「貯蓄あるのにお金が不安」 働く女性の理由と対策

2016/11/25
日経ウーマン

収入があっても、そこそこ貯蓄があっても「将来、貧乏になってしまうかも」と不安に思うのはなぜでしょうか。気鋭の経済学者・井手英策さんに、お金の不安が和らぐ世の中をつくるヒントを聞きました。

日経ウーマン編集部(以下、編集部) 「日経ウーマン」の読者調査によれば、しっかり節約して、貯蓄もそこそこあるのに、“貧困老後が怖い”という働く女性が多いです。

井手 実は日本人は戦後、暮らしにかかるお金を自分の貯蓄で賄ってきた国民なんですね。経済成長している間は、働いてお金をためて、そのお金で子供を学校に行かせ、家を買い、病気や老後の備えができました。ところがこの先は、経済成長がほとんど見込めません。

編集部 少子高齢化で、これから日本はどんどん貧乏になっていく。年金も今より減額される見込み。不安なのも当然?

井手 でも、本当の目的は貯蓄することではなく、一生安心して暮らせることですよね。だとしたら、貯蓄以外にも方法はあります。例えば、みんなでもう少し税金を多く払って、幼稚園や保育園を無料にする、学費を安くする、医療や介護負担もゼロにする。税金を暮らし周りのサービス充実に使って、私たちの生活にかかる“経費”を減らせれば、貧困に陥る不安を和らげることができます。

編集部 でも、それらのサービス、シングル女性にはあまりメリットがない気がします。

井手 そう思うのも無理はないです。これまでの税金の使い方では、特定の地域や人にお金を配ることで「あの人はずるい」「私は損をしている」といった感情を生み出してしまった。いわば国民の間に“分断線”を引いてしまったのです。例えば、保育士や介護士の給与をアップすれば、「どうしてあの人たちだけ」と感じる人もいる。彼らを「得をした」人に見せ、自分たちを「税負担をさせられる人」にしてしまうのです。

編集部 正直、よく分かります。「子供がいる人ばっかりずるい」などと思うことがありました。

井手 でも、病気になったら病院で治療を受けるでしょう? この先、親も自分も介護が必要になる可能性もあるでしょう? そういうとき、無料でサービスを受けられたら安心ですよね?

編集部 なるほど…。

井手 まずは「自己責任」という考え方をやめてみませんか。国に頼らず、自分たちで稼いで貯蓄をし、必要なサービスを買う。それができなかった人を「自己責任」と切り捨ててしまうと、世の中から格差や貧困、生きづらさはなくなりません。

編集部 確かに、もしこの先病気になって、仕事を続けられなくなり、貯蓄も底をついたとき、周りから「自己責任でしょ」って言われたらつらいです。

井手 「自分も含めて、みんなが暮らしやすくなるためには、どう国のお金を使うべきか」を考えることに頭を使いませんか。医療や教育など、みんなに必要なサービスは、所得にかかわらずみんなに配ることにする。そうすれば自分も恩恵を受けられるし、経済的に困っている人も不安から解放されます。

編集部 みんなのことを考える。それが巡り巡って、自分のためにもなる…。

井手 国全体で貯蓄し、上手に使うことが生きやすい世の中につながるのです。

井手さんの提言 1

税金を生かし、暮らしにかかる“経費”を減らそう

税金を払う=社会に貯蓄するということ。税金が適切に使われれば、医療や教育、介護などにかかる支出を減らすことができる。消費税が1%上がると税収は2.8兆円増えるといわれるが、例えば消費税を2.5%上げ、増収分の7兆円を暮らし周りのサービス拡充に回すだけで、私たちの暮らしにかかるお金の額は劇的に減る(下の図参照)。

井手さんの提言 2

みんなが「得した」と思える仕組みをつくろう

「所得額によって提供されるサービスに違いがあると、税金を負担しているのにサービスを受けられない人の不満が高まり、ギスギスとした世の中になってしまいます」(井手さん)。病気になる可能性は誰にでもある。誰もが年を取り、寝たきりになるリスクを抱えている。「だからこそ、所得の一定割合を税として皆で負担し、皆に必要なサービスは所得額にかかわらず給付をすることで、暮らしの格差を是正しつつ、誰もが恩恵を受けられる社会に近づきます」。

この人に聞きました

慶応義塾大学
経済学部教授
井手英策さん 
1972年福岡県生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て現職。専門は財政社会学。朝日新聞論壇委員。『経済の時代の終焉』(岩波書店)で第15回大佛次郎論壇賞受賞。近著は『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)。

(ライター 中城邦子、日経ウーマン編集部)

[日経ウーマン 2016年11月号の記事を再構成]