活支援の2万円だけで、合計月4万円。生活支援サービスとしては今のところ、食事の相談ぐらいしか利用していないものの、息子は「老人ホームに入るのに比べれば安く済み、安心感もある」と満足げだ。

保険外サービスの値段はその内容によって千差万別。ただ介護サービスに詳しい日本総研の斉木大シニアマネジャーによると、「生活支援サービスなどは月単位で言えば2万~3万円程度が相場」のようだ。

政府内には、保険外サービスからの収益で介護職員の待遇改善ができるとの期待もあり、介護保険サービスと保険外サービスをさらに一体化する「混合介護」を進める考えがある。しかし一体化が進むほど、「どこまでが保険内でどこからが保険外かが曖昧になり、料金トラブルなどが多発しかねない」(都内の介護事業者)との懸念も強まる。

保険外サービスの契約時には「事業者が重要事項説明書をつくり、利用者への説明と確認を義務付けることも考えるべきだ」(斉木氏)との声も上がる。今後、様々な保険外サービスが身近になりそうだが、利用者やその家族は内容や料金について十分納得のうえ利用することが欠かせない。(編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2016年12月7日付]

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