高級女性ファッション「猫」人気 世界的ブームの理由
ファッションの世界で「猫」の人気が高まっている。これまでも通販会社フェリシモ「フェリシモ猫部」など、ファッション小物や生活雑貨での猫をモチーフにした商品は増えていたが、2016年は高価格帯のファッションの世界でも猫をモチーフにした商品が増えた1年だった。
イギリスのステラ・マッカートニーからは猫をモチーフとしたサングラスが登場。従来の「キャットアイ」と呼ばれる釣り目型のものよりもやや丸いフォルムが特徴だ。キッズサイズも同時に発売され、親子で着けることができる。
アレッサンドロ・デラクアが手掛ける「ヌメロ ヴェントゥーノ」では、バッグのワンポイントやパンプスのヒール部分にクリスタルでデザインされたものから、セーターなど、さまざまなアイテムで猫があしらわれている。
きっかけは、ファッション界の帝王から
ハイファッションの猫ブームの要因のひとつといわれているのが、デザイナーのカール・ラガーフェルド氏。自身のブランドのほか、世界的ブランド「シャネル」のデザイナーも務める人物だが、彼が2011年より飼い始めた愛猫シュペットをモチーフにした作品を送り出している。2015年には、メーキャップブランドのシュウ・ウエムラとコラボレートし話題になった。
そごう・西武のプライベートブランド「LIMITED EDITION」は、これまでにも多くのデザイナーやクリエーターとコラボレーションを行ってきたが、9月9日にラガーフェルド氏と組んだ「LIMITED EDITION by KARL LAGARFELD」をデビューさせた。
「女性の社会進出が目立つ中、責任ある立場で主体的に仕事をこなすキュートでスイートな日本女性のためのコレクション」とうたう同ブランドでも、シュペットはカール・ラガーフェルド氏をイラストにした隣に寄り添っているほか、トレーナーやTシャツなどのアイテムにタッチを変えて描かれている。
面白いのは購買年齢層。置かれたフロアはヤング・キャリアフロアだが、このブランドを買うのは20代前半から60代くらいまでと、幅広いことだ。
「若い方は、雑貨やカットソーの単品買いが多いですが、40代以上の方はツイードへの反応が良く、セットアップや他のアイテムとのおまとめ買いも目立ちました。ファッションに詳しい方、フランスのカール・ラガーフェルドショップを利用した経験のある方もいらっしゃいました」(そごう・西武広報)
売れ筋1位はシュペットが刺しゅうされたトップスだという。
「そごう・西武でも、岩合光昭さんの写真展が人気を集めるなど、ここ数年の猫人気には目を見張るものがあります。ブームの背景について分析する立場にはありませんが、愛らしさだけでなく、気ままで自由な姿が広く人々の心を捉えているのかもしれません。ブームの延長として、遊び心のあるファッションアイテムとしての猫ファッションの支持が高まっていることは事実です」(そごう・西武広報)
世界のファッション界でもまれな現象
ハローキティをはじめ、大人でもかわいい動物のついたプリントの服を着ている人はいるが、このような"猫"現象がハイブランドで起こるのは珍しい。
東京とパリを拠点に活動するファッション&デジタルディレクターの近藤陽子さんも「これまでにもアニマルモチーフというのは多々あったものの、その中でも猫だけにフォーカスしたアイテムがハイファッションの世界にも登場したのはまれな現象」とみている。
「ドルチェ&ガッバーナ、シャネル、ロエベ、ステラ・マッカートニーなど、まるで示し合わせたかのように多くのブランドがこぞって猫をフィーチャーしています」
このブームの火付け役はだれなのか。近藤さんは「グッチがそれにあたるのでは」とみている。
「フリーダ・ジャンニーニからアレッサンドロ・ミケーレにバトンタッチされた新生グッチが、これまでのフェミニティを踏襲しながらも、ギークでジェンダーレスな流れへシフト変換、"ちょっとダサかわ"的なノリがかわいいというムードになった。その結果、エレガントな大人の女性にも、遊び心を加えたアイテムを手に取りたいという願望が生まれてきているように思います」
ファッション業界では、犬や馬などの動物が、企業やブランドのロゴにも動物が使われてきた。しかし、なぜ猫なのか。近藤さんは猫が誰にも束縛されない生き物であることに注目している。
「猫を人間に例えると、手が届きそうなところでふっとうまくかわされてしまうような、自由を謳歌する女性像が浮かび上がってきます。情報過多で何もかもがハイスピードで動くこの時代。そんな中リラックスしたいという人々の欲求も芽生えてきて、そのような潜在的な気分をハイファッションの世界もキャッチしたのではないでしょうか」
"猫"人気の時代
2016年初頭、「今後、猫が犬の数を上回るだろう」という予想をペットフード協会が発表した。その理由として、犬の飼育数が2012年から減少傾向にあるのに対し、猫がほぼ横ばいであること、単身家庭でも飼いやすく、散歩などの必要がないことも挙げられていた。
猫人気は日本にとどまらない。猫カフェがフランスや台湾、韓国など日本以外の国でもオープンし、アメリカの「グランピーキャット」と呼ばれる不機嫌そうな顔だちの猫がイベントを開催するほどの人気でジェニファー・ロペスなどのセレブリティがその顔まねをするなど、猫をめでる場面が世界的にも広がっている。
この猫人気、今後メンズファッションにもその波が訪れるのか。近藤さんによると「現時点ではレディースファッションでのトレンド色が強い」。女性ものの世界では来春も猫モチーフを取り入れるブランドが散見されるのに対し、メンズファッションではファッションに敏感な一部が着ている程度で、リアルクローズの世界にはまだ広まっていないという。
まずは小物から、というのが男性の場合は無難なようだ。例えば、スウェーデンブランドのHappy Socksは、来春のシーズンデザインに猫のプリントを採用し、主要アイテムである靴下に猫が愉快な表情をしたユニセックスなアイテムを発売する予定だが、このあたりから始めてみるのもいいかもしれない。彼女へのプレゼントなどで遊びのある猫アイテムを取り入れるのもオススメだ。
(ライター 北本祐子)
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