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スタンフォード 最強の授業

全額返金+無料航空券 存亡の危機救ったCEOの神対応 スタンフォード大学経営大学院 ピーターソン教授に聞く(3)

2016/12/4

ナスダックのネット番組でインタビューに答えるピーターソン教授 (C)Nasdaq

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。ジョエル・ピーターソン教授の3回目は、自らが会長を務めるジェットブルー航空の危機について語る。

1998年の創業以来、順調に業績を伸ばしてきたジェットブルーが、会社存続の危機に見舞われたのが2007年2月14日。バレンタインデーのこの日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港を暴風雪が襲い、フライトのキャンセルや遅延などで、およそ13万人に影響が出た。大混乱となった空港、殺到するクレーム、怒り心頭の乗客……この惨事を乗り切ったのは、ある意外な方法だった。

(C)Michael Schoenfeld
ジョエル・ピーターソン Joel C. Peterson
スタンフォード大学経営大学院兼任教授。専門は不動産投資、起業家精神、リーダーシップ。スタンフォード大学フーバー研究所監督委員会会長、米ジェットブルー取締役会長。投資マネジメント会社、ピーターソン・パートナーズ(ユタ州、ソルトレークシティー)創業者兼取締役会長。1971年ブリガム・ヤング大学卒業、73年ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。著書に“The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great” (AMACOM, 2016)。

釈明せず謝罪し続けるCEO

佐藤:1998年の創業以来、順調に業績を伸ばしてきたジェットブルーが、会社存続の危機に見舞われたことがあります。2007年2月14日のことです。バレンタインデーのこの日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港を暴風雪が襲い、空港も機内も大混乱となりました。フライトのキャンセル、遅延が相次ぎ、中には何時間も機内で待機させられた乗客もいました。ジェットブルーにはクレームが殺到し、最終的には13万人の乗客に影響が出る大事件となりました。なぜ、ジェットブルーはこの「バレンタインデーの危機」を乗り越えられたのでしょうか。

ピーターソン:その理由は2つあると思います。1つは、この事件の後、すぐに航空旅客権利章典(筆者注:フライトのキャンセル、遅延、手荷物の紛失等、乗客が不利益を被った場合の補償内容を細かく明示してある章典)を発効したこと。アメリカの航空会社としては初めての試みでしたが、権利章典に従い、ご迷惑をおかけした乗客にすぐさま補償することを決めました。たとえば4時間以上、機内で待機することを余儀なくされた乗客に対しては、航空券料金を全額払い戻しして、無料の往復航空券を提供しました(筆者注:現在は補償内容が一部変わっている)。

もう1つは、デビッド・ニールマンCEO(最高経営責任者、当時)が、すぐにマスコミの前に登場して、乗客の皆さんに真摯に謝罪したことです。出演依頼があったニュース番組やトークショーには、すべて出演して謝罪しました。

佐藤:ニールマンCEOは、生放送の番組で、司会者からかなり厳しい質問を浴びせられていましたね。

ピーターソン:彼は、「我々だけが悪かったわけではありません。悪天候はどうしようもなかったし、連邦航空局にも空港にも責任があります」と釈明することもできました。実際、あの日は、私たちの努力ではどうしようもないことが相次いだからです。

猛吹雪の中、ゲートは離陸できない飛行機でいっぱいになり、そこに次々と後続の飛行機が着陸してきました。するとゲートに入れない飛行機で、今度は滑走路があふれかえることになりました。滑走路で待機していると、今度はタイヤが凍ってしまい、動けなくなってしまう飛行機が続出。私たちは、「バスを出して、乗客を降ろしたい」と頼んだのですが、連邦航空局も空港も「それは許可できない」と言う。航空会社だけの責任だとは言い切れない状況だったのです。それなのに、ニールマンCEOは「お客様に迷惑をかけたのは我々の責任で、今後このような失態を二度と起こしません」と謝罪しつづけました。

やりすぎではなかった多額補償金

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:日本でも悪天候によるフライトの遅延・キャンセルというのは日常茶飯事ですが、航空券代を全額払い戻しした上に、無料の往復航空券を提供する、という手厚い補償は聞いたことがありません。

ピーターソン:私は当時、ジェットブルーの取締役でしたが、ニールマンCEOは対応を間違えた、と思いました。いくら補償するにしても、それはやりすぎだろう、と思ったのです。

佐藤:ジェットブルーは13万人の乗客に補償するために、2000万~3000万ドル(約20億~30億円)を支出したと報道されました。

ピーターソン:確かに多額の補償金を支払いました。しかし、今となれば、彼の判断は正しかったと思います。払いすぎだ、と思った私が間違っていたのです。彼が乗客の期待以上の金額を補償したからこそ、顧客からの信頼を取り戻した、というのは紛れもない事実だからです。

それだけではありません。彼は乗客に許してもらえるまで、真摯に謝罪しつづけました。「私たちは失敗しました。このようなことは二度と起こしません。さらによいサービスを提供できるよう努力します。どうかジェットブルーを信頼してください」と。彼が釈明せずに、ひたすら謝罪したからこそ、顧客からもう一度信頼してもらえたのです。

佐藤:ジェットブルーはその後、顧客からの信用を取り戻し、2015年度の売上高は64億ドル(約6400億円)まで成長しました。2007年時の2倍です。ジェットブルーのケースは経営大学院の教材にもなっていますが、顧客に期待以上のサービスをする、期待以上の補償をする、というのは企業の成長を促すということで、その後、ホテル業界などにも広がってきています。すべては信用から、ということですね。

この類いまれなる企業文化は、1998年の創業以来、創業者のニールマン氏とピーターソン教授がともに築きあげてきたものでしょうか。

ピーターソン:ジェットブルーの社員全員です。社員全員が一丸となってその企業文化を守らなくては、信頼をベースとした組織は成り立ちません。信頼できない人や、社風に異議を唱える人がいては、組織が揺らいでしまいますから、カルチャーに合った人しか採用しませんし、合わない人は辞めてもらうことになります。

お金のためだけに働くのではない

佐藤:ということは、価値観を確認するための採用面接がとても大切だということですね。

ピーターソン:もちろんです。どこどこの大学を卒業したからとか、大学の成績がよいからとか、こういう技術スキルを持っているからといったことだけを見て、採用することはまずありません。顧客のためにつくす精神をもっているか、企業文化に合っているかどうか、信頼できる人かどうか、を見極めます。我々のような、強い信頼関係をベースとした企業にとって、社員の採用は生命線なのです。

強い信頼関係というのは、企業の成長に強い力を発揮する素晴らしいものですが、同時に脆(もろ)いものでもあります。社員が1人でも顧客や同僚の信頼を裏切るような行為をすれば、会社全体に大きな影響が出ます。再びその信頼を取り戻すのは至難の業なのです。

佐藤:多くの日本企業では、若手社員のモチベーションの低下が問題となっています。ジェットブルーでは、若手社員にやる気をだしてもらうために、何か特別なことをしていますか。

ピーターソン:特に若手社員を対象とした人材教育はしていないですね。やる気のない人は採用されませんから。20代であっても60代であっても、「顧客の安全を最優先する」「人間味あふれる航空旅行を提供する」というミッションに共感している人が集まっているからこそ、期待以上のサービスができるのだと思います。

佐藤:ミッションさえぶれなければ、社員のモチベーションを保てる、ということでしょうか。報酬はそれほど重要ではありませんか。

ピーターソン:もちろんお金がモチベーションになることは確かです。ですから給与やボーナスは最低限、業界平均レベルを保つ必要があります。しかし、そもそも人間は何のために働くのでしょうか。お金のためだけではありませんね。素晴らしい人々とともに何かを成し遂げたい、世の中に役に立つことをしたい、と思うからこそ働くのではないでしょうか。報酬をあげるだけでは、本当に顧客に喜んでもらえるようなサービスは提供できないと思います。

「スタンフォード 最強の授業」は原則日曜日に掲載します。

The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great

著者 :Joel Peterson
出版 : Amacom Books
価格 : 1,751円 (税込み)

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