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リーダーシップ教育をもう少しマシなものに スタンフォード大学ビジネススクール教授 ジェフリー・フェファー(7)

2016/11/22

リーダーシップ教育をもうすこしましなものにする方法はいくつかある。ここでは、いま挙げた問題点から直接導かれる対策を掲げる。

実績を測って、結果責任を負わせる

リーダーシップに限らず、何事もクオリティを高める原則の一つは、点検し計測することである。計測して数字で表すことで、とにもかくにも問題がはっきりする。ところが先ほどのガンドシーも認めるとおり、リーダーシップの改善度に関する調査はほとんど行われていない。企業や大学が後援するリーダーシップ開発プログラムやコーチングなどの効果測定も、である。まして本や会議やブログについては言うまでもない。

計測可能な数値が存在する場合に限り、いくつかの数字が公表されるが、それらは単なる量である。つまり、セミナーやイベントや講演の回数、研修の時間数、参加者の数などだ。言い換えれば、リーダーシップ開発に投じられた、または消費されたリソースが発表されるだけで、効果があったかどうかはわからない。本や講師の場合には、よいものはよく売れるという前提で、売上部数や講演料が誇らしげに喧伝される。だがひっぱりだこだからといって効果があるとは限らない。

このほかの「計測値」としては、おなじみの「ハッピーシート」なるものがある。会議や研修などのイベント後に、参加者が「満足した」とか「有意義だった」といった項目にチェックマークを入れ、感想などを書き込んで提出するアンケート用紙のことだ。企業生産性研究所が発表した2012年のグローバル・リーダーシップ開発報告によると、リーダーシップ関連プログラムの評価方法として最も多用されているのは、参加者による満足度評価だという。

この程度のことで驚いてはいけない。受講者自身による満足度評価は、多くの大学や会議などでもひんぱんに行われる。たとえば学生による授業評価は、何らかの評価方式を取り入れているビジネススクールの99%以上ですっかり定着している。だが最近行われた分析では、学生による評価と学習効果との間には統計的に有意な相関性は見られない、との結論が下された。「学習効果の計測が客観的であるほど、学生による評価との相関性は薄れる」という。別の分析も、「学生による教員ランキングと学習効果の間には有意な相関性はない」との結論に達している。これを読んだらたいていの人がこの種の評価を信用しなくなるだろう。ペンシルベニア大学ウォートン・スクールのスコット・アームストロングは、「学習というものは変化を要求する。そしてこれは、辛いことだ。重要なふるまいや態度の変化に関わる場合には、なおのことである」と指摘する。そしてリーダーシップ開発は、まさに重要なふるまいや態度の変化を要求する。よって、効果が上がるのは辛い経験であるはずだ。こうしたわけだから、数十年も前から数々の実証研究で指摘されてきたとおり、学生による評価はマイナス面が多い。学生が授業や教員を評価するとなれば、教員のほうは多少手加減して評価を高めようとする。すると教育の効果は薄れてしまう。アームストロングが「教員評価は学生に不利益をもたらす」と断言する理由の一つは、ここにある。

企業生産性研究所は2013年に、リーダーシップ関連プログラムの評価方法として参加者の行動変化を観察するようになったと報告している。それでも参加者による満足度評価はいまだに二番目に重視されており、プログラムの成功の指標とされているという。ちなみに直属の部下による評価の位置付けは6番目であり、これを実施しているのは回答企業の36%にとどまった。

これでは職場の状況がいっこうに改善されないのも無理はない。リーダーシップ教育の直接の目的であるはずの職場の満足度を計測せずに、プログラム参加者の、つまり「お客さま」の満足度を計測しているのである。プログラムにご満足いただけましたか、楽しんでいただけましたか、と。マッキンゼーのコンサルタントによる論文では、リーダーシップ開発プログラムが成果を上げられない理由を4つ挙げ、結果を計測していないことがその一つとされている。プログラムを提供するだけで効果の追跡調査には投資しておらず、「プログラムの効果測定は、参加者本人によるフィードバックで済ませている例があまりに多い」という。

それだけではない。まちがったものを計測するのは、何も計測しないより悪いことが多い。なぜなら、計測したものに囚われるようになるからだ。どれだけ多くの人が楽しんだかを計測し、それがプログラム(あるいは本、講演、セミナー)の成功の指標になるとすれば、当然ながら参加者をより楽しく、より心地よくさせようということになる。端的に言って、プログラムが楽しいかどうかを計測していたら、参加者はより楽しくはなるだろうが、態度や行動が変化するとは期待できない。

それに、見当違いの指標を計測することにかまけていたら、本当に重要で適切な指標が計測されなくなる。何かを改善したいなら、それが直接反映されるような指標を計測しなければならない。リーダーシップの場合には、計測すべきはリーダーとして望ましい行動の頻度、部下の意欲、仕事満足度、リーダーへの信頼度など職場の状況、リーダー自身のその後のキャリアなどである。ところがこれらは計測されていないうえに、そうした不備がリーダーシップ教育産業で議論されたこともない。

職場がいっこうに改善されないことについて、リーダーシップ教育産業は責任をとるつもりはないようだが、リーダー自身もそうらしい。すくなくとも、大方の企業のリーダーがそうだ。だいぶ前のことだが、ヒューレット・パッカードがまだすぐれた企業文化を誇り、経営幹部も文化の維持に心を砕いていた頃には、職場のユニット単位で匿名の社員満足度調査が実施され、その結果にリーダーは責任を問われていた。営業成績がよくても、部下の意欲やリーダーに対する信頼感が不足しているという調査結果が出ると、昇進はできなかったという。

人工透析サービスのダヴィータは同じような調査を実施し、結果を重視している。ヘルスケア企業としての価値観を損ねるようなふるまいがあったとして、現に解雇されたリーダーもいるほどだ。またソフトウェア開発のSASインスティチュートでは、共同設立者でCEOのジム・グッドナイトがマネジャーの評価をするにあたり、求心力と部下の定着率を重視している。離職率が基準を上回ると、マネジャーが解雇されるケースもある。

だがこのように企業文化や職場の健全性を重んじる姿勢は、例外中の例外である。企業文化を大切にせよとか、人材こそが最重要資産である、といったご高説はよく耳にするが、実際の行動が伴われる例は稀だ。私が小耳に挟んだ限りでも、社員満足度調査の結果が気に入らないからというので、調査を打ち切ってしまうリーダーは少なくない。あるCEOはこう言い放ったとされる。「わざわざ社員の意見など聞いて徒いたずらに期待を高める必要がどこにあるのか。どのみち社員がどう思うかなど、こっちは気にしていないんだからね」

リーダーの行動を計測し、さまざまな提案や助言が実行されたかどうかを評価することは、職場と部下の現状を浮き彫りにし、改善していくうえで大きな効果があるはずだ。というよりも、それなしには改善は期待できまい。

リーダーと会社の利害の不一致を認識する

すでに述べたように、リーダー個人と会社の利害は往々にして一致しない。この点をしっかり認識するためには、測定・評価の対象を拡大し、職場の状況や部下の満足度だけでなく、リーダー自身のキャリアも含める必要がある。昇進・昇格、報酬、他社からの引き抜きなどを調べるとよいだろう。これらの点を確かめると、後の章でもたびたび触れるように、リーダーの個性や行動が会社のパフォーマンスに貢献したのか、本人の成功に貢献したのかが見えてくる。まずはなぜ利害の不一致が起きるのかを理解したうえで、どちらにとってもよい結果をもたらすことは可能なのかを考えなければならない。

もっと科学的な方法を採用し、資格を重視する

医療が証拠に基づく科学になり、それに伴って治療結果が向上し、医療自体も大幅に進化し始めたときから、医師たちはプロフェッショナルとして職業倫理の向上に熱心に取り組んできた。断片的な事例やエピソードよりも系統的な証拠を優先すること、可能な限り最善の証拠に基づいて治療を行うことなどがその一例だが、何よりも重視されたのは、医療関係者はつねに最新の知識を身につけること、最低でも医学の進歩に後れをとらないことだった。専門職大学院としてメディカル・スクールがまず設置されたのはこのためである。医師として開業したい人は必ず免許をとり、その後も学び続けなければならない。

何かの病気をたまたまうまく治せたからといって、専門的な教育を受けていない人がその治療法を人々に宣伝するなどということはあり得ない。だがこのあり得ないことが、リーダーシップの分野では起きている。リーダーとして華々しい成功を収めたとか英雄的な行為をしたといったエピソード(しかも裏付けはなくてもかまわない)の持ち主なら、誰でも堂々とリーダーシップを教えることができる。

もちろんリーダーシップ研究や教育には、しかるべき訓練を受けた経験豊富な人たちも大勢携わっている。だが先ほども述べたように、この業界には参入障壁がない。科学的な裏付けの有無と、リーダーシップ教育産業で成功するかどうかは、ほとんど関係がないのである。

本章で論じたように、リーダーシップ教育産業は、「楽しくてためになる」プログラムをマスターすれば、リーダーは部下に慕われ、職場の雰囲気と効率は向上し、リーダー自身はキャリアアップできるという仮定の下に成り立っている。だがこの仮定はまったく正しくない。ときには正反対のことをしたほうが、結果がよいほどである。さらに言えば、リーダーシップ教育産業がやっていることの反対をするほうが、リーダー個人の成功につながる可能性は高い。何事もそうだが、リーダーシップに関してもトレードオフが存在する。個人の利益と組織の利益の不一致が、これほど長い間リーダーシップが機能不全に陥っていた大きな原因の一つだと考えられる。

(村井章子訳)

ジェフリー・フェファー(Jeffrey Pfeffer)
スタンフォード大学ビジネススクール教授。
専門は組織行動学。『「権力」を握る人の法則』『なぜ、わかっていても実行できないのか』など、これまで14冊の著作があり、とくに権力やリーダーシップなどのテーマで高い人気を誇る。経営学の第一人者として知られ、ロンドン・ビジネス・スクール、ハーバード大学ビジネススクール、シンガポール・マネジメント大学、IESEなどでも客員教授として教鞭をとるかたわら、複数のソフトウェア企業や上場企業、非営利組織の社外取締役も務める。

=おわり

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