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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している紀伊国屋書店大手町ビル店に戻る。トランプ次期米大統領の関連本を集めた平台や、例年通りの経済予測本コーナーなどで華やぐ店頭の中で、ひときわ目につく陳列を施した平台が店のほぼ中央に陣取っている。そのメーンにすえられているのは1980年代のバブル期からバブル崩壊にかけてを題材にした2冊の本だ。

バブル時代を検証

そのうちの1冊が永野健二『バブル 日本迷走の原点』(新潮社)。元経済記者によるバブル検証本だ。前回の青山ブックセンター六本木店のときにランキング同率5位に食い込んだ1冊として軽く触れたが、ここではすでにベストセラーとなっている『住友銀行秘史』と2冊並べて大げさに積み上げられている。11月下旬の刊行で、派手なディスプレーのかいもあって刊行直後から快調に売り上げを伸ばし、「足もとでは『住友銀行秘史』をしのぐ勢い」とビジネス書売り場を担当する広瀬哲太さんは言う。

著者は日本経済新聞の証券部記者や編集委員としてバブル前夜からバブル崩壊のころ最前線で取材してきた。その著者がなぜ今、バブルの検証を世に問うのか。あとがきで著者は言う。「カジノ資本主義がグローバリゼーションを通じて世界に広がる中で、80年代の日本のバブルの時代の教訓を、現代の日本の、そして世界の政策に生かさなくてはいけない」。そう感じる背景にはアベノミクスへの危機感があり、「安倍総理に、黒田日銀総裁に、かつて公的資金を投入しようとした宮沢喜一と三重野康のような、洞察力と責任感は果たしてあるのだろうか」と問うのである。

同時代の空気感、歴史に位置づける

検証の中心は80年代後半からのバブルだが、著者は自らが記者になるより前、71年に表面化した「三光汽船のジャパンライン買収事件」から書き起こす。戦後の復興と高度成長を支えた日本独自の経済システムが機能しなくなってきたのがバブルの遠因であり、その原点を象徴する事件がこの買収事件だという視点だ。戦後経済システムを改革しようとする動きや、そこに挑戦する動きなどバブル前史を全体の3分の1ほどの分量で点描した後、85年のプラザ合意以降へと筆を進める。

バブルを象徴する多彩な事件を取り上げているが、どれも大きな歴史やシステムに結びつけて語っていくところが本書の読みどころだ。「バブルの最前線で揉(も)まれ迷走していた」と振り返る著者がそこここに差し挟むバブルの主役脇役の些細(ささい)な表情や一言が生々しく時代の空気感を伝える。安倍政権の株高政策にバブル時代と似たものを感じるという危機感は、多くの人がうっすらと感じていることなのかもしれない。そこが売れ行きに表れている。

文庫・新書の経済本が好調

それでは先週のベスト5を見ておこう。

(1)頑張れ!大風呂敷旅行屋 宇土寿和著(幻冬舎ルネッサンス)
(2)世界一わかりやすいIT(情報サービス)業界の「しくみ」と「ながれ」イノウ著(ソシム)
(3)バブル 日本迷走の原点永野健二著(新潮社)
(4)住友銀行秘史国重敦史著(講談社)
(5)運命の逆転高橋佳子著(三宝出版 )

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2016年11月21日~11月26日)

1位と2位は著者・版元関係のまとめ買いでランクインした。3位に『バブル』が、4位に『住友銀行秘史』が入って事実上のワンツーだ。5位もまたまとめ買いの本で、この2冊以外めぼしい本がベスト5には入っていない。ただ、文庫ランキングの1位にちょっと変わった業界研究本の財閥研究会『三菱・三井・住友「三大財閥」がわかる本』(三笠書房・知的生きかた文庫)が入っていたり、新書の2位で9月刊行の津田倫男『地方銀行消滅』(朝日新書)が売れ続けていたりと、文庫・新書で「企業や金融関連の本の売れ行きが好調だ」(広瀬さん)という。

(水柿武志)

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