SEKAI NO OWARI 次の挑戦は社会貢献、海外進出
2015年は国内最大級の日産スタジアムで単独ライブを成功させ、2016年も『NHK紅白歌合戦』に3年連続の出場が決まった人気バンドSEKAI NO OWARI。彼らが新たなフェーズに突入したようだ。
10月に発売した約1年ぶりのシングル『Hey Ho』からもその片鱗がうかがえる。ポップでファンタジックな路線へ立ち返った本作は、打ち込みも使いつつ、ホールで生楽器の録音をするなどアレンジはさらに深化している。
さらなるサプライズは、本作が彼ら自身が立ち上げた動物殺処分ゼロプロジェクト「ブレーメン」の支援シングルということだ。これまでも震災や孤児への支援をしてきたが、今回は収録曲から生じた収益を寄付に充当するほか、プロジェクトの旗振り役を務める。
Saori 幼い頃から大事にしているペットがいるとか、動物が大好きという気持ちや情熱があるわけじゃないんです。だから、「どうして?」と聞かれてもうまく答えが用意できないんですが……。
Nakajin ただ、たくさんの方から楽曲やライブで救われた、元気になったと言っていただく機会が増えて、自分たちでもできることがあるんだと少しずつ確信できるようになったんだと思います。
Saori 今回に限らず、誰かがやろうと言ったことに対して断る理由がないんですよね。東北の時は私が、熊本ではNakajinと私が言い出したら、みんなも「いいね」となった。今回はFukaseが助けたいって言ってる。それだけで十分なんです。
Fukase 僕らはきっとプライドが高いんだと思うんです。よくプライドって「高いからそれはできない」みたいに使われるけど、僕はプライドは何かを断るためじゃなく、何かをやるためにあると思っていて。何かを提示された時、できないと言うと敗者みたいな気持ちになるというか。「まだいけるだろう、俺」ってなるから(笑)。
Saori ブレーメンは認定NPO法人のピースウィンズ・ジャパンさんにご協力をいただいているので、活動自体はこれまでの支援と大きくは違いません。なので、名前だけと言ってしまえばそれまでですが、それがあることによって、より参加しやすいのかなと。
Fukase 「これで終わり、あとはお任せ」にならないように自分たちで旗を掲げました。Saoriちゃんが書いた歌詞に「大事にしたから大切になった」とあって、自分たちで作ったものならより深く中に入っていけるだろうし他人事にしないと思う。これは自分自身への意思表明ですね。
やるからにはちゃんと機能させたいから、ブレーメンのスタンスはすごく考えました。CDの売り上げを寄付しただけでは、どこかの街にシェルターを1つ作れるかどうかの力にしかならないし、もっといろんな人の力を借りなければ活動する意味がないとも思って。ただ、ぶつかって壊れてしまったら無意味なので、僕らが媒体として(特定の)思想を持たずフラットであるべきだと思い至りました。
米国ではゼロからスタート
Fukase このプロジェクトを立ち上げる時に危惧したのは、ファンの皆さん、特に子どもたちに圧力をかけてしまうのではないかということ。「(善行を)しなきゃいけない」「してない自分はダメな人間だ」という圧力にしたくなかったし、自分の思うことを押しつけたくもなかった。だから、僕らが得意なポップでファンタジーな曲にして、聴き手に負担にならないようにしたいと思いました。
Saori 実はブレーメンの話が出る以前から新曲は作っていたんですが、なかなかしっくりこなかったんです。これまでの私たちは「もっとたくさんの人に届けたい」「新しい側面を見てほしい」などシングルごとに目的を持って出してきましたが、今回はその目的がはっきり見えていなかったんですね。でもFukaseがかなり自信満々に(笑)、「次は支援にする」と言って。そこから目的に向かって一気に進めました。
Nakajin Fukaseは考えるスピードも行動に移すのも速いから、ついていくのは大変(笑)。だから刺激的で面白いけど。
Saori この話が出て、アリーナツアーの打ち上げをする余裕すらなくなったもんね(笑)。
Nakajin ツアーのファイナルの後も、普通に家に帰って『Hey Ho』を作ってたから。
DJ LOVE 活動前は、音楽業界はもっと華やかな世界でキラキラしたお店とかに行けると思ってたんだけどね(笑)。
Saori あはは。でも、思いにすぐついていけるのは、毎日一緒にいて家や移動中も今私たちがどこにいるかを話し合っているからだと思う。仕事の時だけ会っていたら、そうならないのかなと。
彼らがユニークなのは、海外公演を日本ではほとんど告知せず、あたかも当地のローカルバンドのように地道に活動しているところだ。米国での2公演は500人規模での会場。年明けにドーム&スタジアムツアーを控える国内での人気ぶりとのギャップは大きい。
Saori 海外でライブをしたいと言ったのは4年前だよね。
Fukase もう5年前じゃない? アメリカからライブを見たいとメッセージをくれるファンがいて、そういう人に向けてやりたかったから、(日本での)告知はしなかったんです。アメリカは初めてだったので、自分たちで手作りしたライブハウス「clubEARTH」で初ライブをした時(07年)に感じたことに似ていましたね。課題は山積みだなとも思ったし。
Saori 現地の人たちに伝えなきゃ意味がないから、全編英語で。未発表の英語の曲のほか、英語の歌詞に変えたりアレンジを変えたりして演奏しました。
Nakajin ほとんどが新曲だったから事前の先入観や知識もないので、お客さんのノリが余計に分かりやすかったですね。海外ではデビュー前の新人バンドだから、日本とポジションが違うのも楽しいし、パブリックイメージがないから挑戦もしやすい。僕らの中では全くの別物と捉えています。
Fukase 年内には向こうでリリースもしたいと思ってます。もし仮に、逆輸入的に日本でもリリースすることになっても、SEKAI NO OWARIとしては出さないつもりです。
Saori 「clubEARTH」から世界が少しずつ開けていった時のような、ぜんぜん違う風が入ってきていると感じますね。けど、来年のドームツアーのような規模でしかできないこともある。
Fukase そうだね。僕ら、ドームは初めてなんですよ。飛び越えてスタジアムだったから。
Saori Fukaseの発案で、本編は完璧に作り込んでMCもなしのショウみたいな内容なので、これも新しい試みです。
Fukase 僕が書いたストーリーが展開されるんですが、見る側は面白いんじゃないかなぁ。僕らは主演じゃなく脇役(笑)。
Saori セットを組んでみないと全貌が見えてこないので、今は不安でいっぱいです。だから楽しみでもあるんですよね。
プロジェクトへの覚悟を嵐の海に漕ぎ出そうとする主人公に重ねた表題曲は、ケルト音楽などを取り入れたファンタジックでドリーミーな編曲が印象的だ。
カップリングの『Error』は、戦うために生まれたマシンが恋をするという空想世界がセカオワらしい。
(ライター 橘川有子)
[日経エンタテインメント! 2016年12月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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