『ざんねんないきもの事典』癒やし効果でじわりヒット

日経エンタテインメント!

今、売れている本は何なのか。10月の月間ベストセラー(総合)について、日本出版販売(日販)のマーケティング本部販売企画部MD企画課長の古幡瑞穂氏に話を聞いた。古幡氏が、特に注目しているのが1位の『オーバーロード11 山小人の工匠』と10位の『ざんねんないきもの事典』だという。

日販調べ。2016年10月1~31日の総合ランキング。全集、文庫、ゲーム攻略本は除いている。価格は税込み

1位の『オーバーロード』は、ゲーム好きで孤独な主人公がRPG(ロール・プレイング・ゲーム)とよく似た異世界へ転移して、骸骨の顔を持つ最強の魔法使いとして君臨するダークファンタジー小説。2012年から刊行が始まり、第11巻が9月に発売された。「固定ファンをしっかりつかんでおり、新刊が出るたびに発売直後の売れ行きがすさまじい。今回も開脚本(2位)や『君の名は。』(児童小説版、3位)といった強豪を抜き、堂々の首位となりました」(古幡氏、以下同)。出版社のKADOKAWAによると、シリーズ累計の発行部数は300万部という。

『オーバーロード11 山小人の工匠』(丸山くがね)KADOKAWA/エンターブレイン (c)Kugane Maruyama/KADOKAWA刊

ネット小説からベストセラーが次々

小説投稿サイト「小説家になろう」で人気になった小説をKADOKAWAが書籍化した。「10年ほど前にケータイ小説がブームになりましたが、今はネット小説が盛り上がっています。これまではライトノベルとジャンル分けされて、文庫が主戦場でしたが、単行本コーナーで展開されるようになったのが新しい現象です」という。10月の単行本フィクション部門を見ると、総合1位の『オーバーロード』がやはり1位となっている以外にも、6位『居酒屋ぼったくり(6)』(アルファポリス)、10位『蜘蛛ですが、なにか?(4)』(KADOKAWA)が、やはり「小説家になろう」のサイトから書籍化されたネット小説だ。

大手のKADOKAWAでは、こうしたネット小説を「新文芸」と称して、書店でのコーナー展開などに力を入れている。これまで小説家としてデビューできるのは新人賞を受賞するなどの実力を持った一部の人に限られていたが、今では誰もがネットで気軽に自作を発表できるようになり、そこからベストセラーが生まれている。「新しく生まれてきた文芸の形」という意味で「新文芸」と名づけたという。

シリーズ各巻を陳列する書店。主人公の顔である骸骨も置かれている(平安堂若槻店)
新文芸のコーナー展開をする書店(明正堂アトレ上野店)

ネット小説の特徴は、読者との距離が近いこと。投稿された段階で読者から感想や意見が寄せられ、それに基づいて作者は修正したり、ストーリーそのものを変えたりもする。作者と読者が一緒に作品を完成させていく雰囲気があるため、書籍化される段階で熱心な読者が一定数存在することになり、新刊が発売された直後に突出した売れ行きをみせるのだ。

ネット小説で人気のテーマは、『オーバーロード』のような異世界もの。30代の読者が多いという。ライトノベルは10代読者が多かったのに対して、年齢層が上がってきたのを受けて、版型もサイズが大きく価格を高めに設定できる単行本に移行しているわけだ。

ベストセラー小説というと、文学賞の受賞作や、ミステリー、企業小説などが思い浮かぶが、新たなジャンルとしてネット小説が台頭してきている。読者層が限られているのでまだ知名度は低いが、異世界ものはアニメ化や実写化されやすいのも特徴。メディアミックスの展開を機に、広く一般に知られるようになる可能性は高い。

けなげに頑張る122種類の生き物たち

『おもしろい!進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(今泉忠明、下間文恵、徳永明子、かわむらふゆみ)高橋書店

10位の『ざんねんないきもの事典』は、児童書だが、大人にも受けて売れ行きを伸ばしている。出版社の高橋書店によると、5月に発売されて11月10日時点で発行部数は23万部。

「『小学校4年生の男の子に面白がって読んでほしい』と企画したものですが、大人からの反響も大きく、『けなげに頑張る生き物たちに、自分の姿を重ねてしまった』『かわいい生き物たちに癒やされた』といった感想が編集部に届いています。下は4歳から上は97歳まで、幅広い読者に支持されているのが特徴です」(開発部・宮越梓氏)

例えば、シマリスを見ると、「シマリスのしっぽはかんたんに切れるが、再生はしない」という目をひく見出しがあり、切れたしっぽに焦るシマリスのかわいらしいイラストが添えられている。そして「シマリスのしっぽがかんたんにぬけるのは、敵におそわれたときにしっぽを捨ててにげるトカゲと同じ発想の防御本能」というちょっとタメになる小ネタと、「ペットとしても人気のシマリスですが、はしゃいでしっぽを持つと地獄図が広がることにもなるので、注意しましょう」というクスッと笑える文章が載っている。子どもにわかりやすいのはもちろん、大人が読んでも面白い内容だ。

進化の結果、すごい能力を持ちながら、なぜかちょっと残念な感じになってしまった122種類の生き物を紹介している

ほかにも「キツツキは、頭に車が衝突したくらいの衝撃を受けている」「ゴリラは知能が発達しすぎて下痢ぎみ」「フラミンゴの体が赤いのは食べ物のせい」「マンボウの99.99%はおとなになれない」「雨の日が続くとミユビナマケモノは餓死する」といったキャッチーな見出しで122種類の生き物を紹介している。

「小学生の子どもを持つ母親層を中心に、大人にも人気が広がっています。テレビ番組での本格的な紹介もまだ数えるほどなので、今後メディアで取り上げられる機会が増えれば、さらに売れ行きが伸びそうです」(日販の古幡氏)

1位の『オーバーロード』が熱心なサポーターに支えられた、勢いのあるランクインなのに対して、10位の『ざんねんないきもの事典』は静かなヒットがじわりと広がる形で新たなベストセラーとなっている。

(日経エンタテインメント! 小川仁志)

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