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会社勤めしながら、町家を改修して宿泊施設をオープンした岩崎達也さん(京都市)

会社勤めしながら、町家を改修して宿泊施設をオープンした岩崎達也さん(京都市)

若い世代を中心に、いくつもの仕事をかけ持ちする「多刀流」の働き方が生まれている。生計を立てるための仕事のほかに社会貢献のための仕事、仲間と楽しむ仕事など、様々な仕事を組み合わせてキャリアの幅を広げている。柔軟な働き方の実現に向けて政府が副業を促進する姿勢を打ち出すなか、そうした二刀流のさらに先をいく「達人」を追った。

京都市の二条城からほど近い場所に5月、築100年以上の町家(延べ床面積約80平方メートル)を改修して、小さな宿泊施設がオープンした。

旅館業法上の許可を受けており、1日1組が泊まれる。それだけではない。京都のアーティストらが作った雑貨類が飾られていて購入できる。階段などには折々のテーマに合わせた本が置かれている。今は1960年代から時代ごとの話題本が出迎える。

「宿泊者の部屋以外は誰でも入れる。いろんなテーマで並ぶ本などを楽しんでもらえれば」と話すのはこの施設「MAGASINN KYOTO(マガザンキョウト)」を運営する岩崎達也さん(31)だ。

副業を認めているIT(情報技術)系企業で働きながら、朝晩や週末を利用してこの施設の実現に奔走してきた。さらにデザイン関係の別のプロジェクトを仲間と手がけており、そちらの仕事にも余念がない。

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ITを利用して

ITを利用して"4足のわらじ"をはくイセオサムさん

副業といえば、ささやかな小遣い稼ぎのイメージが強いが、多刀流の達人たちは大胆に、いくつもの本格的なプロジェクトに挑んでいる。元テレビ局社員でスマートフォン(スマホ)向け人気画像アプリ「bokete(ボケて)」の生みの親でもあるイセオサムさん(33)は現在、「4足のわらじ」をはく。

「ボケて」を運営するローディー(東京・港)、ウェブサイト運営のオモロキ(静岡県熱海市)、バイク用品のフリマアプリを手がける狩猟社(東京・豊島)の役員を務め、このほかに個人事務所のプレイ(東京・世田谷)を営む。「今はどの仕事をしているんだっけ、と分からなくなることもある」と笑う。

二刀流で名をはせるプロ野球の大谷翔平選手や、二刀流の名手、宮本武蔵も驚きそうな多彩な攻め口。性格の異なる仕事を組み合わせ、したたかに立ち回る様子が浮かぶ。剣術に例えるなら、3種類の「剣」を繰り出している。

【稼ぐための剣】 まず経済基盤を築くため、会社勤めや利益の見込める企業運営を軸に据えていることが多い。冒頭の岩崎さんは、会社勤めで生計の基盤を固めながらマガザンキョウトの開設準備に着手。「マガザンでやっていける感触をつかんだ」ため8月に退職し、今度はマガザンキョウトを基盤に、仕事の幅を広げようとしている。

ITエンジニアで、一般社団法人コード・フォー・ジャパン(東京・台東)の代表理事を務める関治之さん(41)は、現在、IT関連のベンチャー企業を2社運営。そこで生計の基盤を固めながらコード・フォー・ジャパンを通じた社会貢献活動に打ち込む。

【社会貢献の剣】 関さんは東日本大震災が起きた2011年3月には検索大手のヤフーに勤めていた。震災発生から4時間後、被害や避難所の状況などの情報を共有するサイト「sinsai.info」を独自に開設。ほぼ1カ月間、会社を休んでサイト運営に集中した。

当時の経験を生かし、コード・フォー・ジャパンでは政府や自治体の公的情報を市民サービス向上に役立てる仕組みづくりを探っている。運行情報を生かしてバスの現在位置を示すアプリを開発するなどの工夫を提唱する。

【仲間と楽しむ剣】 多刀流を選ぶ人の多くは、意気投合した仲間との仕事に生きがいを見いだしている。「ボケて」などのアプリを手がけるイセさんは「好きな仲間たちと一緒に、いろんなやりたいプロジェクトを楽しむ。それが私の働き方」と言う。もちろん楽しみながら大きな収益をあげる例も少なくない。

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多刀流の弱点を挙げるなら、仕事時間が長くなることだ。コード・フォー・ジャパンの関さんは6歳の娘と過ごす時間が少なくなりがちだと話す。「実際の仕事は仲間に頼み、自分は運営の要所に関わることで何とかできている。だがもし自分も従業員として仕事に張りつくなら多くはできないだろう」と言う。

それでも多刀流に興味を抱く人はじわじわ増えている。IT業界で働く人向けの情報サイト「キャリアハック」を運営するエン・ジャパンの白石勝也チーフエディターは、「若いエンジニアたちは複数の仕事に関わることに違和感がない。お金のため、スキルを磨くため、会社組織では得られにくい達成感を味わうため、優秀な人ほど挑戦している」と語る。

厚生労働省が8月にまとめた報告書「働き方の未来2035 一人ひとりが輝くために」は今後、働き手が一つの会社の枠にとどまらず、プロジェクトごとに集まり働くことが増えると予測する。そうなれば幅広い業種で多刀流の働き方が生まれる可能性はある。

(平田浩司、田村匠)

[日本経済新聞夕刊2016年11月28日付]

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