展示会でときめき!手ごろで和食に合う、即買いワイン
2016年11月15~16日の2日間、ザ・プリンスパークタワー東京で「ヴィネクスポ・東京」が開催された。ヴィネクスポ……早口言葉で唱えれば3回目で舌を噛みそうな名前だが、ローマ字にするとわかりやすい。「VINEXPO=VIN(ワイン)+EXPO(博覧会)」。ワイン業界では最大と言ってもいいくらいの重要なイベントだ。本拠地フランスのボルドーでは2年に1回開催されており、日本ではこれが14年に続いて2回目。フランス外で複数回開催した国は日本しかない。ワイン業界のトレンドを知るための貴重な機会なのだ。
何部屋にも分かれた迷路のように広い会場には、600以上のブースが並ぶ。フランスやイタリアなど有名産地のワインが並ぶなか、筆者が注目したのは、マイナーだけど実は歴史が古い産地で造られているワイン。地元で飲まれてきた素朴な味わいは料理に合わせやすく、価格も手ごろだ。トリュフを探り当てる豚のように嗅覚を駆使し、今回筆者が嗅ぎ当てた3つの産地のワインを紹介しよう。
生きている伝説、モルドバワイン
筆者のワインの師匠からイチ押しされたのがモルドバである、「どこそれ?」と思いながらブースに行ってみたら、その魅力にはまってしまった。
モルドバは黒海周辺に位置する旧ソ連の小国。隣にはウクライナ、ルーマニアがある。ちなみに一時期ブレイクした「恋のマイアヒ」の歌手「O-Zone」はモルドバ出身。意外と知られていないが、ワインの発祥はフランスやイタリアではなく、この黒海周辺といわれている。モルドバでは夕食時に必ず自家製ワインを飲む。伝統的なワイン国なのだ。
まず目を引いたのは、輪になって裸で踊る人たちの絵。フランスの画家アンリ・マティスの作品「ダンス」がラベルに描かれた白ワインはマスカットの香りが爽やかで、晴れた日に外で飲みたい。ラベルも面白いし持ち寄りBBQに最適……と思ったら残念ながら日本未輸入。ヴィネクスポは、このような未輸入のワインをバイヤーが買い付ける機会でもある。どなたか輸入してくれないだろうか。
美女に目がない私、ここで美女アンテナが発動した。
民族衣装をまとった美女の正体は、ヨヴ・エレナさん。すぐさま話しかけると、現役一橋大学院生でありながら銀座のモルドバレストラン「マルツィショール」の店長だという。エレナさんにモルドバのことをもっと聞きたい……。ヴィネクスポ後にさっそくお店を訪問した。
「そもそもモルドバの美女がなぜ極東の島国日本に?」根掘り葉掘り聞くと、日本に興味をもったきっかけは、日本の漫画・アニメだったという。「犬夜叉」「セーラームーン」にはまり趣味で日本語を勉強していたものの、徐々に日本に行きたいという気持ちが強くなり大使館の留学プログラムに応募し見事合格。いまでは母国語のルーマニア語に加え、英語、日本語を完璧に操る。本業の法律の勉強のかたわら、その語学力を生かしモルドバワインの顔としても活躍している。
「民族衣装が可愛いですね」とほめると、「これ実は、原宿で買ったものなんです……」とはにかむ。モルドバ女性の民族衣装は袖のふわっとしたブラウス(刺繍《ししゅう》が施されていることが多い)やウエストを絞ったフレアスカートが特徴で、不思議の国のアリスをもっと民族風にしたイメージ。確かに原宿のロリータファッションに似ているかも。それにしても白い肌に純白のレースのブラウスがよく似合い、本当におとぎの国から抜け出してきたみたいだ。
はっ!いけない、と本題に戻り、早速エレナさんにワインをおすすめしてもらった。
「土着品種の白もおいしいのですが、寒くなってきたので……」とはじめに出してくれたリースリングは蜂蜜のような甘い香り。じわりと染み入る甘味と酸味が疲れを癒してくれる。季節感まで考えてワインをすすめてくれるところに、おもてなし精神を感じる。あとの2種の赤ワインは、丸みがあって、心がほっこり温かくなるようなワイン。かといって野暮ったくもなく、不思議な魅力がある。
モルドバ料理の特徴は茄子、ズッキーニ、パプリカなど野菜をふんだんに使うところ。ダイエッターにも嬉しい。見た目が華やかな料理は、知人と来ても盛り上がりそう。
「モルドバは1991年に独立し、まだ小さくて若い国。モルドバの人は本当に素朴で、来客をたくさんの料理とワインでおもてなししようとする。ワインにも、素朴だけどおいしくて馴染みやすい、というのが表れていると思う」とエレナさん。おもてなしの国……なんて良い国なんだろう。モルドバを訪れたくなった。
住所/東京都中央区銀座6-4-8 曽根ビルB1F
営業時間/月~金曜 18:00~23:30(L.O. 23:00)、土曜 18:00~23:00(L.O. 22:30)
定休日/日曜、祝日
TEL070-3129-0020
※現店舗は2017年2月末まで。移転先未定
モルドバの話が長くなったが、ヴィネクスポで紹介したいワインはほかにもある。ギリシャとニューヨークだ。
ギリシャ、和食に合う白ワイン
ギリシャ神話の最高神ゼウスの太腿(ふともも)から生まれたのが、ワインの神ディオニューソス(バッカス)。古代ギリシャ人が彼を愛しあがめたように、ギリシャ人にとってワインはDNAに刻まれた文化だ。約300種類の独自の品種があるギリシャはまさに「ぶどう品種の宝石箱」だが、その中でも知っておきたいぶどう品種、アシルティコを紹介する。
アシルティコは、エーゲ海の楽園サントリー二島原産。「香りよりは、飲んだときの舌ざわりが魅力。同じような特徴を持つ和食にはぴったり」とヴィネクスポのセミナーでギリシャワインの講師だったコンスタンティノス・ラザラキス氏。いかつい名前だが、実はこのお方、ワイン業界最難関の資格「マスター・オブ・ワイン」をギリシャで初めて取得したすごい人なのだ。
ずらりと並んだグラスのうち一際目立っている赤茶色の液体は、干しぶどうから造った甘口ワインを長期熟成させた「ヴィンサント」(輸入元未定)。「お寿司と絶妙なんだ」とラザラキス氏(和食が好きらしい)。まさに甘露。あまりのおいしさについ飲み干してしまった(このようなイベントでは1日に何百種類も試飲するので、通常は吐き出すのです)。ただし、このワインは例外的で、大部分のワインは酸味豊かな辛口だ。
「アシルティコは熟成に向き、10年は寝かせられる。シャブリの特級と比較してみると、そのスタイルが似通っていることに驚くだろう。もちろん価格も断然安い」(ラザラキス氏)
辛口ワインで人気の高いシャブリの特級と似ていて値段が安いとは、いいことを聞いた。ただし、サントリー二島のワインは生産量が少ないうえ、地元の人と観光客が飲んでしまい、輸出量はごくわずか。見かけたら即刻買うべし。できたら何年か寝かせてから飲むとさらにおいしくなるはずだ。
ニューヨークのトップワイナリー初来日
「ニューヨークでワインが造られている」と言うと、驚く人も多いが、実は歴史はアメリカ一のワイン産地カリフォルニアよりずっと古い。
創業1839年アメリカ最古のワイナリー「ブラザーフッド」も来日した。青いボトルが美しいやや甘口のリースリング(オープン価格、輸入元:ノルレェイク・インターナショナル)は蜜入りの林檎や桃をそのままかじったようなフレッシュさが魅力。思わず「おいしい!」と声を上げると、「そうだろう。クリントン元大統領のお気に入りで、ホワイトハウスにも納めているんだ」と生産者が誇らしげに語ってくれた。
ヴィネクスポ前日にはニューヨークワインを専門に扱う「GO-TO WINE」主催でセミナーも開催された。「ニューヨークワインは冷涼な気候を活かしたエレガントなスタイルが特徴。大半が小規模のワイナリーだが、高品質なものはニューヨークのシティでも人気が高まっている」と代表の後藤芳輝氏。
ニューヨークワイン全体に感じたのは、品の良さ。女性で例えるなら、カリフォルニアワインが肉感的なマリリン・モンローだとすれば、ニューヨークワインはオードリー・ヘップバーンといったところだろうか。筆者の一番のお気に入りは、「ハーマン・J・ウィーマー・ヴィンヤード」のカベルネ・フラン2011(税抜き4800円、輸入元:GO-TO WINE)。カベルネ系品種によくある青臭さ(青ピーマンといわれる)が控えめで、きれいな味わい。グラスがどんどん進んで、あっという間に1本飲んでしまいそうだ。
案内役をつとめたワインライターの立花峰夫氏は「世界市場の関心が、濃厚で力強いワインから、繊細でミネラリーなワインへとシフトしてきたことも、ニューヨークワインの存在感を高める要因となっている」という。ニューヨークワイン、要注目だ。
今回取り上げたワインは、ワイン産地として日本ではマイナー。だが会場でときめきをくれたのは、このような未知のワインだった。有名産地の人気ワインは値段が高騰し、私のような庶民には手が出にくい。ワインブームは続いているように見えて、どこか倦怠(けんたい)モードを感じる日本のワイン市場。「珍しくておいしい」「おいしいのに手ごろ」なワインが、飽食ならぬ飽飲大国ニッポンに新しい風を吹き込んでくれるに違いない。
(ライター 水上彩)
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