お好み焼きに合うキャベツ 加工用野菜、「味力」競う
野菜は甘みや食感など素材としての魅力を張り合って改良が進められてきた。ただ、それでは飽き足らず、最近は調理法も踏まえて、料理にして一番おいしく仕上がるように開発された野菜が登場している。お好み焼きに合うキャベツや漬物用のはくさいなど顔ぶれは多様で、調理後の"味力"を競う。
柔らかキャベツ、お好み焼きに溶け込む
11月下旬、大阪府泉佐野市の郊外に広がる畑では青々としたキャベツの収穫が間近に控えていた。射手矢農園は甲子園球場3個分の畑ですくすくと育つ「松波キャベツ」を年間700トン生産する。
キャベツならばシャキッとした歯応えを追いかけたいところだが、狙いは違う。買い求めるのはお好み焼きの専門店が多いという。買い手は松波キャベツの柔らかさに引かれている。小麦粉や卵と混ぜて鉄板のうえで焼くときに火が通りやすい。農園を営む射手矢康之さんは特有の柔らかさを「ポトフにして煮込むと全てなくなってしまうほど」と表現する。キャベツに歯応えが残りすぎると、焼きたてのふんわりとしたお好み焼きも興ざめ。松波キャベツの柔らかさはお好み焼きに溶け込む。お好み焼き専門店だけでなく、一般の消費者にも広く受け入れられている。
試しに収穫したばかりの松波キャベツを生で食べてみた。芯まで柔らかく、甘みもある。「芯まで甘いので、お好み焼きにした時に生地にコクがでる」(射手矢さん)という。
松波キャベツは大阪ではなく、静岡で40年ほど前に開発された。病害に強いキャベツを開発していくなかで、誕生した。図らずも授かった甘さや柔らかさといった特徴は「お好み焼き文化の大阪で評価された」と開発を手がけた石井育種場(静岡市)。産地の泉佐野市周辺の泉州地域は今では、お好み焼き店への松波キャベツの供給拠点になった。
今年は生育が遅れ気味で、12月上旬ごろから収穫作業が始まる予定。関西のお好み焼き店では松波キャベツを使ったメニューが12月中旬以降に並ぶ。関東地方や愛知県のスーパーでも販売されている。
たくあん、におい消すダイコン
大人になってもたくあんが苦手という人は意外と多い。味ではなく、独特なにおいを敬遠する。農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構、茨城県つくば市)と野菜の種子を開発する渡辺農事(千葉県野田市)が共同で作ったダイコンの新品種「悠白(ゆうはく)」はたくあん漬け加工した後に発生する独特のにおいがない。
においは抑えられても、味が落ちることはなく、ごはんが進む。悠白を使ったたくあん漬けは今年8月から大手スーパーで試験販売が始まっている。実績をこれから積んでいく。
悠白とともに開発された「サラホワイト」は大根サラダに適した品種という。ダイコンはカットして、しばらくたつと変色が生じることが多かった。ダイコンが売りのひとつにする白い見た目を損なう。サラホワイトは変色を抑制した。
買い手には飲食店も想定する。客商売ゆえに味だけでなく、見栄えにも神経を使う。提供する大根サラダの変色はできる限り抑えたい。そんな需要を狙った。
サラホワイトはサラダの試作品が12月14~16日に東京ビッグサイトで開催される「アグリビジネス創出フェア」で展示試食される予定。来場者に食べた感想を聞きながら市販化を目指すという。
キムチに合うハクサイも登場している。タキイ種苗(京都市)の「オモニ75」は堅い葉が特徴。「漬け込んでも、葉が薄くなることを抑えられる」(同社)という。オモニ75が持つ堅さで、漬けたキムチでもしっかりとした歯応えが残ってシャキッとした食感が楽しめる。キムチの見た目を左右するハクサイの外側は濃い緑色で、内部は鮮やかな黄色。漬けたあとの彩りが鮮やかになるという。開発した背景には、国内で健康志向の高まりを受けてキムチの人気が高まっていることや、国産食材を消費者が求めていることがある。キムチを加工する業者だけでなく、一般の消費者も買い求める。
国内の野菜消費量は年々減少している。農林水産省によると、2014年度は1人あたり年間93キログラムと20年前に比べて1割減った。特に20~30代の若者の野菜不足が目立つという。生産者は味や食感を改良し食べやすくすることで、少しでも消費者の口元に近づけるように工夫と努力を重ねている。
(金尾久志)
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