英女王の苦悩『ザ・クラウン』 GGで作品賞・女優賞
2017年1月8日(現地時間)、第74回ゴールデン・グローブ賞授賞式が開催され、テレビの部では『ザ・クラウン』がドラマ部門の作品賞を受賞。エリザベス2世女王を演じたクレア・フォイが女優賞を受賞し、合計2部門での受賞を果たしました。
オンライン動画配信サービスのネットフリックスが、2016年11月4日から配信を始めた『ザ・クラウン』は、英国制作のオリジナルシリーズ。同社としては例がないほど重厚なタッチで英国王室の内幕を描き、本気度がうかがえる傑作に仕上がっています。
1947年、英国のエリザベス王女と、エディンバラ公爵フィリップとの結婚式から始まる本作は、冒頭からバッキンガム宮殿や当時のロンドンの街並み、衣装や美術、ロケーションに、目を奪われます。物語は、やがて25歳にして父親であるジョージ6世が亡くなり、エリザベス2世として即位し、悩み葛藤しながら成長していく姿を描いていきます。
王族の苦悩をリアルに浮き彫り
題材からすると、いわゆる女子ドラマのようにも思えますが、想像以上に骨太な作り。愛のために王位を捨てたウィンザー公(エドワード8世)や、エリザベスの妹マーガレット王女の大恋愛の一部始終も描かれますが、ゴシップ色は薄く、王族の苦悩をリアルに浮き彫りに。主演のクレア・フォイは、聡明で、責任感があり、国民に尽くそうと努力する一方で、平凡な幸せを望む等身大の女性の悲しみも伝えて共感を抱かせます。
同時に、女王と内閣、教会との政治的な駆け引きも密に描かれており、歴史もの、政治ドラマの面白さもあります。とりわけ、チャーチル首相はシーズン1で大きなウエイトを占めており、演じるジョン・リスゴーの渾身(こんしん)の演技は圧巻です。
時代劇でありながら、古い価値観と闘い、伝統を守りながら新しい時代を切り開いていこうとするエリザベス2世のイメージは、驚くほどに現代性を兼ね備えています。作風といいテーマ性といい、他社作品ですが、米国を筆頭に各国で大ヒットを記録した英国ドラマ『ダウントン・アビー』に通じるものもありますが、誰もが知る人物にスポットを当てたところが、より万人の興味を引く題材と言えるでしょう。
マーケティングの巧みさもさることながら、ネットフリックスのブランド力を確固たるものにする秀作シリーズの誕生とあって、ゴールデン・グローブ賞での2冠も納得の結果です。
英国のエリザベス2世女王の人生を、王室の愛憎劇と政治を絡めて描く。クリエイターは、映画『クィーン』や『フロスト×ニクソン』の脚本家ピーター・モーガン。製作総指揮兼エピソード監督には、『リトル・ダンサー』のスティーヴン・ダルドリーほか。主演は、BBCドラマ『ウルフ・ホール』のクレア・フォイ。夫フィリップ役は、『ドクター・フー』シリーズの11代目ドクターのマット・スミス。ネットフリックスでシーズン1全10話が全世界同時配信中。
(ライター 今 祥枝)
[日経エンタテインメント! 2016年12月号の記事を再構成]
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