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巨大ベンチャーより中堅・中小に魅力(藤野英人) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者

2016/11/29

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「巨大ベンチャー企業が出てくることは望ましいが、日本の強みは中堅・中小企業の底力にある」

 私の大事な仕事の一つにベンチャー企業の経営者の支援があります。これまで支援した会社が複数上場しましたし、今後も複数社上場していくことになるでしょう。

 日本のベンチャー市場は海外に比べても株式上場する会社が多く、その顔ぶれも多彩です。今をときめくIT(情報技術)の会社もありますが、地方のドラッグストアの会社や、地元に根差したスーパーマーケットの会社もあります。先端的な会社ではないこのような会社の上場に関しては否定的な見方も少なくないようです。「上場はもっと先端的な会社に特化すべきである」と。

 また、さらにはこのような意見も多くあります。「日本にはなぜ時価総額の大きなベンチャー企業が出てこないのか」「米国に比べて魅力が乏しく夢がない」と。

 本当にそうでしょうか。1兆円の時価総額のベンチャー企業が出てくることは望ましいし、素晴らしいことだと思います。そしてそのような会社を目指すことは悪くない。

 しかし、そのような巨大なベンチャー企業をつくることが本当に幸せなことなのでしょうか。その会社のオーナーやその会社に初期から投資をした人にとっては素晴らしいことでしょうし、それだけの価値を生み出したということは消費者にとっても支持を受けたということだと思います。とはいえ、1兆円の時価総額の会社のオーナーは発行済みの3割くらい株式を持っても3000億円もの資産家になります。でも、そんなお金持ちをつくることがそんなに良いことなのでしょうか。

 私は時価総額100億円くらいの上場企業が100社登場する方が実はもっと幸せな社会が生まれるのではないかと考えています。なぜなら100人の上場企業の社長をつくった方がもっと社会の厚みができると考えるからです。おそらく1社当たり役員も含めて10人は主要な幹部がいるので、時価総額100億円規模の上場企業が100社あれば、100人の社長と1000人の幹部をつくることができます。おそらく社長は数十億円の資産を持ち、幹部も1億円くらいの資産は持てるのではないでしょうか。

 そのような人たちが独立して意思決定して、日本や世界のために動いた方がもっとより良い社会につながるのではないかと思います。1兆円企業の会社の部長さんは数十人はいるでしょうし、非常に立派な社会的責任を果たすだろうと思います。そして大資産家になった社長は個人としてもより大きなリスクを取ることができるので、社会的な役割も大きくなるでしょう。

 ひとりが自分の3000億円くらいの資産の使い道を考えるよりも100人の人たちがそれぞれ30億円の資産をどう使うかを考えた方がよりきめ細かい使い方になるでしょうし、社会に対する浸透度はより高いであろうと思います。

 お隣の韓国の経済は今非常に苦境に陥っています。韓国を代表する企業であるサムスングループの不調の影響も大きいと思いますが、韓国経済は財閥は非常に力を持っているけれども、中堅・中小企業の厚みが日本よりも弱いといわれているからです。

 日本が長期に景気低迷しながらも、底力を持って社会が崩壊しないのは、米国や韓国などに比べても中堅・中小企業が多く、その足元がしっかりしているからでしょう。

 そのような点も考えあわせると、日本に巨大ベンチャー企業があまり存在せず、小ぶりの上場企業が多いということも決して目くじらを立てることではありません。それどころか、日本の強さとして誇れるのではないかと思うのです。それが日本の魅力ではないでしょうか。

 しかも、時価総額100億円くらいの会社であれば、さらに頑張ると1000億円台の会社を狙えることはしばしばあります。実際に、私たちが過去投資してきた会社で時価総額100億円の会社が1000億円に変貌していった例は枚挙にいとまがありません。「ユニクロ」のファーストリテイリングやソフトバンク、楽天などは上場したばかりのころはそれほど時価総額の大きな会社ではありませんでした。

 野球でもヒットを狙っているうちにホームランになるようなことはしばしばあります。一方で、ホームランを狙ってバットを振り回してもヒットにならないことも多いわけです。

 同様に、企業の成長のためには時価総額の小さい会社に的確に投資をしていく個人投資家や機関投資家も必要になっていきます。上場=ゴールではありません。上場してからも着実に成長していく会社をつくるためには、それを叱咤(しった)激励する投資家とセットで育てる仕組みが求められます。

 日本では、新興企業を上場まで支援するベンチャーキャピタリストやベンチャーキャピタルの育成については議論になりますが、上場している新興企業に投資する個人投資家や運用会社の支援については話題にのぼることは少ないと思います。当社はこの分野での投資をとても重要視していますが、新興上場企業に投資する投資家をもっと育成することも国家的な成長戦略の軸の一つにいれるべきではないかと考えます。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏と楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏が交代で執筆します。
藤野 英人(ふじの・ひでと) レオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)。1966年生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)に入社。96年ジャーディンフレミング投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)に入社。「JF中小型オープン」は1年間の上昇率219%を記録。驚異的なパフォーマンスを上げ、「カリスマファンドマネジャー」と呼ばれた。2000年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントに入社。03年レオス・キャピタルワークス創業。CIOに就任。09年取締役、15年10月社長就任。明治大学非常勤講師なども務める。著書に「投資家が『お金』よりも大切にしていること」(星海社)など多数。

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