小泉孝太郎 30代半ばで悪役好演、「好青年」から脱却

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爽やかな風貌とにじみ出る品の良さで、優しい青年や、一生懸命なサラリーマンを演じることが多かった小泉孝太郎。そんな彼が俳優として改めて注目されるきっかけとなったのが、2015年に放送された『下町ロケット』だ。嫌味たっぷりの悪役を演じ、高い評価を得た。

正統派の主役や、複雑さのない脇役が多かったが、近年は物語の鍵を握るヒール役としても存在感を発揮するようになった。主役並みに印象に残る役を任されるまでになり、王道スター路線とは別系統の俳優として、今最もいい位置にいる。現在は連ドラ『Chef~三ツ星の給食~』(フジテレビ系)に出演中。天海祐希演じるトップシェフの光子の実力を認めながらも、自分の思い通りにならない彼女を窮地に陥れる、経営コンサルタントであり、レストランオーナーの篠田を演じている。どのように役と向き合っているのか。

(写真:藤本和史)

【インタビュー】30代になり、『役者1本でやっていく』というプライドを捨てられた

「『Chef』ではヒールのポジションなので、『『下町ロケット』以来だね』と言っていただく機会が多いです。いろいろなタイプの悪役がいるなかで、今回はちょっと、ねちっこい(笑)。篠田は2面性がある男だと思うんです。対外的には、経営者として地位を確立している、バリバリに仕事ができる人。でも実は嫉妬深かったり、自分の知らない世界は認めたくないという傲慢さがある。その未熟さを克服できないまま、社会的には成功してしまったという感じを、演じる上で大切にしています。

『Chef~三ツ星の給食~』小泉演じるレストラン経営者の篠田が、かつてタッグを組んだ光子の頑張りを妨害する。(木曜22時/フジ系)

天海さんとは『カエルの王女さま』(12年)以来、2回目の共演です。はじけるようなリズムとオーラをお持ちの方で。“両雄並び立たず”という言葉がありますが、光子も篠田も主役タイプで、お互い妥協ができない。光子の明るく天然な陽と、篠田のかげりのある陰の部分の対比を、演じながら楽しめています」

デビューから15年。ターニングポイントとなったのは、徳川慶喜を演じたNHK大河の『八重の桜』(13年)だという。

「変人で嫌ーな感じの役(笑)。その頃から、好青年の比重から明らかに変わって、女性を下に見ているプレイボーイを演じた『エイジハラスメント』や『下町ロケット』(共に15年)につながった気がします。僕は役の幅を広げたいと思ったことは一度もないんです。でも、『小泉孝太郎に嫌なヤツを演じさせてみたい』と思っていただけた、幸せなご縁があったことに感謝しています。

エネルギーは使いますが、悪役にしかない楽しさはやっぱりあります。サッカーに例えると、いい人はチームのために積極的にパスを回しますよね。僕も好青年を演じるときは、主役であっても目立とうという気にはならない。でも悪役のときは、『1人でドリブルで持ち込んでやろう』って、そんな感覚を大きくします」

俳優業だけでなく、バラエティーのレギュラーを2本持ち、今年はリオ五輪のキャスターも務めた。

「30代になって、『役者1本でやっていくんだ』というプライドを捨てられたんです。俳優業を追求していて、自分がかなわないなと感じる同世代の俳優さんもたくさんいますし。でもそれぞれのフィールドで、今もお互い頑張れているという喜びを、最近強く感じるようになりました。

人って誰でも生まれ持った色や味があると思っていて、お酒ならワインはウイスキーにはなれないけど、熟成で変化しますよね。自分では想像していなかった悪役やMCのオファーが来たりと、いい出会いや仕事の環境のなかで、自分の色や味が20代の頃よりは濃くなってきたかなと。1年の抱負も決めたことがないので将来のことはわかりませんが、そんな変化を40歳を超えても楽しみたいです。50代になったら、政治家の役がくるかもしれない。その頃なら、『フィクションだったらやってもいいかな』と思えているかも(笑)。わくわくした気持ちで、変化を楽しみながら仕事をしていきたいです」

【研究】 突き抜けた悪役ぶりが評価され、「気になる実力派」の筆頭へ

2002年に俳優デビュー。それ以降、途切れることなくドラマ出演を重ねてきている小泉孝太郎。シリーズもののレギュラーに起用されるなど、地道にキャリアを積んできた。よく言えば定着した存在。しかし、強く印象に残るタイプの俳優ではなかった。

評価が高まったのは、35歳で主演した『名もなき毒』(13年)だ。主人公は、小泉の持ち味に近い。優しく穏やかな人を“普通”に演じることこそ難しく、誠実さと説得力を持って表現したことで、一気に業界注目度が高まった。

この2年後に、『下町ロケット』に起用される。後半パートから登場するキーマンで、技術にプライドを持つ佃製作所の佃社長(阿部寛)を挑発し、最後まで苦しめるサヤマ製作所の椎名社長役を、ときにぞっとするほどの表情で演じ切った。これは、同枠で13年に放送された『半沢直樹』の堺雅人VS香川照之と同じ構図でもあり、阿部という大物を前に大役を務め、これを機に評価が急上昇した。

そんな小泉について、『Chef~三ツ星のシェフ~』(フジ系)プロデューサーの長部聡介氏は「複雑な役をやっていただき、深みを増した小泉さんを見てみたいと思った」と語る。長部氏は12年に『カエルの王女さま』で、すでに一緒に仕事をしている。そのときは、スマートなイメージの小泉が、冴えない役をやったらどうなるのかと、困った状況のときに何もできない気弱な役にしたのだという。その後『下町ロケット』があり、小泉の力量も、俳優としての評価も一段と高まったなかで、今度は、分かりやすい役から進化させたいと考えたそうだ。

「天海祐希さん主演と考えたときに、対峙する相手は彼女の存在感に負けない、どこか凌駕(りょうが)できる存在でいてほしいと考えました。小泉さんなら、『下町ロケット』で結果を残していますし、組み合わせとしても新鮮なので最適だと」

光子(天海)は天才で、篠田(小泉)は秀才。クリエーティブな発想と合理主義がぶつかり合う。どんなに頭がよく、できる人でも、何か決定的にかなわないものがあり、そういう経験をしてこなかった人が、自分の理屈が通らない相手と出会ったときにどうなるか。

「篠田は普段はいかにも余裕があるように装っているのに、光子に対しては嫉妬心や憎悪のような激しい感情を持つんです。そこには憧れや独占欲に似た気持ちも入り混じっているはずなので、単純に“悪代官”をやればいいというものではない。小泉さんはその辺りを理解していて、徹底的に悪いというよりも、人間の裏にある怖さだったり、すごみみたいなものをよく表現してくれています」

五輪キャスターやバラエティー出演も、好感度につながっている。40歳を目前に、「次はどんな役をやるのか」と気になる存在になったことは、今後の俳優人生の大きな原動力となるだろう。

こいずみ・こうたろう
1978年7月10日生まれ、神奈川県出身。01年にサントリー「ダイエット生」のCMでデビュー。09年『コールセンターの恋人』で連ドラ初主演。今年8月のリオ五輪では、テレビ東京のメインキャスターを務めた。俳優業のほか『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』(TBS系)、『モシモノふたり』(フジ系)レギュラー。

(ライター 内藤悦子)

[日経エンタテインメント! 2016年12月号の記事を再構成]

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