元旦ツイートで20万冊売れたノート 地方発ヒット商品
無名だった街の印刷所のアナログ技術と商品が、SNSというデジタルの力で一気に拡散──。2016年を代表する地方発ヒットの一つが、"おじいちゃんのノート"として知られる「水平開き 方眼ノート」(中村印刷所)だ。一般的なノートはページを開くと、折り目の中心部が膨らんでしまう。これを防ぐ技術で特許を取得し、どのページを開いても完全に水平になるようにした。中心部が膨らまないので見開き1ページとして使えるうえ、コピーの際に真ん中が黒く写りにくいのも利点だ。
自信作だったにもかかわらず、14年10月に発売した当初は一向に売れず、数千冊の在庫の山が積み上がっていた。風向きを変えたのが、製作者の孫娘が16年の元日にツイッターに投稿したつぶやき。「うちのおじいちゃんのノート、費用がないから宣伝できないみたい」と写真付きで投稿したところ、「こういうノートが欲しかった」との声が殺到した。使い勝手の良さがSNSで広がり、10カ月で20万冊以上が売れた。中村印刷所は「ジャポニカ学習帳」で有名なショウワノートとの協業も決定。名実ともに全国区になる足がかりをつかんだ。
SNSの拡散力が"地元愛"に火を付けると、思わぬ全国ヒットが生まれる。それを実践したのが約30年も前のギャグ漫画で、15年12月に復刊された『翔んで埼玉』(宝島社)だ。埼玉県民が東京都民に虐げられる世界を描いた内容が話題を呼び、初版の2万5000部は発売前の受注で"完売"。重版を経て、3カ月で55万部を突破する大ヒットになった。
『翔んで埼玉』に光が当たったきっかけこそテレビ番組だったが、それを加速させたのはSNS。内容に衝撃を受けた人々がツイッターなどで拡散して一気にクチコミが広がり、ネット書店などに注文が殺到した。3割が埼玉県内で売れているなど、郷土愛が薄いとされる埼玉県民が書店に走ったことも話題になった。
撮りたくなる「ギャップ」で拡散
同じく県民性をネタにしながらも、SNSの力も借りて全国区に躍り出た一つが、丸徳海苔(広島市)が15年10月に発売したのりの菓子「ワルのりスナック」だ。目を引くのが、こわもてのイラストの横に「おどりゃ、なにしょおるんならぁ!」(何してるの、元気?)といった広島弁が添えられた巻紙。これを外すと少女漫画のような優しい笑顔のイラストと、「ホントはやさしい広島の味」という言葉が現れる。思わず「撮りたくなる」パッケージが、写真SNSのインスタグラムなどでも拡散。「言葉が怖く聞こえるが実はいい人という、広島の県民性をパッケージで表現した」(丸徳海苔)という面白さも相まって、15万袋を売るヒットにつながった。
九州での知名度が抜群のアイスメーカー、竹下製菓が15年8月に発売した「これで朝食アイス」も、朝食とアイスというギャップの面白さがSNSで広まった地方発ヒットだ。グラノーラやドライフルーツを用いた棒状のミルクアイスで、いわばアイス版のフルーツグラノーラ。15年8月、九州の一部地域での販売をフェイスブックで告知したところ12万件ものアクセスがあり、首都圏での販売を求める書き込みも相次いだ。これを受けて関東などでも販売を始めると、完売する店舗が続出した。
この他、石川県の銭湯が独自開発したアイスキャンディ「金沢五彩アイスポップ」など、地方の味にSNSが火を付けて全国区になるケースも相次いだ。
16年は地方の鉄道路線が見直された年でもあった。その筆頭が北海道新幹線。計画決定から40年以上を経て開業した道民悲願の路線は、東北や北関東から函館へのアクセスを劇的に改善。函館への観光客を大幅に増やした。
観光列車も地方に人を呼んだ。"走る美術館"として話題になった「現美新幹線」は、4月の運行開始から半年で約1万8000人が利用。過半数が首都圏からの旅行者だったという。この他にも、今年に入って西武鉄道や富士急行、長良川鉄道などが「レストラン列車」を次々に運行開始。「鉄旅」が鉄道ファンだけのものではなくなり、「手段」ではなく「目的」として楽しむ土壌が一般に広がった年でもあった。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2016年12月号の記事を再構成]
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