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都市農地、覆う2022年問題 宅地転用で空き家増加?

2016/11/27

特別養護老人ホームの設置が計画されている生産緑地(東京・練馬)

 2022年、大都市部で宅地が大量発生するとみられている。都市部の農地に求められていた農作業の義務がなくなるからだ。地価に影響を与える制度変更に業者の動きも急だ。

 11月中旬、三井ホーム横浜支店は「2022年問題!生産緑地対策セミナー」を開いた。5人の地主らは約1時間半、講師の話に聞き入った。

■転機の生産緑地

 現在の生産緑地制度は、都市部に農地を残す目的で1992年、主に三大都市圏の市街化区域で始まった。生産緑地の指定を受けると

固定資産税の軽減や相続税の納税の猶予といった税制優遇が受けられる代わり、地主は農業を営むことが義務付けられた。

 指定から30年たつと、地元自治体に農地の買い取りを申し出ることができる。財政難などから買い取れない場合、自治体は他の農家へあっせんするが、買い手がつかないと指定は解除される。税制優遇がなくなるため、地主は売却や賃貸による土地の有効活用を考える必要がある。

 三大都市圏で約1万3000ヘクタールある生産緑地のうち、約8割が22年に指定から30年を迎える。指定を解除された農地が宅地として大量に不動産市場に流れ込むとみられるため、「2022年問題」といわれている。

 セミナーに参加した横浜市の会社員の男性(58)は父親が生産緑地で農業を営む。「納税猶予を受けていると、過去に遡って課税されます」と講師役の税理士から聞き、「父親に納税の猶予を受けているかを確かめ、今後の対応を考えたい」と話した。

 三井ホーム横浜支店は8月からセミナーを始めた。相鉄ホールディングスも昨年から建設コンサルタントのオオバと組み、相鉄線沿線の生産緑地の活用を支援する。不動産関係者は、商機を逃すまいといち早く動き始めている。

三井ホーム横浜支店の生産緑地対策セミナー(横浜市)

 解除はすでに増えている。地主の死亡や営農が困難なときや公共施設をつくる場合に特例的に解除できるからだ。跡継ぎや手伝う人がいないため解除する例が目立つ。

 川崎市の男性(81)は今春、一部を解除した。脳内出血で倒れ、その後復帰したが「すべての土地を1人で農作業するのは無理」と判断した。解除後に賃貸アパートを建て、積水ハウスが一括管理する。

■未来像、描けるか

 さらに「農業ができずに解除した地主のなかには、早く解除した方が好条件が見込めることも理由の一つになった人がいる」(都内の税理士)のも事実だ。

 不動産業者や地主が商機を追い求めるほど、都市部で空き家や空き地が増える悪循環に陥る可能性がある。ニッセイ基礎研究所の塩沢誠一郎・准主任研究員は「人口の減少ですでに空き家問題が叫ばれる中、宅地の有効活用には限界があり、空き地が多く発生する」と危惧する。

 そもそも政府は高度成長期、大都市圏の宅地不足から宅地並みの高い固定資産税を課して農地を宅地に転用しようとした。だが「都市部に農地は必要であるという農業関係者の要望から生まれた」(日本大学の清水千弘教授)のが現在の制度だ。その結果、生産緑地以外の都市農地は宅地化で減少してきたが、生産緑地はおおむね農地として残すことができた。ただ、ここにきて税制優遇で残してきた“ツケ”が一気に回ってくることを懸念する声は多い。

 その一方で、不動産コンサルタントの長嶋修氏は「空き家が発生するリスクがある半面、今後、場所によっては福祉施設の用地の確保など地域にとって、チャンスにもなりうる」との見方を示す。

 実際、有効活用に動く自治体も出てきた。東京都練馬区は解除を望む地主に対し、特別養護老人ホームをつくるため、社会福祉法人などへ貸し出すことを提案している。

 どんな街の未来像を描き、大量に出回る土地をいかに有効活用していくか。将来に禍根を残さないよう、政府や地元自治体は知恵を問われている。

■税優遇には不公平感も

 政府は都市農地の保全のため、生産緑地に関して、規模要件(500平方メートル以上)の引き下げや農業目的で貸し出す際の相続税の納税猶予などを検討している。ただ都市農業はそもそも、広大な土地を使った農業に比べ生産効率が低い。規模を引き下げれば、生産効率はますます悪くなる。

 都市農業には、都市住民への新鮮な農産物の供給やヒートアイランド現象の緩和、災害時の避難場所の確保などの機能がある。とはいえ、生産緑地の所有者に税の大幅な優遇を続けることに、税の公平性の点で疑問の声もある。清水千弘・日大教授は「生産緑地の農家に新たな恩恵を与えるべきではない。営農が難しい場合は公的な保全機構が管理すべきだ」と話している。

■地主関係者「自分の代で終わらせたい」

 生涯、農業を営むことを義務付ける生産緑地は農家にとって大きな負担となる。このため、次の世代に引き継ぐことなく、「自分の代でやめる」という地主も多い。

 京都府の60代の男性は昨年、生産緑地を持つ父親を亡くし、今年中に正式にすべての生産緑地を解除する。自らは研究者で、農業を営む父親を手伝ってきたが、「1人で兼業はできない」と解除を決断した。

 男性は地元以外への転勤を諦めてきた。父親1人では農作業が難しいにもかかわらず、生涯にわたり農業を続けることが義務付けられている。自分が地元に残って手伝うことにした。「自分の代で終わらせたかった」と、会社員の子どもに同じ思いをさせたくない気持ちを強調する。

 東京都東大和市。生産緑地を持つ兼業農家の60代男性は、自らは父親から生産緑地を引き継ぎ、相続税の猶予も受けた。だが、3人の子どもはみな農業以外の仕事に就く。「生産緑地を解除するなら自分の代」と決めており、「決断の時期はいずれ来る」と話す。

 生産緑地は30年間、農業を続けることでようやく指定を解除できる。これを定めた現在の生産緑地法が施行されたのは1992年。74年に施行された旧生産緑地法の下では5年または10年、農業を営むことが解除の条件だった。また、20年間、農業を続けると相続税が免除されていたが、新法では亡くなるまで免除されない。「農業=義務」という厳しい新生産緑地法が92年に生まれたのは、大都市で宅地化の動きが加速していたためだ。この都市農地を存続させる政策が、2022年の宅地の大量発生リスクを招いた面がある。

 政府は今年5月、都市農地の保全を強力に推進する方針を示した。22年以降、生産緑地制度を改正することも視野に入れているが、今また生産緑地を持つ農家を優遇しようとしているなら、「後継者もおらず農業をやめたい」という地主をさらに悩ますことになりかねない。

 都市農地の利点は様々な面で認められているが、その保全には従来と同じような対策では限界がある。新たな対応が求められている。

(福士譲)

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