『君の名は。』新海監督語る 今年トップになれたワケヒットメーカー・オブ・ザ・イヤー表彰式

日経エンタテインメント!誌が選ぶ「ヒットメーカー・オブ・ザ・イヤー」は、新たなヒットやムーブメントを起こしたトップクリエイターを表彰するアワードだ。その表彰式が11月12日にTREND EXPO TOKYO 2016の会場で行われた。

2016年のグランプリを受賞したのは、アニメ映画『君の名は。』の監督・新海誠氏。興行収入が180億円を超える大ヒット作品であるだけでなく、小説や主題歌などの関連作品も軒並みヒットを記録。加えて、若者が発信したSNSの口コミが拡散され、世代を超えるヒットにつながった点も、新しいヒットの形として評価された。

登壇した新海監督は受賞の感想を次のように述べた。

「(受賞は)大変信じられない気持ちでおります。(手渡されたトロフィーを見ながら)監督・新海誠殿と書いていただいていますが、実質的にいただいたのは『君の名は。』という作品だと思います。僕一人の力ではなく、作画チームであったり、神木(隆之介)くんや(上白石)萌音ちゃんの声だったり、RADWIMPSの歌声だったり……。これらがあって、このような賞を受賞できたのだと思っています。また何より、映画を見てくださった皆さんの力なんだと思います」と、ファンに感謝の言葉を伝えた。

受賞の感想を話す、新海誠監督(写真:中村宏)

表彰式に続いて、日経エンタテインメント!の山本伸夫編集長と平島綾子副編集長を交えたトークショーが始まった。最初の話題は海外での反響について。実は『君の名は。』は海外でも人気で、台湾や香港、タイで週末の興行ランキングで1位を獲得している。

「上映してみると、思いもよらなかったシーンで声が上がることが海外ではありました。その一方で三葉と入れ替わった瀧が、自分の胸を確認するシーンなどは世界共通で笑い声が聞こえました。最近、日本では小学生が見に来てくれることが増えたのですが、(胸を確認するシーンは)男女の入れ替わりの面白さは伝わるんでしょうね。小学生でも笑っていますね」と観客の笑いを誘った。

ヒットした理由を聞かれると、「確かに僕らは誰もズルをするようなことはしなかった。ラクをするような作り方をしなかった」と振り返った。例えば、作中の音楽を手掛けたRADWIMPSは、脚本を基に曲を作り、その曲を聴いた監督が脚本や演出を修正し、さらに曲を作り直すということを繰り返していたという。

(写真:中村宏)

どの年代の観客も決して置いていったりしない

その後、監督の希望で、観客の方々からの質問に答えるコーナーが始まった。まずは、「どうしたら多くの世代が感動するような作品が作れるのか?」という質問が飛び出した。

「ターゲットを設定しても、確実に届くとは限らないんです。それよりも、自分だったらこういう物語展開だとうれしいということを、突き詰めるしかないなぁと思うんです。また制作するうえで、できるだけ人の話を聞くことを心がけています。今回は特に、脚本を基に絵コンテをムービーにして、そこに声や効果音も入れ、完成形がイメージしやすい形にしました。それをたくさんの人に見てもらい、感想を聞き、ヒアリングしました」

監督によれば、観てくれる客層は20代が中心だと思っていたが、「どの年齢層の観客でも、気持ちが置いていかれないようにしたいと思った」と話す。この監督の思いが、世代を超えて支持される作品を生みだしたのだろう。

会場が沸いたのが、“ポスト宮崎駿”と呼ばれていることについての質問だ。

「どの国に行ってもその話になる」と観客を笑わせながら、「宮崎駿さんの名前と並べていただくのは過大評価ですね」ときっぱり。「宮崎さんはお手本ではあるけれども、違うものを目指すしかないと思います。実はRADWIMPSの音楽を採用したのもそのためなんですね。宮崎さんには久石譲さんというコンポーザーがいるので、まったく違う方向の音楽でないと違う魅力のある作品にならないと思ったんです」

最後に次回作について監督が語った。

「本当は次の作品に取りかかっていてもおかしくない時期ですが、ここまでずっと『君の名は。』だけの日々になってしまいました。(次回作は)まだ白紙なんですが、観客の皆さんが何を望んでいるんだろう、何を観せることが皆さんに楽しんでいただけるんだろう、ということを耳を澄ませて考えていきたいと思います」と話し、トークショーは終了。拍手の中、ステージを後にした。

(写真:中村宏)

(ライター 河原塚英信)