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街路樹、コンパクト化進む 管理費軽減 地元反発も

2016/12/4

たまプラーザ駅前では桜並木の再整備が始まった(横浜市青葉区)

大きくなりすぎた街路樹をコンパクトな樹木に植え替える動きが広がる。管理の手間や倒木の恐れが直接の原因だが、住民意識の高まりや財政難など都市社会の変化も映し出す。

名古屋市の中心部に近い市営地下鉄の御器所(ごきそ)駅。この駅から東に向かって約1.5キロメートルの市道沿いで、約120本ものアオギリの街路樹が昨年までにすべてコブシの木に植え替えられた。

名古屋市は成長が早く大きな葉をつけるアオギリなどを伐採し、小さな花木などに植え替える作業を進めている。昨年8月、街路樹の再生指針でこうした方針を打ち出し、全国的に注目を集める。

■年7000万円の節約に

名古屋市は街路樹をコンパクトな樹種に植え替える試みを始めた

市内には約10万本の街路樹がある。高度成長期以降、都市の発展に合わせて植えられてきたが、近年は樹木の高齢化で倒木や枝の落下などによる事故が2013年度までの10年間に55件発生した。樹木が信号機を隠すなどの問題も起きている。

一方、街路樹を維持管理する予算はピークだった97年度の18億円から14年度は8億円に減った。同じ期間に生活保護など「扶助費」が1075億円から2708億円に膨らみ、予算を圧迫したためだ。

そこで名古屋市が“合理化”の対象として目をつけたのが毎年、枝切りが必要なアオギリとナンキンハゼの計約1万本だった。「都市の厳しい環境に強く、早く成長する樹木として高度成長期に重宝されたが、今の時代には合わなくなっている」と川崎淳裕・緑地維持課長は説明する。

5年間で半分の5千本をハナミズキやコブシのように小型で成長が遅く、枝切りの必要がない樹木に植え替える。これで年に7000万~8000万円ほど管理費用を節約できるという。浮いた予算は、街のシンボル並木と位置づけるケヤキなどの管理に充てる。

■成長し、交通妨げる

日本で近代的な街路樹の整備が始まったのは明治時代に入ってから。関東大震災や第2次世界大戦で焼失した時期もあるが、高度成長期以降は大気汚染の緩和や開発による緑の減少を補うため、全国で植えられるようになった。

ただ国土技術政策総合研究所によると、全国の街路樹(高さ3メートル以上)は1987年に371万本だったのが2002年に679万本に達した後は、おおむね横ばいで推移している。都市開発や道路の整備が一巡したためだ。

今後は維持管理が大きな課題となるが、すでに大きくなりすぎた街路樹が交通の妨げとなったり、管理費用が膨らんで自治体を悩ませたりする例は少なくない。コンパクトな樹木に植え替える取り組みは各地で相次いでいる。日本の春の象徴ともいえる桜も例外ではない。

横浜市は、東急田園都市線のたまプラーザ駅前で昨年に桜並木の植え替えを始めた。1966年の駅開業とともに植えられた約190本のソメイヨシノの高齢化が進み、交通の妨げとなるケースも増えたからだ。通行の安全を確保するため、場所に応じて小型の品種の桜に植え替える。

駅周辺の桜並木を、歩道に十分な道幅がある「ゾーンA」、歩道が狭い「ゾーンB」、交差点など見通しを確保する必要がある「ゾーンC」の3種類に分類した。ゾーンAではソメイヨシノ(最大樹高12メートル)を残す一方、ゾーンBでは歩行エリアを確保するためにカンザン(同10メートル)を採用。ゾーンCでは、より小型のアマノガワ(同8メートル)を植える。

国でも同様の動きがある。東京23区内の国道を管理する東京国道事務所は14年から、板橋区と豊島区の国道で、プラタナスを大きくなりにくいカツラに植え替える実証試験を始めた。枝切りなどのコストがどのくらい削減できるか見極める。

■「景観守って」の声

とはいえ、街路樹は地域住民の愛着が深く、町のシンボルや観光名所となっている場合も多い。そのため、再整備計画がトラブルや議論を起こすケースもある。

東京都千代田区では今年、区道「神田警察通り」のイチョウ並木を巡って論争が起きた。区は東京五輪までに歩道の拡張などを進める計画で、沿道のイチョウなどを伐採しザイフリボクという小型の木に植え替える予定だった。

ただ、イチョウは少なくとも戦前から植えられていたとみられ、7月に伐採準備を始めたところ反対運動が起きた。保存を求めるインターネット上の署名活動に4万人の賛同が集まり、区は計画を見直すことにした。反対運動の先頭に立った大学非常勤講師の愛みち子さんは「このイチョウ並木は近代日本の遺産ともいえる風景。切るなんてとんでもない」と憤る。

神田警察通りのイチョウは市民の反対で伐採計画が撤回された(東京都千代田区)

京都学園大学の森本幸裕教授(環境デザイン)は「街路樹は都市のアイデンティティーでもある。経費削減も重要だが、予算にメリハリをつけて景観を維持する努力も必要だ」と話す。少子高齢化で財政的な制約が強まる中、限られた予算で良好な都市環境や景観をどう維持していくか。取捨選択に頭を悩ますケースは、今後も各地で相次ぎそうだ。

■人気の街路樹、時代とともに変遷

四季折々の花や緑陰、紅葉などが都市住民の生活に彩りを与えてくれる街路樹だが、その種類は時代とともに少しずつ変遷している。国土技術政策総合研究所が5年ごとにまとめている「わが国の街路樹」のデータをもとに、その変遷の軌跡をたどってみた。

この調査は1987年から2012年まで25年間のデータがある。街路樹(高さ3メートル以上の高木)として使われている樹木の上位10種類までを見ると、イチョウ、サクラ類、ケヤキ、トウカエデ、クスノキ、ナナカマド、プラタナス類の7種類が全期間を通じて10位以内にランクインしている。

なかでも不動の1位の座を占めているのがイチョウだ。黄色く色づく姿やギンナンなどは秋の風物詩でもあり、東京の神宮外苑のイチョウ並木のように都市のシンボルとなるケースも多い。耐火性が強いことでも知られ、関東大震災など過去の大災害で火災の延焼を防いだという逸話も各地で残されている。

不動の2位はサクラ類だ。卒業や新入学のシーズンに美しい花が楽しめ、日本の春の象徴的な存在。とくにピンク色の花が美しいソメイヨシノが人気で全国各地に名所の桜並木があるが、近年は樹木の高齢化が進んで植え替えが必要になるケースも出てきた。ソメイヨシノより病気に強く、やや花の色が濃い「ジンダイアケボノ」など別の品種に植え替える動きも広がっており、日本の春の風景は少しずつ変容を迫られている。

87年の調査で3位に入っていたのはプラタナス(和名スズカケノキ)だった。ただ、プラタナスはその後の調査で急速に順位を落としていき、2012年の調査では10位に。成長が早いために剪定(せんてい)の手間がかかり、葉が大きいため落ち葉の掃除も大変になるなど、管理の難しさが嫌われているようだ。京都市では2013年に市内に約1400本のプラタナスの街路樹があったが、現在は約800本に減っており、2023年までに完全になくす計画をたてる。同市は「近年はプラタナスグンバイという害虫が発生し、洗濯物に付着するなどの被害も深刻化していた」(みどり政策推進室)と事情を説明する。

プラタナスと対照的に、急速に順位を上げてきたのがハナミズキだ。97年の調査で7位に初登場し、2002年以降はずっと4位に定着している。花や紅葉を楽しめるうえ、樹高が大きくならないため管理がしやすい点などが好まれているようだ。ただ乾燥などに弱いため、アスファルトに覆われた道路沿いに植えられて管理が適切でない場合には弱ったり枯れたりしてしまうことも多く、樹木の健康状態を危ぶむ声が専門家からは上がっている。

ケヤキは87年の調査で5位だったが、92年以降はずっと3位に定着している。成長が早く管理に手間がかかる点ではプラタナスと一緒なのだが、樹形の美しさなどが好まれているようだ。各地にシンボル的なケヤキ並木があるが、「杜(もり)の都」仙台市にある定禅寺通り沿いのケヤキ並木がとりわけ有名。毎年9月に開かれるストリートジャズフェスティバルや、年末のイルミネーション「光のページェント」などで、その姿が訪れる人々の目を楽しませている。

(本田幸久)

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