近年の男優界を振り返ると、堺雅人主演のドラマ「半沢直樹」が高視聴率を取り、NHK大河ドラマ「八重の桜」で西島秀俊が話題になった2013年を起点に、40歳以上の男優に関心が集まる波があった。昨年は「恋仲」で福士蒼汰が連ドラの主演を務めるなど、20代の台頭が目立った。しばらく大きな動きが見られなかったのが30代。しかし、ここにきて主役、脇役問わず、様々なタイプの男優が人気を得ている。
王道主役系や異業種新勢力
まず、小栗旬や生田斗真に代表される、「意欲作続く王道主役」(タイプ1)がいる。20代の頃からスター街道を歩みながらも、挑戦的な作品に参加し、進化し続けている。
次に、30代になってから当たり役に出合い、一気に評価を上げる「難役やギャップで急上昇」(タイプ2)する人が目立ってきた。悪役で一目置かれるようになった小泉孝太郎や、熱血キャラが似合うが、「カインとアベル」(フジテレビ系)では完璧主義のエリートを演じている桐谷健太といった面々だ。
ミュージシャンを中心とする「異業種からの新勢力」(タイプ3)も拡大中。象徴的なのが海外で活躍してきたディーン・フジオカで、10月からアニメ「ユーリ!!!on ICE」の主題歌を担当するなど、話題が尽きない。マルチな才能を持つ星野源は、放送中の「逃げるは恥だが役に立つ(逃げ恥)」(TBS系)で新垣結衣の相手役を演じるとともに、主題歌も担当。多方面からファンを得ている。
また、出演作が途切れず、引っ張りだこの「色気スーパーサブ」(タイプ4)も注目度が高まってきた。脇役でも印象を残す実力派で、高橋一生や新井浩文、平山浩行が代表格だ。
今は、タイプ1~4まで「売れっ子」のあり方が変わってきている。脇役のポジションでもスター並みに支持を得られるケースがあるのだ。なぜか。
ドラマが変化 活躍の幅拡大
タイプ1 意欲作続く王道主役 | |
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生田斗真、瑛太、小栗旬、玉木宏、妻夫木聡、藤原竜也、向井理ら | |
解説 | 映画・ドラマ界全体をけん引する力のある男優が並ぶ。容姿端麗で華があるが、挑戦的な作品にも積極的に参加し、進化し続けている |
タイプ2 難役やギャップで急上昇 | |
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綾野剛、柄本佑、桐谷健太、小泉孝太郎、斎藤工、鈴木亮平、長谷川博己ら | |
解説 | 30代になって役に恵まれ、難役やギャップのある役がハマって一気に関心度が高まったケース。若い頃よりもさらに輝きを増している |
タイプ3 異業種からの新勢力 | |
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井上芳雄、浦井健治、今野浩喜、DAIGO、ディーン・フジオカ、星野源、山崎育三郎ら | |
解説 | ジャニーズなどと一味違う、新勢力が拡大中。星野源は中高生からの人気も高い。ディーン・フジオカも相変わらずの注目度の高さだ |
タイプ4 色気スーパーサブ | |
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青木崇高、新井浩文、大谷亮平、駿河太郎、高橋一生、波岡一喜、平山浩行ら | |
解説 | ドラマや映画に途切れなく出演する演技派が並ぶ。「実力プラス大人の色気」で、主役以上に女性に注目されることが多い |
(注)年齢は2016年末時点
1つは、客の目が肥えてきたことと、交流サイト(SNS)での評判の拡散などがあり、俳優としての力量がきちんと評価されるようになったことだ。30代で引っ張りだこの人たちは、どのタイプも実力派であり、役を自分のものにし、客の心をとらえる表現ができる。高橋一生が出演する17年のNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」制作統括の岡本幸江氏は、「経験を積んだ演技の確かさがありますし、こちらの思っていたものとはまた別の引き出しを見せてくれます」と語る。
2つ目は作り手が使いたくなるのが30代だということ。映画「ミュージアム」で小栗旬を起用した大友啓史監督は「芝居の体力がすごくある」と話す。「長時間にわたって叫んだり、精神的に追い詰められたりする“壊れる”芝居が多いなか、小栗さんはすぐにリミッターを外して演じてくれる。主役を張ってきた俳優ならではの、脂の乗ったところを見せてくれた」と語る。放送中の「Chef~三ツ星の給食~」(フジテレビ系)で小泉孝太郎を起用したプロデューサーの長部聡介氏も「20代の勢いだけではない、かといって40代のような風格があるわけでもない、とらえどころのない世代」だと話す。これまでの個性だけでは通用しなくなると本人も意識的になる頃で、「だからこそパブリックイメージとは違うアプローチをしたらどうだろうとか、制作側の意欲もかきたてられます」(長部氏)。
そして3つ目に、現在のドラマ界の変化がある。10代が主人公のドラマが極端に減り、背負うものがある大人になってからのつかみ取りたい夢を題材にすることが増えた。星野源が出演中の「逃げ恥」プロデューサーの那須田淳氏は、「ドラマとして描きたい世代が移行してきた」と明かす。コミュニケーション方法や社会的な価値観が複雑になり、「20代でも一人前だとは認められない部分もあるぐらいで、大人になってからもう一歩成長しなければいけない。そこで何ができるかというところに今はドラマがあるので、30代の登場人物が光る作品が多くなるんです」(那須田氏)。
輝けるフィールドが増えたことと、演じ手の力量が釣り合っていることが、30代俳優の活躍の幅の広さにつながっていそうだ。
(「日経エンタテインメント!」12月号から再構成。文・内藤悦子)
[日本経済新聞夕刊2016年11月26日付]