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年金は若い世代に不公平か 実は団塊世代より恩恵? 公的年金をマネーハック(3)

2016/11/21

PIXTA

今月のマネーハック、テーマは公的年金です。年金は損だし不公平だというイメージをひっくり返して、むしろ年金を自分のものとして上手に活用することを考えています。

今週考えてみたいのは「世代間での不公平」という問題です。おそらく年金制度は世代間不公平論の最たるものでしょう。若い世代は重い負担を強いられ、すでに年金生活に入った世代は老後を謳歌しているというイメージです。

年金制度の損得は「議論するだけ無駄」と先週いったばかりですが、世代間不公平の議論も「年金の収支だけ」で行うからミスリードをしてしまうのです。

■親が年金で生活をまかなえることは、子が扶養しなくていいこと

多くの年金生活者世代が豊かな年金をもらっていることは、別の言い方をすれば「親を子が扶養しなくてもいい」ということです。

歴史的にいえば、多くの親が子に扶養されることなく、公的年金で基礎的な生活費をまかない、退職金などで老後のゆとりを確保している時代は初めてかもしれません。

過去何百年(あるいは数千年)にわたって、親は子に扶養されて老後を送ってきました。「隠居」という言葉がありますが、親が子に家督を譲ったら、敷地内の別宅(狭い部屋)を与えられ、肩身狭くし、子に生活の面倒をみてもらっていたわけです。子は親の生活にかかる費用をすべて負担してきました。

三世代が同居していくのが当たり前の時代でしたが、子の経済的余裕の範囲で親は生存できたのです。家庭内扶養ができなくなったとき、どうしていたかは「姥捨て山」という伝承が語っているとおりです。

年金生活者の貧困がしばしば話題になりますが、高齢者の貧困問題は過去をさかのぼるほど厳しく切実になります。実はそれは昭和初期ぐらいまでリアルでした。

しかし、現代のほとんどの年金生活者は貧困状態にはありません。かといって富裕層というほどでもありません。

今の高齢者は豊かな生活をしているイメージがありますが、そもそも夫婦のモデル年金額が月22万円程度ですから、大卒初任給の賃金にプラスアルファといったところです。これが単身者だと会社員でもモデル年金は月16万~17万円です(国民年金のみの単身者は満額でも月6万5000円程度で、これは厳しい経済水準といえます)。

これだけの水準を国が年金として支払えることで、別の誰かが支払わなくてよいコストも存在します。それは「子から親への仕送り」です。

高齢者の多くは子の仕送りに頼らずやりくりをしており、「子の親への経済的負担」はかなり小さくなっています。今、働き盛りの子どもとしては公的年金制度があることで、親への仕送りを行わなくてもいい(もしくはわずかですむ)わけです。

これは今の年金世代である、団塊世代の現役時代との大きな違いです。団塊世代(とその前後の世代)は、自分の子ども(つまり私たちの世代)を育てつつ、自分の親(私たちの祖父母世代)をも家庭内扶養で支えてきました。

つまり世代間不公平を語るときには、かつて存在していた仕送りという「見えない負担」も考える必要があります。毎月22万円とはいわずとも、団塊世代の多くがそうしていたような親への仕送りをしていたら、今の現役世代はもっと結婚や子育てする余裕がないはずです。

■独身者や一人っ子は年金制度の恩恵を受ける

もうひとつ、世代間不公平論の裏に隠されていますが、若い世代にも恩恵のある年金の役割があります。それは社会的変化、すなわち「独身者の増加」と「一人っ子世帯の増加」への対応です。実は独身者と一人っ子については、今の年金制度のほうが確実に助かるしくみになっています。

先ほどの「毎月22万円の仕送り」という課題は、子どもの人数で負担がまったく変わります。兄弟姉妹がいれば割り勘できるからです。筆者は3人兄弟ですから、たとえば「1人7万円」と割り算できます。しかし、一人っ子なら自分の両親を養うために給料のほとんどを渡さなければならなくなります。22万円はもはや毎月払える金額ではありません。

家庭内扶養は、兄弟姉妹の人数が少ないほど苦しく負担が重くなります。社会保障のもとで国が年金給付をしてくれることは一人っ子世帯にとっては助かることなのです。

そして、自分の親への仕送りをなんとかやり遂げたとしても、次の社会的変化が影響してきます。今増えているおひとりさまは自分の老後がやってきたとき、「仕送りをしてもらう子がいない」という現実に直面するからです。自分がなんとか親に仕送りできたとしても、自分を支えてくれる存在、つまり子がいません。これは大変です。

しかし、国の社会保障は違います。兄弟が多いか独身者であるかは関係ありません。保険料の納付履歴に従い粛々と年金を払ってくれます。国の社会保障制度として年金制度を構築していったことで、身寄りがない人も独身者も老後は社会的に支えられることとなったのです。

■団塊世代は現役時代に多く保険料を払って今もらっている

よく、年金制度は「現役世代が支え、年金世代が受け取る世代間の支え合い」といわれます(賦課方式)。こういう支え合いは少子化の時代には若い世代ほど損をすることになります。

しかし、同時に国の年金は官民合計で150兆円ほどの資金があります。世代間の支え合いのはずがなぜここにこんなお金があるのでしょう。矛盾していると思ったことはないでしょうか。

実はこのお金、団塊世代が現役時代のうちに保険料をある意味多めに支払ってもらい、着々と積み上げてきた資産です。団塊世代が世代間の支え合いだけをしていたら、もっと保険料は少なくてよかったところ、彼らが将来年金世代になって給付が増大するときを見越していたのです。

つまり団塊世代は「年金世代を家庭内扶養で支えつつ、自分の老後のための保険料負担も参加してきた」ともいえるわけです。

今、私たちの世代は積立金を増加させる時期にはなく、世代間の支え合いに保険料が使われています。そしてこれから少しずつこの年金資金を取り崩していくことで、これ以上の保険料増大がないようにしていきます。

もし、この積み立てを行わず実直に賦課方式を行っていれば、今現役世代である私たちの年金保険料率はもっと高いものになっていたことでしょう。もっともっと世代間不公平は高まっていたはずです。

お上のやることは、厚生労働省にせよどこにせよ何でも悪いことだと思いたい気持ちはわからないでもありません。しかし、公的年金の話は目の前の損得だけではなく、大きな時代の変化を合わせてとらえると、違ったビジョンとして見えてきます。世代間公平の話はそう単純ではないのです。

マネーハックとは ハックは「術」の意味で、「マネー」と「ライフハック」を合わせた造語。ライフハックはITスキルを使って仕事を効率よくこなすちょっとしたコツを指し、2004年に米国のテクニカルライターが考案した言葉とされる。マネーハックはライフハックの手法を、マネーの世界に応用して人生を豊かにしようというノウハウや知恵のこと。
山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ) 1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。所属は日本年金学会、東京スリバチ学会。近著に『お金が「貯まる人」と「なくなる人」の習慣』(明日香出版社)『誰でもできる 確定拠出年金投資術』(ポプラ新書)などがある。趣味はマンガ読みとまちあるき(看板建築マニアでもある)。Twitterアカウントは@yam_syun。ホームページはhttp://financialwisdom.jp

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