空心菜やスパム専用カッターも 用途激狭調理グッズ
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの料理道具を徹底比較。今回は「使用範囲が狭すぎる調理アイデアグッズ」。調理にまつわるあらゆる悩みや不満を解消するために開発された調理道具は、その要望が細かいほど、特定の人には歓迎される一方、一般には敬遠されてしまう傾向があります。開発に時間とお金がかかっているのに注目されない、そんな調理グッズを検証します。
想定外に売れた? マニアック過ぎる便利グッズ
こんにちは、飯田結太です。調理道具は主に展示会などで見つけて仕入れますが、それだけだと少し物足りなさが残ります。そこで私が日課にしているのが、インターネットで世界中のキッチンツールを探すこと。いい商品を見つけたら海外から直接仕入れることもしばしば。しかし、せっかく仕入れた調理グッズでも、あまりにも用途が狭すぎたり、食材が限定されすぎたりして見向きもされないことが多々あります。かと思うと、名指しで「●●●は置いていますか」と買いに来る料理人もいたり。このギャップが面白いところ。そこで今回は、使い道が狭すぎる調理グッズを検証します。
まずは、予想外に注目されたグッズから。
プロが名指しで買いにくる、あの缶詰専用グッズ
「スパム」をご存知でしょうか。米国のホーメルフーズが販売しているポークランチョンミートのことです。このランチョンミートをスライスするためだけに開発されたのが「スパムカッター」。形はゆで卵カッターの大型版のような作りで、スパムの消費量が多く、スパムむすびの発祥の地でもあるハワイのロングセラー商品なんです。
ランチョンミートを包丁でスライスしようとすると、滑ってしまって、均等に切るのは難しい。しかし、このカッターだと予想以上に軽く、きれいに11分割できます。とはいっても、このカッターは、サイズがスパムにしか合わず、ほかの用途には使えません。よほどスパムが好きな人でないと注目しないだろうと思っていたのですが、その切れ味の良さは口コミで広がったらしく、隠れたヒット商品となりました。
購入していくのはプロの料理人。しかも、「スパムカッターはありませんか」と名指しで来店します。きっとスパムバーガーやスパムむすびを作っているプロにとっては欠かせないグッズなんですね。
空心菜をさらに細くカットするグッズ
中華料理の定番食材のひとつ、空心菜。茎の部分が空洞になっていて、シャキシャキとした食感が特徴です。日本では主に炒めものに使いますが、ベトナムでは千切りにしてサラダとして食べることが多いのだそうです。「空心菜カッター」はそんなベトナムで開発されたサラダのためのカッター。
使い方は簡単。空心菜1本に長い串の部分を差し込み、上部に付いている刃から押し出すと、千切り状態になって出てくるというもの。「これは面白い!」と思い、すぐに仕入れました。しかし、千切りは1本ずつしかできないのです。のんびりと下ごしらえをするならいいのですが、日本でそれは考えられません。きっとこれも売れ残るだろうと思っていました。
ところが、これが女性に人気が出てほぼ完売に! 大変驚いているんです。アジア料理とサラダに関する調理道具は女性心をくすぐるのかもしれません。
出せば売れる? 卵関連グッズ
調理器具の中で多いのが卵関連の商品です。そして、なぜか卵関連グッズは注目されるのです。それだけ、扱いにくい食材なのに料理としてはバリエーションが多いということなのでしょう。
黄身だけを分けるユーモアあふれるグッズ
まず、卵に関する調理グッズだなと見た目で分かるのがいい。これは、黄身と白身を分けるためのもの。シリコン製のニワトリの下に穴が開いていて、両側を押しながら穴の部分を黄身に近づけて指を少し離すと黄身が中に吸い込まれるという仕組み。反対に、また押せば黄身が出てきます。
役割はこれだけですが、黄身がスムーズにスポッと入って、ポンと出てくるので楽しくなっていくつも黄身を分けてしまいます。ただし価格が高め。100円均一ショップにもありそうなアイデア商品なので、価格がネックとなって意外と売れ行きが伸びない残念な商品。
ラーメン店にしか売れない? 卵カット器
意外性一番の商品はコレ。ゆで卵をカットするもので、半分にカットする「1本線」と、6分の1にカットする「3本線」があり、1本線が1000本以上も売れているんです。購入するのはラーメン店の料理人だけ。人気の秘密は、どんな不器用な人でも均等にきれいにカットできるから。ラーメン職人に必要な調理グッズを聞いたら、きっと上位になると思います。
一般受けしそうでしなかった、ちょっと間抜けな便利グッズ
「こういうのがあったら下ごしらえや調理が楽しくなりそう」と思わせる、隙間を狙った調理グッズはたくさんあります。なかでも下記3点は、説明を聞いたら「便利そう」と思うのではないでしょうか。そこが落とし穴でした。たしかに少しの手間を省ける便利グッズは欲しいけれど、応用力がないと持っていても宝の持ち腐れになってしまう。残念ながら、私には宝の持ち腐れになってしまいそうです。
魚の内臓を一網打尽!
一見したところ、菜箸にしか見えない2本の棒。これは、魚のお腹を切らずに内臓をすべて取り出せる便利グッズ。2本の棒の内側は滑り止めのゴムが貼ってあり、先端には突起物があります。さらに持ち手側は2本を合わせるとかっちりロックされるようになっているなど、細かい工夫がされているんです。この2本を魚の口から差し入れて、グルグル回しながら引き上げると内臓がするするときれいに取れるという仕組み(イラスト参照)。
魚のお腹を開かないので、中に具材を詰めるなど料理の幅が広がります。しかし、すばらしいアイデアなのになぜか売れません。そのワケは、たぶん色がショッキングピンクだからなんです。料理にまつわる道具類でショッキングピンクはあまり見かけません。さらに、魚の内臓をとるという、あまり手を出したくない仕事をこなすのにこのピンクは強すぎるんですね、きっと。特許も取っているし、開発に相当な時間をかけていると思うので残念。
レンジで簡単に"ナン"が作れる
ごはんがくっつかずに自立する「マジックしゃもじ」を作った曙産業の商品です。とてもチャレンジングな会社で、アイデア商品を多く開発しています。これは、電子レンジ(500w)を使って約1分30秒で、カレーに合うナンを作れるというもの。イースト菌を使わず、強力粉とオリーブオイル、ベーキングパウダー、ヨーグルトを使うので、時間をかけずにふっくらと出来上がるのが特徴。レシピ集も付いているので応用が利きます。容器に"ナン"の文字が型抜きされているのがいいですね。
レンジで使用できる調理道具は注目されることが多いので、売れるかもしれないと思ったのですが、残念ながら予想を下回りました。家でナンを作る機会はあまりないのかもしれません。
焼き鳥の串刺しがプロ級に!?
商品名はずばり「やきとり串刺し上手セット」。私が焼き鳥などの串料理を作るとき、具材をうまく串に刺すのが苦手で、いつも曲がってしまう経験があったので、展示会でこの商品に出合ったときは「これだ!」と思いました。
両側に細い口が付いたケースに、切りこみ線に合わせて具材を並べてフタをします。細い口に串を刺しこめばきれいな焼き鳥の出来上がり。あとは焼くだけです。
ただし、あまりにも限定しすぎたために、具材の大きさをケースに合わせてカットしなければならないとか、切れ目が6つ分しかないので、それ以上は刺せない、さらに1本ずつしか作れないなど、突っ込みどころが満載に。でも安全に串料理の下ごしらえができるので、子どもと一緒に作るときなどにはおすすめです。
将来はヒットするかも、携帯に便利なグッズ
弁当女子、弁当男子という言葉が一時期流行りました。今ではすっかり定着しているよう。そんな弁当を持っていく人におすすめしたいのが下記の2点。
時代のトレンドを先読みしすぎてあまり売れなかったけれど、ようやく注目されそうな予感がするのが食材を携帯できるケースです。
その場でカットして食べるのがおしゃれ
キウイフルーツをひとつだけ入れるケース、「キウイガード」。発売された当初は、なぜ1個だけなのか分からなかったのですが、時代が追い付いてきたような気がします。このケースはナイフとスプーンもセットになったもの。しっかりとふたが閉まるので、弁当と一緒に持ち歩けば、ランチタイムにはフレッシュなキウイが食べられるのです。
サプリメントのようにトマトを持ち歩く
これは、プチトマト専用のケース。限定しすぎて今まではほとんど売れませんでした。しかし、使い方次第で、とてもヘルシーなおやつにも、弁当のお供にもなりますよね。ただし、プチトマトでも大きめのモノは入らないのであしからず。
アイデア調理グッズは、自分がいらないと思っても、別の人には必要なものという場合がよくあります。だから、100人のうちひとりでも要望している人がいるなら、仕入れたいと思うのです。あまりにも突き詰めすぎた商品だと、1万人に一人の場合も少なくないですが。
しかし、どれも開発に時間とお金をかけ、まじめに取り組んで完成した商品。開発する側は大ヒットすると思って作っているんですよね。それって夢があっていい。だから、これからも面白いものを見つけたら店に置きたいと思っています。調理器具はそんなロマンがあるから楽しんです。(談)
(ライター 広瀬敬代)
[日経トレンディネット 2016年11月18日付の記事を再構成]
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