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面前DV、子ども苦しむ 親同士の争いで心に傷

2016/12/6 日本経済新聞 夕刊

乳幼児と接し、子育ての楽しさと難しさを学ぶ中学生(11月2日、千葉県市川市)

児童虐待が増え続けている。2015年、全国の児童相談所(児相)が対応した児童虐待の件数は初めて10万件を超えた。中でも、親が子どもの前で配偶者を殴ったり、怒鳴りつけたりする「面前ドメスティックバイオレンス(DV)」による子どもへの心理的虐待の増加が目立つ。夫婦げんかが高じて起きることもあり、知らず知らずに虐待の当事者になっているかもしれない。最新の動きを追った。

児童虐待と聞くと、子どもを殴る、食事を与えないなど、直接子どもに関することを思い浮かべ、自分には関係ないと考えがちだ。しかし、面前DVは身近に潜む。

育児や仕事などの不満と怒りを配偶者にぶつけたことはないだろうか。「この役立たず」「死んでしまえばいい」などと罵声を浴びせたり、平手打ちをしたり。夫婦だけならけんかと言えなくもないが、親が毎晩激しく言い争う姿を子どもが目撃していたら……。

ある自治体の相談窓口に母親とやって来た小学校低学年の男児は、父親が母親に暴力を振るう場面などを見続けてきた。「暴力」という言葉を聞くとこわばり、こぶしを固く握り続けていたという。「DVの光景が頭から離れず、ふさぎ込むほか、自分のせいで両親の仲が悪くなったと自己嫌悪に陥る子もいる」(上原さん)

面前DVが起きる背景には「子育ての不安やストレスを夫婦間で共有できないというコミュニケーション不足がある」と上原さん。悩みを共有できないから言葉などの暴力で不満を発散しようとする。「親なら誰でもしてしまう恐れは十分にある」という。

「自分も虐待をしてしまいそう」という親の声を受け、防止のため独自の取り組みを始めたのは大阪府茨木市。12人の親が週に1度集まって話し合う場を設けた。「夫が育児をせずイライラする」など、夫婦関係の悩みも対象だ。面前DVを含む児童虐待の予防につなげる。

また東京都江東区でも「児童虐待の根本には育児への不安がある」(子育て支援課)と、今年9月から、3歳から未就学児の保護者を対象に子育て講座を始めた。育児への不安を解消し、夫婦間の言い争いや子どもへの暴力を無くそうとの狙いだ。

応募者は当初予定の32人を超え、定員を40人に拡大。講座では子どもが服を着替えない、買い物時に走り回るなど、特定の場面を想定し、どう対応すべきかを学ぶ。

子どもは大人に言われたことを完璧にはできない。親がストレスを抱えていると、その大前提を忘れ、つい声を荒らげたり、手を出したりし、時に徐々に虐待へとエスカレートすることも。担当者は「小さな成功を積み重ねさせ、子育ての楽しさを再確認してもらう」と話す。

近い将来に親となる中高生に、子育ての大切さや命の尊さを教え、児童虐待の芽を摘もうという動きもある。

11月2日、千葉県市川市立高谷中学校の柔道場。3年生の生徒29人と乳幼児を連れた14人の母親たちが車座になって話した。「子育ての楽しいことって何ですか」「子どもができて変わったことは」と中学生たちが、子育て中の女性たちに次々に質問する。

市川市が2004年から始めた、中高生と乳幼児とのふれあい交流会での一幕。男子生徒は「話せない赤ちゃんを理解するのは大変なことと感じた」と話す。

家庭には行政が介入しづらい面もある。特に夫婦げんかと面前DVの区別は難しい。家族社会学に詳しい法政大学の斎藤嘉孝教授は「茨木市の取り組みを参考に、『夫が子どもの面倒をみないときはどうすべきか』など、夫婦の関係に絞った講座を開いてはどうか」と話す。

■心理的虐待、最多に

全国の児相が対応した児童虐待の件数は15年、10万3260件(速報値)と、10万件を超えた。90年の集計開始以来で最多。警察が今年上半期(1~6月)に虐待の恐れがあるとして児相に通告した児童数も、2万4511人となり、過去最多を更新した。

件数を種類別でみると、心理的虐待が4万8693件で最も多い。今年上半期の通告児童数でも、面前DVは1万1627人で前年の同時期と比べ6割増えた。

04年の児童虐待防止法の改正により、面前DVは「心理的虐待」と認定された。児相に虐待を通告する基準も緩まり、「虐待を受けた子ども」から「虐待を受けたと思われる子ども」に。結果、心理的虐待の件数が増え、児童虐待の約半数を占めるようになった。

武蔵野大学の上原さんは「ここ数年、警察もDVのあった家庭に子どもがいれば、児童虐待として通告するようになっている」と話す。

(田村匠)

[日本経済新聞夕刊2016年12月6日付]

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