不眠の人もぐっすりの枕 アスリート向け技術使う
百貨店などでオーダーメード枕専門店「ロフテー枕工房」を展開する寝具メーカー・ロフテーは2016年11月10日に「ハードワークやストレスで眠れない人たちがよく眠れる枕」をテーマに開発した「リラクシングピロー」を発売した。
これは、ポリエステルパイプを使用した枕を、筒状になったポリエステル綿の軟らかいパッドで包み込んだもの。パイプ部分は5つのユニットに分かれており、あおむけや横向きなどのあらゆる寝姿勢でも安定できる構造になっている。寝返りを打ちやすいように、幅を同社の一般的な商品より10cm長くしたという。
この枕の最大の特徴は、スポーツ後や疲労時のリカバリーウエアで知られるベネクスが開発した枕カバーがセットになっている点だろう。枕カバーに使われているのは、ナノプラチナを練り込んだベネクス独自のポリエステル繊維「PHT(プラチナ ハーモナイズド テクノロジー)」。この繊維から発生する微弱な電磁波によって、筋肉がほぐれやすくなり、血流が促進されるという。商品開発に協力した早稲田大学スポーツ科学学術院教授ですなおクリニック院長の内田直(すなお)医師によると、筋肉がゆるんだり血管が拡張したりすることで、リラックス効果をもたらす副交感神経が優位になり、深く眠れるようになるそうだ。
扱う商品はともに休養を目的としたものだが、一方はスポーツ用品で、一方は寝具。売り場がまったく異なる2つのメーカーが、どのような経緯でコラボレーションすることになったのか。コラボを持ちかけたベネクスの中村太一社長に話を聞いた。
運動をしていなくても「疲れている、眠れない」という声
ベネクスは、東海大学、神奈川県の産学公連携事業としてスポーツ後のリカバリーウエアを開発。「体を締め付けず、ゆったり着るだけでスポーツ後の筋肉疲労を和らげる」として、半袖や長袖のTシャツ、ハーフパンツなどを中心に展開している。主な売り場はスポーツ用品店、トレーニングジム、百貨店のスポーツ用品売り場など。ドイツの競泳代表チームが採用するなど、アスリートをはじめ、スポーツを趣味とする人にも愛用者が多い。
しかし、「日常的にスポーツをするわけではないが、『疲れが取れず、よく眠れない』という理由でベネクスの商品を買い求める人が近年増えている」と中村社長は話す。「睡眠改善のために開発した商品ではなかったが、筋肉がほぐれたことでリラックスでき、結果的に眠れたという人が多かったようだ」(中村社長)
そこで、ウエアをパジャマ代わりに着てもらうだけでなく、より睡眠に特化した商品を作れないかと考え、ロフテーに話を持ちかけたという。スポーツをしない人にとって、ベネクスの認知度は高くない。しかし、寝具売り場に商品が置かれることで、新たな顧客を獲得するきっかけになるとも考えているようだ。
ロフテーの顧客は「百貨店によく行く人が中心」
一方、ロフテーといえば、首のカーブや好みに合わせて素材や高さを選べるオーダーメード枕が有名。百貨店に直営店を設け、1人につき30分から1時間かけてカウンセリング販売している。ユーザーは40代から50代の男女が中心だ。だが「これまでの販売方法では、百貨店に足を運ばない20代や30代、高齢であることが理由で外出できない人を取り込むことはできなかった」(ロフテー広報)。オーダーメード枕は同社の公式オンラインショップでも購入できるが、素材や高さなどの組み合わせが複雑で、初回購入者には少々ハードルが高い。そこで、若い層に向けて開発したのが今回の枕というわけだ。
ネット販売で求められる、商品のわかりやすさ
2016年3月にロフテーが高反発マットレスを扱う「エアウィーヴ」の傘下に入り、販売戦略を見直したことも開発のきっかけとなった。親会社の方針で、ネット販売や旅館業への売り込みなど、百貨店以外の販売チャネルを拡大することに。そのため、難しいカウンセリングが不要で、ユーザーにアピールしやすい商品を開発する必要があったというわけだ。さらに、今後はエアウィーヴがすでに事業展開している中国や台湾、シンガポールなどの海外にも進出していく予定だ。
「国内外のアスリートを中心に幅広く支持されているベネクスの実積を見て、自社の枕と組み合わせれば疲労の軽減が期待できるのではないかと考えた。今後もカウンセリング販売と並行し、商品をじっくり選ぶ時間がない人に向けて、特徴が明確で分かりやすい商品を作りたい」(ロフテー広報)
寝具メーカー以外のものも含めると、ネットで購入できる機能性枕は数多くあり、価格も数千円から数万円までさまざま。ロフテーの枕の耐用年数は2年から3年で、ベネクスが開発した枕カバーは「洗濯を重ねても、素材の特徴は半永久的に続く」(ベネクスの中村社長)とのこと。百貨店に行かない若い層が、2万3000円という価格に見合う価値を感じるかどうか、気になるところだ。
(ライター 樋口可奈子)
[日経トレンディネット 2016年11月16日付の記事を再構成]
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