パナソニックがエンターテインメント関連ビジネスを新たな収益の柱に据えようとしている。設備納入にとどまらず、イベント主催者と二人三脚で企画から運営まで関わる事業に取り組む。映像や音響といった最新技術を最大限生かし、祭典に華やかさを添える。東京五輪・パラリンピックでも一役買いそうだ。
11月23日、仙台市の楽天koboスタジアム宮城で開かれた東北楽天ゴールデンイーグルスのファン感謝イベント。「選手にここだけの話を聞きましょう!」。司会者がファンに呼びかけると、三塁側スタンドの上部など、スタジアムに設けた計9枚の大小のスクリーンが連動して映像や文字を次々と映し出した。
選手の表情がアップになったかと思えば、別のスクリーンには「がんばろう東北」の文字が躍る。華やかな演出に、球場に集まった約2万人がわっと盛り上がる。
観客の目を特に引いたのが外野席後方に設置した大型ディスプレーだ。縦10.2メートル、横25メートルで、発光ダイオード(LED)を使う。
国内の野球場では、メインディスプレーはスコアボードにしか使われないことが多い。楽天koboスタジアムでは、スコアを表示したままチームのキャラクターを動かしたり、チームロゴを映したりして試合を盛り上げる。
「様々な映像を重ねるだけでなく、動かす演出もできるのは、国内でここだけ」。運営を手がけるパナソニックシステムネットワークスの正木宏之担当課長は胸をはる。放送用のライブ装置を駆使し、ファンがツイッターに投稿したメッセージをほぼリアルタイムでディスプレーに載せる演出も売りだ。
最新のレーダーシステムと連動しており、ディスプレーに打球の飛距離や軌道、速度を瞬時に表示する。プロの高度な技術を視覚で表現してファンの興味をかき立てる。
楽天koboスタジアムはパナソニックにとって「エンタメ技術」の粋を集めた実験場だ。映画撮影に使う高性能カメラ3台を含む計32台の中継カメラを設置した。4Kカメラを使うのは日本のプロ野球で楽天が初めてだ。
五輪で採用されたビデオサーバーを導入したほか、最新の特殊効果装置を使って球種や飛距離をすぐにスマートフォン(スマホ)などに送る。1球ごとにボールの軌道を線で示すほか、ストライクゾーンを四角で囲むなど視覚に訴える加工をして瞬時にSNS(交流サイト)に配信できる。
演出の心臓部は一塁側スタンドの一画を占めるコントロールルームだ。約10億円を投じて2016年に完成した。
部屋の裏側には、無数の光ケーブルが張り巡らされている。部屋にはテレビ局のようにたくさんのモニターが並び、パナソニックの技術者がせわしなく機器をいじる。映像からデータ管理、監視カメラまでスタジアムを一括管理する。
映像や音響の演出に加え、試合の推移や対戦成績、ピッチャーの球種などの情報もコントロールルームで分析する。その結果は球場のディスプレーに掲示したり、スマホに配信したりする。
楽天野球団(仙台市)の渡辺太郎コンテンツ部長は「相乗効果を出せるように一体運営に切り替えた」と語る。パナソニックが機器の提供だけでなく、球団と一緒に演出まで手がけることで、国内屈指の「わくわく」する野球場に生まれ変わった。
楽天の今期の観客動員数は約162万人と過去最高を記録した。パナソニックの提案により、スマホで料理やドリンクを注文すれば並ばずに買えるようにするなど、ファン目線の取り組みも実を結んだ。東日本大震災の爪痕が今も残る東北を少しでも盛り上げようと、パナソニックのエンタメ技術が一役買っている。
パナソニックはここで蓄積したノウハウや実績を武器に国内外の野球場で観客を盛り上げるビジネスを広げていく。
野球場をはじめとするスポーツ・娯楽施設に機器を納入したり、イベントを企画・運営したりするエンタメ関連事業。パナソニックは15年度に約2500億円の売上高をあげた。連結売上高に占める比率は約3%だ。
榎戸康二専務は「企業間取引を太くするには、エンタメ事業の強化が要る」と強調、1年の半分をエンタメビジネスの本場である米国出張に充てるほど力を入れている。国内外で実績を積み、18年度には同事業の売上高を3000億円規模に増やす考えだ。
パナソニックはエンタメ関連事業の柱の一つであるスポーツビジネスに新たな広告モデルを導入する取り組みも始めた。
大阪府吹田市の吹田スタジアムで10月末、248枚のディスプレーが柱や壁に張り巡らされた。広告や試合映像などを流し、観客とスタジアムの一体感を演出して観客動員や広告効果にどう影響するかを実証実験する。
競技場でスポーツビジネスの実証実験をするのは国内で初めてだ。パナソニックシステムネットワークスの中山正智課長は「日本のスポーツは企業広告の意味合いがまだ大きく、IT(情報技術)への投資がしにくい収益構造」と分析する。
例えば米国だと一つのスタジアムに2000~3000枚のディスプレーを設置することもざらにあるという。投資額は増えるがその分、広告効果も大きく、ビジネスとして十分成り立つ。エンタメ投資で試合やイベントが盛り上げれば、観客動員も増えて広告の価値も上がる――。そんな好循環を目指す。中山氏は「吹田のノウハウを蓄積して他の地域にも展開していく」と意気込む。