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カリスマの直言

東京版「金融ビッグバン」を宣言せよ(安東泰志) ニューホライズンキャピタル会長兼社長

2016/12/19

国際金融都市構想について記者会見する小池都知事(11月11日午後、都庁)
「東京が国際金融都市になる道は険しいが、日本の将来のためにも、今度こそやり遂げなければならない」

東京都の小池百合子知事の「東京をアジアナンバーワンの国際金融都市として復活させる」という公約の実現に向け、「国際金融都市・東京のあり方懇談会」の初回会合が11月25日開催された。メンバーは国内外の金融業界関係者や識者ら15人で、来年1月以降、月1回程度のペースで開き、5月に中間提言、11月に最終提言をまとめる予定だ。

筆者は東京都顧問として小池知事を支え、本懇談会の下準備をしてきた。そこで、今後の論点について筆者なりの認識を述べてみたい。ただし、本稿はあくまでも筆者の個人的見解であり、東京都としての公式見解ではないことをあらかじめお断りしておく。

会議の冒頭、小池知事は東京の国際金融都市としての地位を向上させようという幾多の取り組みがなかなか成果を上げてこなかった理由として、世界標準からかけ離れた業界慣行や規制、税制のあり方など「見えない参入障壁」の存在を指摘した。新旧の参加者の利害が対立する場合は、常に受託者責任(fiduciary duty)に立ち返って議論することを期待すると述べた。

小池知事はまた、英国は金融関連産業の国内総生産(GDP)比が12%であるのに対し、日本は5%にも満たないと指摘。日本がこの比率を10%台まで引き上げることができれば、政府が掲げる「2020年までにGDP600兆円」という成長戦略にも寄与するとした。その上で関係省庁や政府とも連携して実現を図りたいと宣言した。

海外の参加者からは東京は安全な街であり、本来は魅力が高いはずという指摘とともに、税制や規制の見直し、たとえば労働規制の柔軟化を求める声が早速上がった。

懇談会の座長を務める斉藤惇氏(KKRジャパン会長、日本取引所グループ前最高経営責任者)は、「今後検討すべき論点」を座長メモとして提示した。その内容は以下の3点だ。

(1)諸外国と比べて遜色のないビジネス面・生活面の環境整備(税制の見直し、我が国独自の業界慣行・規制などの見直し、行政手続きの英語対応、金融に関する法制度などの相談体制の整備、高度外国人材に配慮した生活環境の整備、投資教育の充実)

(2)新たなプレーヤーの市場への参加促進(金融とITが融合したフィンテックの育成、新興の資産運用業者の育成、海外プロモーション体制の構築、金融に関する国際会議の招致)

(3)世界の投資家に優しい市場の構築(受託者責任の徹底、コーポレートガバナンス・コードの順守、社債市場の活性化、決済業務の革新)

筆者は斉藤座長の論点整理は、小池知事の問題意識を受けた、的を射たものと考えている。まず、座長メモの(1)で触れられている国際標準から外れている税制・業界慣行・規制の見直しを急がなければならない。

たとえば、資産運用業者の「経理基準」は日本独特の計算方式で、バックオフィスのシステムは日本語しか入力できないのが現状であり、外資系・独立系の運用会社や信託業者などにとっては、大きな参入障壁になっている。

さらに、競合する都市との法人税や所得税・相続税などの格差を是正しなければならない。香港とシンガポールの法人税の実効税率は16.5~17%程度。ロンドンは20%(英国のメイ首相はこれをさらに引き下げるとしている)だ。これに対して東京は31%だ。高度人材に関する諸税に至ってはもっと差がつく。トランプ次期大統領は連邦法人税率を15%にまで下げ、相続税率をも見直すとしている。内外の金融機関・運用機関や高度人材を東京に集積させる上で、税が大きな障害になっている。

こうした問題は、もちろん東京都だけで解決できるものではなく、業界の努力が必要なものや、国の協力が必要なものもある。小池知事も極めてハイレベルな国家戦略として、政府と協議していく用意があるだろう。

また、座長メモの(2)で言及している新たなプレーヤーの参加促進も重要だ。たとえば、日本に多様な資産運用業者を集積させるためには、欧米で一般的になっている「新興運用者育成プログラム」(EMP)を迅速に導入する必要があると筆者は考える。EMPは独立系の新興資産運用業者が資産を受託しやすいようにサポートする制度だ。世界から多種多様な資産運用業者を誘致すると同時に、日本でも独立系の資産運用業者を育成する努力をすることによってこそ、バランスのよい国際化が可能になると思う。

座長メモの(3)は国際金融市場であるための必要条件といえる。東京という市場が世界の投資家に対する受託者責任を十分に果たしていることは、国際金融都市として最低限の条件だ。

特に金融機関の利益相反取引については受託者責任の観点から世界標準で規制を行なうべきではないかと考える。たとえば、商業銀行が影響力を持つプライベートエクイティ(PE)やベンチャーキャピタル(VC)だ。こうしたPEやVCは投資家より銀行の意向を反映した運用に走りがちだ。このほかにも、金融機関の利益相反は信託銀行を舞台にしたもの、同じく商業銀行と証券業務の関係など様々な分野に影響が及ぶ。

金融機関以外にも日本の事業会社はコーポレートガバナンス・コードの順守を徹底すべきだ。上場企業が世界の投資家の方を向いていない経営をしていると、東京市場の信頼性が揺らぎかねない。

英国の独立系シンクタンク「Z/Yenグループ」のグローバル金融センター指数でみると、東京の総合順位は、ロンドン・ニューヨークは言うに及ばず、香港・シンガポールにも大きく水をあけられて5位に甘んじている。

「東京をアジアナンバーワンの国際金融都市にする」という政策はこれまでも掲げられていたが、実はこれを主導する担当省庁がはっきりしていなかった。都が産業振興の一環として政策立案し、政府や関係省庁の助力を要請するのが最善策ではないだろうか。今回の論点の中には、懇談会参加者の利害が一致しないものもあるだろう。そこは最終的には都が引き取り、小池知事の指導下で一定の結論を出し、関係各位の協力を要請することになるのではないか。

日本は1996年に「日本版金融ビッグバン」を宣言した。政府と都が手を携え、今回はぜひ「東京版金融ビッグバン」を宣言してほしい。道は険しいが、東京のみならず日本の将来のためにも、今度こそやり遂げなければならない。

安東泰志(あんどう・やすし) 1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、88年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーター。帰国後、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、市田・東急建設・三菱自動車工業・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐ・たち吉・武田産業など、約90社の再生と成長を手掛ける。東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。

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