ムスリムも食べられる「ハラール」って何?

ハラールエキスポジャパン2016の様子。6か国から90の企業が出展した
ハラールエキスポジャパン2016の様子。6か国から90の企業が出展した
豚肉、アルコールを口にしてはならないなど、食について厳しい戒律があるムスリム(イスラム教徒)。イスラム教の戒律によって許された食べものなどを「ハラール」と呼ぶが(許されていないものは「ハラーム」)、ムスリムの訪日客が急増している今、日本でも適切に対応しようという動きが始まっている。飲食店やおみやげの対応、ムスリムに人気のラーメンなどを調べていくと、そこには食の信頼性全体につながる大きな市場があった。

2020年には訪日ムスリム客が100万人に

11月22日(火)、23日(水・祝)、「ハラールエキスポジャパン2016」が東京都立産業貿易センター台東館にて開催された。ハラールとは、イスラム教の戒律によって許された食べものや化粧品の呼称。同イベントは2014年に第1回が開催されて以来、着実に来場者数を増やし、3年目となる今回は過去最高となる6698人を動員した。客層は日本人が7割、ムスリムが3割ほど。当日は日本で初開催となるムスリムのファッションショーが行われたこともあり、若い女性のムスリムが目立った。

日本初となるムスリムのファッションショーも開催。ヒジャブと呼ばれるスカーフで髪を覆い、体のラインを見せないことが特徴

近年ムスリムの訪日客が急増しており、日本でのハラール対応が喫緊の課題となっている。シンガポールでムスリムの観光調査を手がけるCrescentRatingによれば、2013年の訪日ムスリムは30万人ほどだが、2020年には年間100万人に達するという。

ムスリム客は店頭に掲げられた「ハラール認証」の言葉やマークを頼りにレストランを選ぶ。しかし、現在の日本ではハラール認証を行う団体が複数存在し、それぞれが独自の基準で認証を発行している。個人の主観による勝手な認証を行うレストランもあり、明確な統一基準がないことに不満を抱く訪日客も多い。

ムスリムのためのレストラン統一基準が策定へ

こうした状況を受け、22日(火)の同イベント内で「日本ムスリム評議会(仮称)」の設立が発表された。「ムスリムフレンドリーレストラン認定(仮称)」という統一基準を策定し、ムスリム対応の飲食店向けの国内基準の統一に向け動きだす。

ハラールエキスポジャパン2016を主催し、日本のハラール情報を発信するハラールメディアジャパン代表取締役の守護彰浩さんは、これまでの日本の状況について「たくさんの機会を逃していた」と話す。

「日本に数多く存在するハラール認証機関でもコーランの解釈にはそれぞれ違いがあり、様々な情報が錯綜(さくそう)する中で、対応をちゅうちょする飲食店は数多くありました。しかし、最近では何を使用しているかの情報をしっかりと開示することでムスリムのお客様の信頼をつかむお店が増えてきています。和食やラーメンなどの日本食はムスリムからの関心も高いため、今後上記のような成功事例を展開したり、日本のハラール認証機関が手を取り合い飲食店をサポートをする動きが増えれば、ますます需要は伸びてくると考えています」(守護さん)

おみやげ業界ではハラール認証をあえてつけない企業も

レストランの基準が統一される半面、おみやげなどの商品について特に統一基準は設けられていないが、商品については成分表示である程度の判断ができるため、大きな問題とはなっていない。同イベントに出展していたよつば乳業やマルコメは、マレーシア、シンガポール2カ国の政府から認証を受けた日本ハラール協会の認証を取得。キユーピーは子会社のキユーピーマレーシアが製造したものを輸入販売しており、マレーシア政府からの認証を取得している。

マルコメのハラール認証の味噌。左側にハラール認証マーク、右上に「ハラール認証」の文字があるが(青で囲んだ部分)、全体としては「無添加」が目立つパッケージだ

「ハラールエキスポジャパン2016」には、ムスリムのツアー客向けのお弁当や、おみやげとして人気が高い抹茶を使った和スイーツやもみじまんじゅうなども出展されていた。

居酒屋のワタミはハラール認証の弁当を販売する日本SI研究所と業務提携。ワタミ自身はアルコールを提供するためレストラン単位での認証を受けることは難しいが、旅行客向けの弁当サービスという形でハラール市場に参入している
行政、大学などで構成される任意団体、かごしまファンデーション「ムスリム・ウェルカム・プロジェクト」。ムスリムに向けて、鹿児島県内の食をPRした

一方で、ハラール認証マークをあえてつけない企業もあるという。ハラール認証が周知されていない現在は、マークをつけることで「ムスリムのための商品」と誤解されてしまい、これまで購入していた非ムスリム客が買わなくなる可能性があるからだ。そのため、ハラール認証を取得しながら大々的には公表していない企業もある。

ハラール認証はとっていないけれどムスリムに愛されている商品もある。

ハラール認証ではないが、ムスリムに大人気のラーメン

Funfairが販売する「Samurai Ramen UMAMI」はムスリムに人気のラーメン。「黄金の国」を思わせる金色に筆文字で「侍」と描かれたパッケージの表面には、豚、鶏、牛、ワインなどのアイコンに大きく×印がつけられ、肉とアルコールを使用していないことをアピールしている。「ハラール」ではなく「アニマルフリー、ノンアルコール」をうたった商品だ。

「Samurai Ramen UMAMI」。ハラール認証を取得してはいないがハラールでも食べることができ、表面のアイコンでアニマルフリー、ノンアルコールをアピールする

Funfair取締役の白澤繁樹さんによれば「当初はベジタリアン向けに作っていたが、販売するとムスリムの方から人気があった」。

「ムスリムの方は情報を確認してから買うことが浸透しています。ハラール認証マークをつけなくても、情報をしっかりと開示すればちゃんと手にとっていただけることがわかりました」(白澤さん)

担々麺風のしっかりとした味付けだが、動物由来の成分を使っていないため後味はあっさり。当日のブース前には、笑顔でラーメンを食べるムスリムの姿もみられた。

「Samurai Ramen UMAMIは動物由来の成分を使っていないため、夜に食べてももたれない。日本でも健康志向が高まっているので、ムスリムだけでなく日本人女性にも市場を広げていきたいと考えています」(白澤さん)

ハラールは「ムスリム“も”食べられるもの」

実はハラールを選ぶのはムスリムだけとは限らない。

動物由来の成分を使っていなければ、ハラールだけでなくヴィーガン(動物製品を一切口にしない生活を送る人たち)でも食べることができる。このように、ハラールにはベジタリアンやヴィーガンといった他のエシカル(食に対する倫理的な基準)な人の基準と重なる要素もある。

「まだ多くの誤解がありますが、ハラール商品はムスリム“が”食べるものではなくムスリム“も”食べられるもの。他の食の禁忌を持った人の基準と重なるものもありますし、当然私たちでも食べられます。たとえばムスリム対応最先端の台東区では、一般のお客様にもハラール商品を提供しながら、ハラールであることに全く気づかないレベルで対応をするお店も出てきています。“ムスリム専用”にしない対応が今後の課題です」(守護さん)

ユーロモニター・インターナショナルによれば、ハラールおよびヴィーガンの飲食品市場は、2020年にかけて世界で年平均5%の割合で拡大する見込みだという。また、素材が明示されているため、「中国や欧米では安全性が保証された食べものとしてハラール商品を選ぶ人もいる」(守護さん)。

日本ではまだ食の禁忌はなじみが薄いが、2020年の東京オリンピックが近づくにつれ、ハラール商品を目にする機会は増えていきそうだ。

(ライター 小沼理=かみゆ)