
Mさん(以下、M):最近、「グローバルAIファンド」という投資信託が人気のようです。もらってきた資料を一緒に見てもらえますか。
吉井さん(以下、吉):2016年9月の新規設定時に900億円を集めて話題になった投信ですね。「AI」とは人工知能のこと。AIの進化・応用で大きな成長が期待される企業の株式に投資するテーマ型投信です。
M:AIの進化で、自動運転車やロボットなどに関連する事業が飛躍的に伸びるなんてワクワクします。買うなら今だと思うのですが。
吉:私なら少し様子を見ますね。
M:どうしてですか?
吉:確かに、AIは魅力的な投資テーマです。しかし、投資先として魅力があるかを考える場合には、組み入れ銘柄の今の株価が妥当な水準かどうかを見る必要があります。
M:どう判断すればいいでしょう。
吉:まず、この投信は設定されたばかりで、実際にどのような銘柄に投資しているのか分かりません。つまり、株価の妥当性を判断できない状況です。これに限らず、新設投信は投資先の銘柄を確認してから購入を検討するのが鉄則です。
M:どうやって確認するのですか。
吉:設定の翌月分から月次報告書が発行されるので、そこで投資対象の国や業種、組み入れ上位銘柄や銘柄数が確認できます。また、設定から半年経つと運用報告書が出るので、そこで全銘柄を確認できます。少なくとも月次報告書を見てから検討するのがいいでしょうね。ただし、商品によっては目論見書や販売用資料で投資銘柄のイメージを大まかにつかむことができます。この投信も目論見書に「モデルポートフォリオ」が掲載されています(図)。恐らくはこれと似た銘柄構成になるでしょう。
M:どう見ればいいのですか。
吉:まずは国と業種です。大半は米国のIT(情報技術)企業に投資するようです。親切なことに割安指標まで載っていますね。予想PERが約67倍とありますが、この数字についてはどう思われますか?
M:PER? どこかで聞いたことがあるような……。
吉:PERとは株価収益率のこと。株価が一株当たり利益の何倍かを表す数字で、その企業の株価に対する期待値を意味します。モデルポートフォリオの組み入れ銘柄の予想PERが67倍ということは、これらの企業の利益が今後も変わらなければ67年分の期待、あるいは、将来の利益が現在の67倍まで成長するとの期待が既に株価に織り込まれているということです。
M:えっ! それって割安といえるのでしょうか。
吉:それは何ともいえません。ITバブルの頃にはPERが100倍を超える銘柄もザラでした。その中でグーグルやアマゾンといった企業は大きく成長しました。しかし、当時話題になった企業の多くはバブル崩壊後に株価が急落し、その後回復したのはわずかです。
M:参考にあるグローバルIT企業の平均的な予想PER(約16倍)と比べても、かなりの期待が織り込まれているということですね。やはり少し様子を見ましょうか。
[日経マネー2017年1月号の記事を再構成]