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過労自殺は他人事ではない 悲鳴上げる働く女性たち

日経BPヒット総研所長 麓幸子

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NIKKEI STYLE

広告大手、電通の新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺が労災認定されたというニュースは、働く女性たちに大きな衝撃を与えた。2016年12月7日発売の「日経ウーマン」2017年1月号では、「他人事じゃない!電通女性社員の過労自殺」と題して緊急企画を組んだ。同誌メルマガでアンケートを実施したところ、1週間で103通もの投稿が寄せられた。「月80~90時間の残業を2年半続け、完全週休2日のはずが土曜日も普通に勤務。産業医から『うつの兆候あり』と診断された」「1日4時間の残業続きで退勤のタイムカード押してから仕事をすることもよくある。上司に相談しても解決できない」「パワハラで精神的に不安定になった。長時間勤務で心身が疲労した上にパワハラで追い打ちをかけられれば誰でも思考停止になってしまう」などの悲痛な叫びが寄せられた(詳細は同誌参照)。

多くの働く女性たちにとって身近な問題である長時間労働やパワハラ、そしてその先に起こりうるかもしれない過労自殺。今回は、過労自殺を防ぐためにはどうしたらよいかを取材してまとめた。

新人も即戦力、重い仕事を課すゆとりのない職場が多い

「日本の自殺者は年2万4000人を超えるが、『勤務問題』が原因・動機と思われる自殺が平成27年で約2200人(内閣府推定)。毎日約6人が仕事上の過労やストレスが原因で自殺していることになる。深刻なのは20代、30代の若い人たちの自殺が増えていることだ」と語るのは、高橋さんの遺族側代理人を務めた弁護士の川人博氏。88年から「過労死110番」の活動に参加し、現在、過労死弁護団全国連絡会議幹事長を務める。

86年に男女雇用機会均等法が施行され、90年代の労働時間規制撤廃で男性並みに長時間労働をする女性たちが増えた。2000年に入り、女性が職場で重要な役割を果たすようになると、女性たちも長時間労働のシステムに飲み込まれていった。女性が職場進出しても長時間労働は改善されず、そこにパワハラやセクハラの要素も加わる。「過労死110番」に電話する女性におけるうつ病などの精神疾患や過労自殺の相談が年々増加傾向にあり、特に、大学を卒業して約半年以内に病気になり、死亡に至るケースが増えているという。

「その背景には、膨大な業務量、長時間労働や休日出勤という過重労働による肉体的な負荷、そしてパワハラやセクハラによる精神的な負荷がある。過労自殺の場合は精神的負荷の比重がより高い。そして、今、職場に若手を育成する時間的余裕がない。新人にも即戦力としての役割を求め、重いノルマを与え、過度の負担を課してしまう。そこから過労・ストレスによるうつ病などが引き金となって自殺へとつながっている。このような不適切な労務管理も問題だ」

電通では、1991年にも、入社2年目の大嶋一郎さん(当時24歳)が「常軌を逸した長時間労働の結果」(川人弁護士)うつ病を発症し過労自殺で亡くなったという事件があった。この事件では、2000年3月に最高裁判決で会社側に全面的な損害賠償責任があると認定された。その際、「殺されても放すな」など文言のある鬼十則と呼ばれる行動規範が問題となったが、「そこにある過度な精神主義が、今回も改善されなかったのではないか」(川人弁護士)。

過労自殺を予防するために、川人弁護士は、「職場に時間と心のゆとりが必要だ」と指摘する。

「近年、裁量労働・みなし労働により、時間外労働に関する法律上の規制に適応しない職種が増えている。求められるのは労働時間の規制緩和ではなく、時間外労働・休日労働・深夜労働に対して有効な規制を職場につくっていくこと。例えば、EUの『労働時間編成指令』にあるような、24時間につき最低連続して11時間の休息時間を義務化する『インターバル規制』の導入は、休息と睡眠時間を守る上で大変効果的な方法だ」

「また、日本企業は、鬼十則に見られるように、際限のない『がんばり』を働く人に強いてきた。ともすれば、健康よりも仕事に高い価値を置く企業風土があった。高橋さんの母、幸美さんが訴えたように、社会全体で『命よりも大切な仕事はない』という価値観を共有することが大事だ。政府、経営者が問われている」

働く女性たちに留意してもらいたいのは、毎日の正確な労働時間をつけること。ホワイトカラー職場は、実際の労働時間より過少申告することが職場の慣行として当然とする傾向にある。そのために日常的に始業時間と勤務時間を記録しておくことが重要だという。労災認定が認められるかどうかも、実際の労働時間を証明できるかどうかに左右されるそうだ。それが証明できないと労災認定のハードルが高くなる。今回、高橋さんが労災認定されたのは、電通が入退出ゲートで時間を管理していたため。その記録によって、残業時間が、本人が自己申告していた約70時間ではなく100時間を優に超えていたことが証明できたことが大きいと川人弁護士。そして、その入退出ゲート管理になったのは、前述の大嶋一郎さんのケースがきっかけだという。

「パソコンのログイン、ログアウトの記録でもいい。それも難しければ毎日手帳に自分できちっと記録しておくこと。自分の健康管理のためにも効果的だ。記録があれば、体調が悪くなって医師の診察を受けるにしても原因が見つかりやすくなる。また、若い世代であれば、労働に関する法律(例えば退職の意思を表示して2週間経過したら退職できることなど)、ワークルールを学ぶことも大切だ」

自分の体の声を聞き、そのサインを見逃さないこと

産業カウンセラーでがんサバイバーの立場から発言する太田由紀子氏は、今回の件を聞いて、「非常に悲しく残念だった」と語る。かつて関西のラジオ局の東京支社に勤務していた太田氏は、91年に過労自殺した大嶋さんと仕事上で面識があった。

「25年前と同じような状況があったのではないか。意欲を持って入社した有望な若い人が命を絶ってしまう。こんなことがあってはならない。まだそんな状態だったのか、改善されていないのかと大変遺憾に思った。しかし、これは、電通だけの問題ではない。他の広告代理店も媒体社も制作会社も、クライアントありきで過剰労働を強いるような構造がある。その構造そのものや経営幹部の意識や隠ぺい体質を今こそ変えなくてはいけないと思う」

管理職は、職場の風通しをよくしてそこで働く人の意見を聞き、環境をよりよいものにしてメンタル不調が生じないようにラインケアを怠らないこと、上司のマネジメント力が重要だと太田氏。そして検診等で不調が判明した社員には、産業医と人事部、直属上司が連携してきちんと対応していく。

また、太田氏によると、パワハラの問題では、近年、男性上司によるハラスメントだけでなく「女性上司によるハラスメントが増えている」という。

「女性活躍の掛け声の中、女性管理職が多くなった。しかし優秀なプレーヤーだったとしてもよいマネージャーとなるかは別問題。リーダーとして育成されていないのに、いきなり登用されるケースが多い。『女性は研修不要』『女性同士ならうまくいく』という不合理な理由で、女性はマネジメント研修を受ける機会が男性に比べて少ないのも実情。女性リーダーの心得を習得するような機会も必要だ」

女性がハラスメントの被害者ではなく当事者ともなる時代、働く女性はどのように自分を守っていけばいいか。

「自分の体の声を聞くこと。メンタルな不調はまず体に出てくる。そのサインを見逃さないこと。そしてあわせて身近な人のサインも受け止めてほしいと強く思う」

太田氏が今回のケースで注目しているのは、高橋さんがSNSで自分のつらい状況を投稿していたことだ。

太田氏は、15年2月に腫瘍が分かり、卵巣がんと診断された。手術を受けて抗がん剤治療を開始する同年6月にフェイスブックにがん治療のことをオープンにした。しかし、それ以来連絡が途絶えている知人が数人いるという。

「がん患者となった自分にどう声をかけていいか分からないためだろう。しかし、SNSで発信しても反応がないと、自分の存在意義が揺らぐ。高橋さんの投稿にどんな反応があったか今となっては分からず、また、今回の場合、睡眠障害やうつ病が発症していてかなり厳しい状況だとは推測されるが、彼女のSOSのサインを重く受け止めて、『大丈夫?』『本当につらいね』『あなたは一人ではない』と声をかけてあげる人がいれば、状況が少しでも変わったのではないかと思う」

労働時間上限規制とインターバル規制導入が焦点に

16年11月23日、父親の子育て支援に取り組むNPO法人「ファザーリング・ジャパン」の代表理事・安藤哲也氏、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏などが長時間労働是正を目的に、インターネットで集めた約4万人分の署名を塩崎恭久厚生労働省大臣と加藤勝信働き方改革担当大臣に届けた。これは、高橋さんの過労自殺の労災認定を受けて10月15日から署名を集め始めたもので、約1カ月で4万人を突破したという。

署名では、労働時間の上限設定の法制化と、終業から始業まで一定の休息時間を設ける「インターバル規制」の導入を求めている。労基法上では、労働時間の上限は原則として1日8時間、1週間40時間と定めているが、36(サブロク)協定を労使で締結することにより、会社は法定労働時間を超えて残業を命じることができる。36協定があっても時間外労働は1カ月45時間、1年で360時間を限度とする基準があるものの、特別な事情が生じた場合、「特別条項」を結べば、年間6カ月まで、例外的に限度時間を超えることができるという。労働時間の上限規制とは、それに上限を設定しようというものだ。

「異例のスピードで賛同者が4万人に到達した。かつてない関心の高さを感じる。また、両大臣から『前向きに検討したい』旨の言葉が返ってきた。今後の展開に期待したい」と安藤代表理事。11月25日には、同法人は「長時間労働撲滅緊急フォーラム」を開催、200人が参加。盛り上がりをみせた。

「10月4日から『20時退庁』が始まった都庁の中間報告を見ると、『20時30分以降の退庁者は10%以下』だそうだ。また、職員から『帰りやすい雰囲気ができた』『仕事のやり方が変わった』という肯定的な意見も見られる。開始から1カ月経過して、20時退庁がおおむね定着、時間規制をかけることで『残業し放題』の状況はなくなり、意識改革は進んでいる模様だ。都庁の時間外勤務手当は平均月9億円だとう。これは都民の税金だからこの働き方改革は大歓迎。また、時間規制が働き方改革に効果的であることを示す好例だろう」と安藤理事。

「長時間労働がなくなれば、父親の育児参画が容易になり、ママ達も助かり、子どもたちの笑顔が増える。また健康になり、過労による体調不良やメンタルヘルスの問題にも改善に向かう。企業にとっても大きなプラスだ」

同フォーラムでは、「私たちは経営者として自社での取り組みはもちろん、社会全体での脱長時間労働に賛成します!」という労働時間革命宣言に賛同した企業が、カルビー大和証券グループ本社、アクセンチュア、サントリーなど54社になったことも報告された。

社会全体がこの問題を考える今が大きなチャンス

さて、過労自殺問題に長年取り組んできた前述の川人博弁護士も、今の状況に対しかつてない手ごたえを感じているという。

「今回の件が、ここまで社会的な意味で注目され、こうした状況を変えなくてはいけないのではないかという世論が形成されているのは、彼女の職場で起こったことが、日本の多くの働く女性が直面している問題だからであろう」

また、安倍総理が、この件について「働き過ぎによって尊い命を落とされた。こういうことは二度と起こってはならない」とコメントしたが、一企業の問題について総理が言及するのは異例なことだそうで、「政府としても本気で取り組まなければいけないと思っている表れだ」と川人弁護士。

「この問題の根は深く、一朝一夕で解決することはありえない。しかし、この問題について何とかすべきだという声が広がっている今、政府レベルでは必要な法改正、行政通達をすることや、各企業の経営者や管理職が、自分が何をすべきかと考えて行動を起こすことが大事だ。今が日本を変える大きなチャンスだと思う」(川人弁護士)

麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BP社執行役員。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2016年より現職。2014年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。2児の母。編著書に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(いずれも日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

女性活躍の教科書

著者 : 麓幸子、日経BPヒット総合研究所
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)

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