飲み過ぎた朝は 胃を休める具なし味噌汁
年末年始の食べ過ぎ・飲み過ぎ 即効リセット術(1)
忘年会や新年会での食べ過ぎ、飲み過ぎで、翌日の朝に胃もたれや胸焼けで悩まされたことがある人は多いのではないだろうか。少しでも早く、この不快な症状から解放されるには、どうすればよいのだろうか。
胃もたれと胸焼けはどちらも、食べ過ぎやアルコールの取り過ぎによって、胃で食べ物を消化するための胃酸が過剰に分泌されて、胃が炎症を起こすことで生じる。ただ症状は異なり、胃もたれの場合は、消化できていない食べ物が胃の中に残り、「胃が重く感じる」「おなかが張っているように感じる」といった不快感をもたらす。特に脂っこい食べ物は消化に時間がかかるため、胃に大きな負担がかかりやすい。
一方で胸焼けは、「胸の真ん中あたりがチリチリと焼けつくように感じる」「胸が締めつけられるように痛む」といった食道周辺の不快な症状になる。こちらは、胃酸の過剰分泌に加えて、猫背の姿勢だったり、腹圧を入れ過ぎたりしたことによって、食道と胃のつなぎ目にある「下部食道括約筋」が開き、胃液や胃の内容物が食道に逆流してしまうことで起こる。肥満の人も下部食道括約筋が開きやすいという。
不快な朝は具のない味噌汁がオススメ
忘年会の食べ過ぎによる一時的な胃もたれや胸焼けは、多少時間がかかっても、食べ物が胃から十二指腸、小腸へと排出されていけば、たいていの場合は自然に症状が治まるという。消化器関連の疾患に詳しい慶應義塾大学医学部の鈴木秀和教授は、「胃もたれや胸焼けは急性の胃炎による症状で、その時点で内視鏡検査を行えば小さな点状の出血が確認されることもあるが、しばらくすれば治ってしまうことが多い」と話す。
とはいえ、誰しも、なるべく早く不快な症状から逃れたいはず。鈴木教授に、まずは食事面の対処法を聞いてみた。「胃もたれや胸焼けの症状を感じる時は、安静にして、胃の負担になる食事はおなかがすくまで控えることが一番です。お酒を飲んだ翌日は脱水症状になっているケースが多く、意識して水分を取ることが大切です。おすすめなのは、適度な塩分(ナトリウム)を含む具のない味噌汁や体液に近い塩分を含むスポーツ飲料です。そして、おなかがすいてきたら消化の良いものから徐々に食べ始めることですね。水分の摂取は、食道の詰まりを洗い流してくれるので胸焼けの解消にも有効です」
水分と一緒に塩分の補給をすすめるのは、胃で消化したブドウ糖やアミノ酸を吸収するには、ナトリウムの助けが必要だからだ。胃腸における消化吸収を少しでも早く終えるためには、このタイミングで適度な塩分を補給するのが理想的だ。
胃もたれの際に消化が良いとされる果物や野菜を食べる人も少なくないが、「かんきつ類やトマトは、胃酸の分泌を促して胃の炎症を悪化させる恐れがあるため、このタイミングではあまりおすすめできません」(鈴木教授)という。また、消化を促すために軽い運動を行おうとする人もいるが、胃もたれや胸焼けの時は安静にして、運動する筋肉を動かさないようにするほうがよい。胃などの内臓にできるだけ多くの血液を送って働かせなければならない時であるため、筋肉に血液を送らないといけない行為は避けるという考え方だ。
早期解消には胃腸薬、長期服用には注意
胃もたれや胸焼けを速やかに解消するには、胃腸薬を飲むことも選択肢の一つだ。どちらも胃酸を減らす必要があるため、胃酸を中和する「制酸薬」や胃酸の分泌を抑える「H2ブロッカー」などを含む胃腸薬を服用する。制酸薬の具体的な成分には、「水酸化マグネシウム」や「無水リン酸水素カルシウム」などがある。また、スッとするハッカが配合されていると、胸のむかつきが治まることがあるという。
ただし、「これらの薬を飲むと、短期的には症状が治まりますが、根本的に胃の病気を治すわけではないので、注意が必要です」(鈴木教授)。しばらくは食事や飲酒を控えることを忘れてはいけない。また、「胃もたれや胸焼けの場合に、鎮痛剤や抗炎症剤を飲むと胃かいようや胃炎、逆流性食道炎を誘発する危険性があるので、服用すべきではありません」(鈴木教授)。
胃もたれや胸焼けが長引くようなら消化器科を受診
胃もたれや胸焼けが長く続いた時に心配されるのは、「逆流性食道炎」や「機能性ディスペプシア」などの病気だ。逆流性食道炎とは、胃酸や内容物が食道に逆流することで、食道の下の方に炎症(傷口)が起きる病気で、度重なる胸焼けが長引くような症状になる。のどまで胃酸が上がってくると、のどが痛む「咽頭炎」(いんとうえん)や、「気管支炎」「気管支ぜんそく」のような症状、「中耳炎」などを起こし、肩こりや耳の痛みなどの症状が出ることもある。
一方、機能性ディスペプシアは、胃の痛みや胃もたれなどの症状が慢性的に続いているにもかかわらず、内視鏡検査を行っても胃かいようや十二指腸かいよう、胃がんなどの異常が見つからない病気だ。生命にかかわる病気ではないが、生活の質を著しく低下させる。今までは「慢性胃炎」や「神経性胃炎」と診断されていたものだが、胃炎があっても症状がなかったり、逆に症状があっても胃炎が認められないこともあるために、内視鏡で分かる胃の炎症の有無にかかわらず機能性ディスペプシアと呼ばれるようになった。
まずは、胃を休める、我慢できない時は市販の胃腸薬を試すのも一案だ。それでも症状が続く場合は、医療機関(消化器科)を受診する。忘年会の前には、この手順を頭に入れておこう。
(ライター 継田治生)
この人に聞きました
慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授。1989年、慶應義塾大学医学部卒業、1993年、大学院医学研究科博士課程修了。慶應義塾大学病院の専修医、同医学部内科学(消化器)専任講師、准教授を経て、2015年11月より現職。食道・胃・十二指腸疾患、ヘリコバクターピロリ感染症、胃食道逆流症、機能性消化管障害、消化器がんのの病態と治療、医学教育学、医療データベースが専門。
[日経Gooday 2015年12月15日付記事を再構成]
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