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社会保険料控除、家族分の合算で節税に

2016/11/26

筧ゼミでは控除と税金をテーマに議論が続いています。今回は屋久仁達夫さんが「社会保険料控除」について取り上げます。条件を満たせば本人だけでなく家族の分も控除できますが、どんな点に注意すればいいのでしょうか。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

宗羽 確か健康保険は社会保険の一つだったと思いますが、ほかにはどんなものが所得控除の対象になるのですか。

屋久仁 健保のほかに代表的なのは年金保険ですが、介護保険や雇用保険なども対象です。さらに75歳以上になると健保の対象から外れて後期高齢者医療制度に移りますが、これらの保険料を払うと金額分の所得控除が受けられるというのが社会保険料控除の基本的な仕組みです。

 その通りです。よく調べてありますね。

屋久仁 私たちのような会社員の場合、自分の保険料は会社と分担しながら給与天引きで払っています。控除の手続きも原則会社がしてくれるので、あまり意識しないですけどね。

宗羽 会社が手続きをしてくれるなら、会社員が節税に活用できる余地はあまりなさそうですね。

屋久仁 本人分はそうかもしれませんが、社会保険料控除は本人の分だけでなく、同一生計の配偶者や親族の分も対象になることは見逃せません。

 その点では前回取り上げた医療費控除と同じですね。

屋久仁 はい。例えば別居中の子どもでも親が生活費の仕送りなどをしていれば生計は同一です。親族というのは、6親等以内の血族と3親等以内の婚姻で結ばれる義理の親戚「姻族」ですから、かなり広い範囲になります。

宗羽 その範囲の子どもの保険料を親が払えば、親の所得から控除できるということですね。

屋久仁 典型例は大学生で20歳に達したものの、国民年金保険料は親が払っている場合でしょう。子どもが在学中に熱心にアルバイトをして扶養控除の対象から外れたとしても、生活費の仕送りが続いているなら親が社会保険料控除を使えます。控除を受けるには年末調整などで手続きをすることが必要です。

 扶養控除には給与所得控除65万円を引いた時点の所得が38万円以下という基準がありますが、社会保険料控除はこうしたルールがありません。親が子どもの国民年金保険料を負担しているなら、きちんと控除を受けたいところですね。

屋久仁 今回、話を聞いた社会保険労務士の井戸美枝さんは「大学生は在学中に国民年金保険料が猶予される特例制度があるが、控除のことも考慮に入れて親が子どもの分の保険料をあえて払う例は多い」と教えてくれました。

宗羽 子どもの国民年金保険料以外にも、対象になるものはありますか。

屋久仁 生計を一にしている親の後期高齢者医療制度の保険料も対象になる可能性があります。保険料は親本人の年金から天引きするのが原則ですが、家族の口座振替で払える場合があります。現役で所得が多い子世代の方が通常、税率は高いですから子どもが親の保険料を負担し、所得控除を使う方が節税になるケースはあり得るでしょう。

宗羽 なるほど。ところで節税と言えば、来年1月から専業主婦や公務員などに対象者が広がる個人型確定拠出年金(DC)も掛け金が所得控除になりますね。これも社会保険料控除の対象ですか。

屋久仁 違います。確かに個人型DCの掛け金は全額所得控除できますが、社会保険料控除とは別の「小規模企業共済等掛金控除」という仕組みです。同じ年金とはいえ、社会保険料控除が対象としているのは一定の条件を満たせば原則として加入しなければいけない公的年金です。一方、個人型DCは任意で選べる私的年金との位置づけです。

 具体的にどう違うか説明をお願いします。

屋久仁 小規模企業共済等掛金控除は配偶者や親族と関係がなく、あくまで本人のみが対象です。例えば来年1月に個人型DCに加入した専業主婦の掛け金を会社員の夫が実質的に負担したとしても、夫が所得控除することはできません。妻自身に課税所得がなければ掛け金についての控除はゼロということになります。もちろん運用中や受取時の税優遇はありますが。

宗羽 ちなみに先ほどの控除の名前が気になっているのですが、小規模企業共済とは何ですか。

屋久仁 従業員が20人(サービス業などは原則5人)以下の個人事業主や会社役員などが任意で加入できる共済です。経営者などが自分で積み立てておく退職金制度と言えるもので、会社員は加入できません。掛け金は全額が所得控除になり、加入対象者は個人型DCと併用することも可能です。その場合は、2つの制度それぞれの掛け金控除が使えます。個人事業主なら個人型DCの掛け金上限は年81万6000円(月6万8000円)、同じく小規模企業共済は年84万円(月7万円)ですから、合算すると節税効果はかなり大きいですね。

 その通りですが、いずれの制度も基本的には老後のために積み立てて、途中では容易に引き出せない仕組みです。目先の税控除の大きさだけに目を奪われ、自分の収入に対して掛け金を過大にし過ぎないようにする心がけは必要かもしれませんね。

■税率高い人にまとめよう
税理士 市川恭子さん
親の後期高齢者医療制度の保険料を現役世代の子どもが口座振替で払う場合は、子どもが一方的に親へ仕送りしている例だけでなく、同居して互いにお金を出し合って生活するケースでも同一生計とみなされると考えられます。こうした保険料は家族内で税率が高い人が払うことで、税負担が軽くなる例があります。
社会保険料控除に近いものとして知っておきたいのは生命保険料の控除です。保険金をもらう人が保険料を払う本人または配偶者や親族であれば、控除の対象になります。契約者が誰であるかは問いません。例えば妻が契約者の生保保険料を夫が払えば、夫の控除対象となり得るわけです。保険料を負担しない人が保険金を受け取ることはできますが、その際は贈与税がかかる可能性があることに注意が必要です。(聞き手は堀大介)

[日本経済新聞朝刊2016年11月19日付]

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