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リーダーの母校

「背中を見せられる関係」築く原点 松本大氏の開成愛 松本大・マネックス証券会長が語る(下)

2016/12/12

マネックス証券の松本大会長(52)が熱く語る母校・開成中学・高校(東京・荒川)の思い出。前半では、生徒の個性や価値観を尊重する教育方針が、現在の松本氏の生き方に影響を与えたと語ったが、開成の学びはそれだけではなかった。後半は、開成へのさらに熱い思いを語る。

<<(上)返事は『おう』だ!先輩の洗礼 開成、運動会の伝統

■東大在学中、開成時代の同期と学習塾を開いた。

東京大学入学後しばらくして、別の大学に進んだ開成時代の同級生から、塾を始めるので手伝ってほしいと頼まれ、一時期、塾を経営していたことがありました。開成時代はそんなに親しいわけではありませんでしたが、大学時代、1年半ぐらい一緒に暮らし、その間、友人同士を超えて兄弟のような強い信頼関係が生まれました。赤の他人でもこれほど強い信頼関係を築くことができるんだ、こういう付き合い方ができるんだと、その時思いました。

でも今振り返ると、そうした人間関係の築き方、付き合い方というのは、開成時代の6年間で知らず知らずのうちに身に付いたことだと思います。小学生でも友達関係は築けますが、中学、高校という人生で一番多感な時期を一緒に過ごし、遊んだりけんかしたりして築いた人間関係というのは、はるかに深いものです。例えていうなら、背中を見せられる関係ということでしょうか。背中を見せるというのは、無防備になるということですから、それだけ相手を深く信頼しているということです。

開成時代に、他人ともそういう付き合い方ができるということを学んだ経験は、その後の私の生き方にも大きな影響を与えました。例えば、このマネックス証券を仲間と立ち上げた時もそうですが、ふつうの友達関係から会社を作ることもできるし、ふだんの仕事上でも、相手によっては深い人間関係を築くこともできる。それが可能だということを知ったのは、ビジネスをしていく上でも大きかったと思います。

■大学卒業後は、金融の世界でキャリアを積んできた。

「一度もあったことのない後輩でもOB回のボランティアをちゃんとやってくれる」と話す

7年くらい前に、私が言い出しっぺになり、開成OBの金融関係者で作る、「金融開成会」という会をつくりました。今年9月に開いた2年に一度の総会には、下は20歳代から上は75歳ぐらいまで約500人が集まり、盛大な会となりました。ただ、会と言っても、きちんとした組織ではないので、毎回、人集めや会場の確保が大変です。

でも、後輩に声を掛けてボランティアをお願いすると、何とか総会が開けてしまうのです。一度も会ったことのない後輩でも、お願いすると、ちゃんとやってくれる。これも、開成での6年間に、運動会や様々なイベントを通じ、みんな、いい意味で社会性をたたきこまれたおかげではないかと思います。自分を多少犠牲にしてでも、組織のために奉仕しようとか、そういう気持ちが開成OBには強い。

ただ、その奉仕の精神をなかなか母校のために発揮できないのが、開成OBの欠点です。みんな開成愛は持っているのですが、母校のために行動を起こそうとしない。だから、他の名門校のようなしっかりした同窓会組織もなく、寄付金も思うように集まりません。金融開成会をつくった目的の一つは、開成の置かれている現状を少しでも多くのOBに話をして認識してもらい、開成愛を行動に移してもらうことです。ちなみに、金融開成会の総会で余ったお金は、毎回、開成に寄付しています。

■現在は、開成の評議員や、創立150周年に合わせた高校校舎建て替えのための寄付委員会のメンバーも務める。

少子化や公立高校の巻き返しに加え、最近は、開成に入っても東大は目指さず、米国の大学に進学する生徒も出てきているなど、社会の価値観も多様化しています。これからの時代、そうした変化に対応できず、アイデンティティーを失った高校は、必ず淘汰されていくと思います。大きな環境変化への対応が必要になっている時に、もっとOBに母校の将来に危機感を持ってもらいたい。そう強く思っています。

開成はクラゲのような学校です。どういう意味かというと、開成は、武蔵高校のような強力な創業家も持たなければ、慶応高校の福沢諭吉のようないまだに求心力を発揮する存在もいない。また、筑波大学付属駒場高校のような国の後ろ盾もない。要するに、体全体を支える背骨のない無脊椎動物のような高校なのです。だからこそ、OBが結束することが必要なのです。

私個人にとっては、開成は、「母校」というよりは「母港」のような存在です。

今も2カ月に1回、同じ店で、同期が集まり飲み会を開いています。メーリングリストで通知し、実際の参加者は毎回、だいたい十数人ですが、たまに、それまで一度も顔を出さなかった人が顔を出すことがあります。でも、お互いに余計な詮索はせず、まるでひんぱんに会っているような感じで、普通に飲んで普通に会話をして時間を過ごします。そして、その人は、いつの間にか、また顔を出さなくなる。

おそらく本人に何かあって、ふとみんなの元に戻りたくなったのではないかと、私は勝手に想像しています。それはまるで、長旅を終えた船が母港に戻り、そして一休みして再び航海に出るようなイメージです。戻りたかったらいつでも気兼ねなく戻れる場所を後輩たちのためにも残したい。そのために何かできることはないかと、日々考えています。

インタビュー/構成 猪瀬聖(ライター)

前回掲載「返事は『おう』だ!先輩の洗礼 開成、運動会の伝統」では、入学早々、目の当たりにした進学校の意外な側面を語ってもらいました。

「リーダーの母校」は原則、月曜日に掲載します。

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