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睡眠

1時間超える昼寝は危険 シエスタは短めに

日経ナショナル ジオグラフィック社

2016/12/27

ナショナルジオグラフィック日本版

 スペインのシエスタといえば長い昼寝をイメージする人が多いと思うが、実際には午後1時頃から2、3時間ほど長めの休憩を取る習慣をさす。もちろん昼寝をする人もいるだろう。しかし、単なる休憩で済ます人も少なくないようだ。

 太陽と情熱の国と言われるスペインでも、さすがに暑さと直射日光を嫌う人が多いらしい。情熱はともかく体熱が上がっては困るので、体調管理のための生活の知恵としてシエスタの習慣が生まれたと考えられている。

 シエスタのような長い昼休み(休憩+昼寝)が社会習慣化している国はスペイン語圏を中心に世界30カ国以上ある。それが証拠に緯度の低い熱帯、亜熱帯地域で多い。

(WebbとDinges(1989)、睡眠学(日本睡眠学会編、朝倉書店)から一部改変)
シエスタが文化的に許容されている国々
【アジア】アフガニスタン、ミャンマー、カンボジア、インド、マレーシア、中国(チベット)、台湾、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン
【アフリカ】ケニア、ナイジェリア、シエラレオネ、ウガンダ、マリ、ブルキナファソ、エチオピア、セネガル
【中東】エジプト、イラン、オマーン、シリア
【ヨーロッパ】ギリシア、セルビア・モンテネグロ、イタリア、スペイン、ポルトガル
【オセアニア】オーストラリア、パプア・ニューギニア、サモア
【北中南米】メキシコ、ブラジル、コロンビア、ハイチ、ジャマイカ、パラグアイ

 シエスタと聞くと怠け者や生産性の低さというイメージがつきまとう。これは寝不足自慢の日本人に特有な偏見ではなく、知人の米国人や欧州の人々も同様な印象を持っているようだ。しかし少なくともスペインでは夕方から21時過ぎまで店は再開するので、実労働時間はさほど変わらない。

 このような「2相性(夜間睡眠と長い午睡)」の生活リズムはいったん始まるとなかなか抜け出せない。帰宅や就寝時刻が遅くなるだけでなく、長い午睡をとると夜の眠気が減るため、睡眠時間は短くなる。睡眠不足を補うために長い午睡が必要になるという循環である。

■昼寝が1時間を超えると死亡危険率が急増

 ところで、シエスタsiestaの語源はラテン語のhora sexta(sixth hour、6時間目)である。つまり起床してから6時間後のお昼過ぎの休憩というわけである。もともと眠気には2相性の日内変動があって、ちょうどシエスタの時間帯(13時~16時)あたりに眠気が強まる(関連記事:「ああ眠れない…そこは『睡眠禁止ゾーン』」だった」)。シエスタで眠りやすいのはこのような眠気の性質も利用している。

 この昼食後の眠気(post-lunch dip)が生じるメカニズムは実はよく分かっていない。12時間周期の生体リズムの影響、食後の副交感神経活動の高まり、覚醒に関わる脳内ホルモンの変動など諸説あるが、睡眠不足も一役買っているらしい。

 というのも、「健康な人」でも、実験的に普段よりも1時間ほど長く眠らせると昼食後の眠気はほとんど無くなるからである。この辺の話は前回の「潜在的睡眠不足」にも通じる。言い換えれば、シエスタでたっぷりと眠れる人は睡眠不足とシエスタの悪循環にハマっている可能性がある。

(イラスト:三島由美子)

 スペインをはじめ多くの国々で取り入れられているシエスタだが、シエスタ中に長く寝過ぎると健康を害する可能性があることが多数の疫学調査から明らかになっている。

 例えば、シエスタ中に長い昼寝をとる習慣がある人では、シエスタでも昼寝をしない人に比べて心筋梗塞や脳梗塞などによる死亡危険率が高くなる。特に昼寝の長さが大事で、昼寝が1時間を超えると死亡危険率が急増し、2時間のグループでは昼寝をしない人の約5倍にまで高まるなどの調査結果がある。

 長すぎる昼寝は認知症の発症率にも関わっている。1時間以上の午睡を取る高齢者ではアルツハイマー病の発症率が死亡危険率と同様に2倍程度にまで高まると報告されている。

■逆に短い昼寝はさまざまなリスクを下げる

 逆に30分以内の短めの昼寝をするグループでは、心筋梗塞や認知症の発症リスクが低いことも分かっている。

 「睡眠不足に注意! 脳の掃除は夜勤体制」の回で、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが睡眠中に集中的に脳外へと排出されるメカニズムを解説したが、昼寝を長くとっても日中ではうまく働かないようだ。

 このように、健康によいシエスタになるかどうか、その鍵を握るのは昼寝時間をほどほどに抑えることにある。

 長い昼寝はナゼよくないのか? 目覚める前の睡眠状態(眠気や自律神経活動)が覚醒後にも持続する睡眠慣性の影響や、昼寝中の睡眠時無呼吸による低酸素ストレスなどが疑われている。睡眠慣性について詳しく知りたい方は「なぜスッキリしない…目覚め感の悪さと睡眠慣性」の回をご参照いただきたい。

 長い昼寝が心筋梗塞や認知症の原因になるのではなく、そのような病気を発症する身体状況にある人では体力低下や疲労感などから長い昼寝をとる傾向があるのではないか、すなわち病気の早期兆候ではないか、とする考え方もある。

 この「卵か鶏か」論争には結論は出ていないが、少なくとも短めの昼寝を計画的にとることで、眠気が取れるだけではなく、血圧が下がる、パフォーマンスが上がる、免疫機能が高まる、などの効能が認められている。この短い昼寝を上手に活用しない手はない。

 先にも書いたようにシエスタ=眠る、ではない。短い昼寝とリラクゼーション、それが理想的なシエスタと言えるだろう。

 シエスタご本家のスペイン・バレンシア地方のある都市ではシエスタのコンクールが行われ、20分以内にどれだけ早く、長く、静かに、スマートに眠れるか競うコンクールがある。優勝者は20分間中17分眠り、静かな寝息だったとか。正に今回紹介した理想のシエスタそのもの。そのような評価ポイントを設けた主催者のセンスにも拍手を送りたい。

三島和夫(みしま・かずお)
 1963年、秋田県生まれ。医学博士。国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長。日本睡眠学会理事、日本時間生物学会理事、日本生物学的精神医学会評議員、JAXAの宇宙医学研究シナリオワーキンググループ委員なども務めている。『8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識』(川端裕人氏と共著、日経BP社)、『睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン』(編著、じほう)などの著書がある。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[Webナショジオ 2016年11月24日付の記事を再構成]

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