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米欧で進む投信販売改革 日本は周回遅れ インデックス投信の「聖地」訪問記(3)

2016/11/24

広大なバンガード本社(ペンシルベニア州)

 米国では低コストの巨大投信会社、バンガードの資産規模が急拡大している。過去5年間で米国の投信の資金流入の45%をバンガード1社で占めるというすさまじさだ。

 背景の一つは投信の販売改革。収入を運用会社からの手数料(コミッション)から残高に応じた顧客からのフィー(報酬)に切り替え、低コストの投信を長期保有することを勧める独立系アドバイザーが米欧ともに増えている。投信販売では日本は周回遅れのようにも見える。

■運用会社からの手数料に頼らないアドバイザーが増加

 ニューヨーク・マンハッタンの中心部には多くの金融アドバイザーが事務所を構えている。その一つを経営するのがファイナンシャルプランナー(CFP)、公認会計士でもあるジョエル・アイザックソン氏だ。

ジョエル・アイザックソン氏

 アイザックソン氏は言う。「もともとは運用会社からのコミッションを収入源に金融商品を売るアドバイザーが多かった。しかしその場合は、手数料の分厚い商品を売ってしまう誘惑が働く。金融危機を経てそうした姿勢に対し個人からも批判が強まり、コミッションはもらわず個人投資家から直接、残高に応じたフィーをもらうアドバイザーが増えてきた」

 米国ではもともと投信販売に占める独立系の金融アドバイザーのシェアが大きい。RIA(公認投資助言者)など様々な職種があるがここでは便宜的に独立系金融アドバイザー(IFA)と総称することにする。

 図Aでわかるように、2008年に約9万9000人いた手数料主体のIFAは15年には約7万3000人に減少。一方で主な収入が報酬であるIFAと、手数料と報酬の両方であるIFAは15年に合わせて約5万7000人と08年に比べ7割増えている。

 アイザックソン氏に「米国株は今後どうなると思うか」と聞くと、苦笑しながら答えた。「我々は相場の予測などしない。無意味だ。顧客にはバンガードやディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ(DFA)などの低コストの商品を使って幅広く分散し、長期で保有を続けることを勧めている」

 ちなみにDFAは日本ではまだなじみがないが、ユージン・ファーマ氏ら著名学者の理論を基に、スマートベータに近い運用手法を駆使した低コストファンドを運用する会社だ。近年は資金流入額で上位を占めることも多い。

 「低コストの投信を長期保有するような顧客の側にたったアドバイスをするには、コミッション方式では無理で、フィー方式でないとできない」(アイザックソン氏)

 日本では投信の販売手数料がまるごと販売金融機関に入るだけでなく、保有期間中ずっとかかる運用管理コスト(信託報酬)の半分程度も販売金融機関に入り続ける。日本で売れ筋の投信が、販売手数料も信託報酬も高いアクティブ型(運用責任者が銘柄や時機を選んで平均を上回ることを目指す投信)であることの大きな要因とされる。

 金融庁の16年3月時点の調査では、日本の投信の純資産上位5本の平均販売手数料は3.2%で、平均信託報酬は1.53%。米国はそれぞれ0.59%と0.28%なので、日本の信託報酬は米国の5.5倍にも達する(グラフB)。

■英国、オーストラリアは規制で販売改革

 フィー方式への転換を法規制で実施したのが英国。12年末の金融商品販売改革(Retail Distribution Review=RDR)だ。

 以前は投信を買うと、日本と同じように投資家が支払う年間の運用管理費用(信託報酬など)の約半分が、運用会社からIFAなどへ還元された。こうした仕組みのもとでは、やはり信託報酬を含めたコミッションの厚い投信が売られがちになる。

 英国の投信の運用管理費用は長期的に上昇が続き、投資家のコスト負担増が問題化した。RDRの実施後は投資家がIFAと協議して、報酬を決めるようになった。

 筆者は13年にロンドンを訪れたとき、現地の大手運用会社の幹部に、当時運用が始まったばかりのRDRについて聞いたことがある。

 その幹部は「最初に英金融サービス庁(FSA)の長官からその方針を聞いたときは、冗談を言っているのかと思った。そんなことができるわけがないとも感じた」と苦笑しながら答えた。日本でもいきなり金融庁が、投信の信託報酬のうち運用会社から販売金融機関に自動的に配分される分を法律でなくすと宣言すれば、大騒ぎになるだろう。

 英国も同じだった。FSAが最初に販売改革を打ち出したのは06年で、実施まで7年近くもかかっている。それだけ大変だったということだ。

 バンガードのマネジング・ディレクターのジム・ノリス氏はこう話す。「英国でもRDR後、低コストの投信への移行が起きた。英国でバンガードの投信を扱うアドバイザーの数が大きく増え、残高も急増した」

 オーストラリアも13年にやはり法規制でコミッションを原則廃止している。同様の動きはオランダでも進む。コミッションからフィーへの転換は主要国で大きな流れになりつつある。その意味では日本の投信販売はやはり周回遅れなのかもしれない。

■日本でも一部FPが模索

 日本の場合、投信販売の大部分が金融機関経由。IFAの構成比はまだ小さいし、IFAの収入源の大半はコミッション方式だ。ただ一部で変化の模索も始まっている。例えば大手ファイナンシャルプランナー(FP)会社、ガイア(東京・新宿)は8月、数年以内に収入源を原則、フィー方式に転換する方針を打ち出した。「ずっと以前からの目標だった」(中桐啓貴社長)

 都内のCFP、小林治行氏は米国のフィー方式のFP団体、NAPFAの年次総会に4度出席、米国の動向を日本に紹介するとともに、自らも昨年、フィー方式の収入しか認められない投資助言業の登録をした。「コミッション方式ではお客様との利益相反が起きやすい。フィー方式が本来のあり方だ」と感じたからだ。

 幸せな仕事とは何か。唐突ではあるが、バンガードやフィー方式のIFAなどを取材するとそんなことを考えさせられる。もちろん仕事は収入を得る手段だが、それだけではなく、仕事を通じて顧客のために役立ちたいと感じる気持ちは、多くの人間に共通なのだろう。

バリー・リゾルツ氏

 バンガードの社員はその急成長にもかかわらず、ストックオプションなどの制度もなく億万長者になるような報酬は得られていない。しかし数十年も長く働いている社員が多い。「この会社が好きだ」という声をクルーの多くから聞いた。

 「フィー方式で顧客からだけ報酬をもらうようになってから、顧客の側に立って仕事ができるようになった。毎日が楽しい」。米ニューヨーク・マンハッタンの中心部にある大手金融助言事務所を経営する著名IFA、バリー・リゾルツ氏もそう話していた。フィー方式に移行した多くのIFAの共通の思いなのかもしれない。

■年0.3%でアドバイス提供、残高4兆1000億円

 ただし米国でIFAのアドバイスは、預かり資産にもよるが、残高の1%以上のフィーが必要になることが多い。バンガードはアドバイスの面でも低コストでの供給が際立つ。「Personal Advisor Services」、通称「PAS」だ。

バンガードの低コストアドバイザーサービス「PAS]の画面

 内容は顧客に合わせて異なるが、ロボアドバイザー的なテクノロジーを使ったサービスと、テレビ電話などを使ってファイナンシャルプランナー(CFP)が直接答えるサービスの両方を組み合わせたハイブリッドなサービスだ。投資に限らず相続や節税などライフプラン全般も幅広く相談できる。

 対象は5万ドル以上の資産を持つ顧客で、コストは年 0.3%なので、一般的なIFAよりはるかに低い。

 ただ年率0.1%台の超低コスト投信に慣れているバンガードの顧客には高く感じられるかもしれない。しかしPAS担当のフランク・トリマゴ氏によると「我々も当初そう思ったが、顧客の4分の1は有料でもアドバイスを受けたいと回答していて、実際にPASは好評。16年6月の残高は410億ドル(4兆1000億円)」だそうだ。

 日本でもすでに一部運用会社が年率0.1~0.2%台の超低コスト投信を販売し始めていて、それを組み合わせて自分で投資する若い世代も増えている。一方でアドバイスを求める人は今後も残り続けるだろう。

 そのために顧客に寄り添える独立した低コストのアドバイザーが増えることが望まれるが、今の日本の投信残高ではフィー方式は経営的に苦しいのも事実。「鶏と卵」ではあるが、個人の資産運用の規模の拡大が同時並行で必要だ。

(編集委員 田村正之)

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