なぜ今か ドコモやauが独自スマホを出す理由
佐野正弘のモバイル最前線
NTTドコモがオリジナルのスマートフォン(スマホ)ブランド「MONO」を立ち上げ、一括648円で購入できる「MO-01J」を投入したことが話題となった。MONOや、KDDI(au)の「isai」(イサイ)「Qua」(キュア)のように、キャリアがオリジナルのスマホブランドを立ち上げる理由は一体どこにあるのだろうか。
NTTドコモがオリジナルブランド「MONO」を発表
NTTドコモが10月19日に実施した新サービス・新商品発表会。その中で、最も大きな注目を集めた発表内容の1つに「MONO」がある。
MONOは、「一括」で648円という低価格もさることながら、NTTドコモが新たに立ち上げる、独自のスマホブランドという点に特徴がある。スマホは毎日利用するデバイスであることから、MONOでは高品質で使いやすいことをブランドのコンセプトとして掲げ、機能は基本的なものに絞ってシンプルに仕上げた。その第1弾となる「MO-01J」は、そんなMONOのブランドコンセプトを象徴する端末のようだ。
実際、MO-01Jは、4.7インチの端末で、ワンセグやFeliCaなどは搭載されておらず、スペック競争が激しいカメラ機能も1330万画素と一般的な性能。LTEの通信速度も下り最大150Mbpsにとどめるなど、機能面は非常にスタンダードだ。近年のスマホで流行のメタル素材や薄型・軽量のスタイリッシュなデザインなども取り入れておらず、見た目や触り心地はひと昔前のスマホという印象である。
その一方で、防水・防じん機能や、ディスプレー面と背面にも強じんさで知られる「Gorilla Glass 3」を採用。チップセットはミドルクラス向けの「Snapdragon 617」で、基本的な操作は快適にできる性能を担保している。iPhoneのように側面にマナーモードをオン・オフするスイッチを搭載するなどの工夫もあり、日常的に安心して使えることにこだわっているようだ。
先駆者auの狙いは独自性のアピール
価格の安さと相まって注目を集めているMONOだが、キャリアがオリジナルブランドを立ち上げて端末を開発・提供する動きは、MONOに始まったことではない。NTTドコモでいうならば、フィーチャーフォン時代から続くシニア向けの「らくらくホン」シリーズもそうした独自ブランドの1つといえるし、2013年には「dtab」という低価格タブレットのブランドを立ち上げ、オリジナルのタブレットを何機種か発売している。こちらはNTTドコモが「dマーケット」で映像や音楽などのマルチメディアコンテンツを積極展開するに当たり、それらを利用しやすくするためのタブレットシリーズとして位置付けられていた。
スマホに限るなら、NTTドコモよりも先にオリジナルブランドを展開したのはauである。auはフィーチャーフォン時代から、現在も続く50代前後をターゲットとした「URBANO」のほか、「au design project」や「iida」など、デザイン性を重視した端末をオリジナルブランドで展開していたが、スマホになってからも、LGエレクトロニクスと共同で展開している「isai」を2013年から投入している。
isaiは、LGがグローバルで展開するスマホをベースにしながら、ボディーデザインやインターフェースを日本のユーザーが使いやすいように変更し、さらに防水・防じんなど日本でニーズが高い機能を搭載したauオリジナルのモデルとなっている。
auがisaiブランドを展開するに至った背景には、スマホ時代になって各キャリアとも、グローバル展開する端末を調達して販売するケースが増え、キャリアの独自性を打ち出しにくくなったことがあった。auは、日本市場向けにカスタマイズしたオリジナルブランドを展開することで、キャリアとしての独自性を打ち出したかったわけだ。
それゆえisaiは当初、auのフラッグシップと位置付けられていた。だがその後、auは端末よりもサービスに重点を置くなど戦略を変化させたことで、isaiの位置付けは徐々に変化してきている。初めてau VoLTEに対応した「isai VL LGV31」に代表されるように、現在はauの新しいサービスや戦略を反映させやすいシリーズとして継続しており、2016年10月17日には最新機種となる「isai Beat LGV34」も発表された。
isai Beat LGV34はLGの「LG V20」という端末がベース。5.7インチディスプレーを採用した大型のボディーサイズを5.2インチサイズに縮小し、防水・防じん性能やフルセグ、FeliCaを搭載するなどカスタマイズした。一方で、デュアルカメラ機構や、Bang&Olufsenがチューニングした高品質なサウンドなど、V20が持つ特徴はしっかり継承されている。
戦略とともに新ブランドの位置づけが変化
auはisaiだけでなく、もう1つのブランドを立ち上げている。それは、2015年7月に登場した「Qua」である。
Quaは「暮らしに新たな付加価値を提案する」というコンセプトの下に展開されているブランド。最先端を追うのではなく、デザインや機能はシンプルながら、使いやすく、購入しやすいことに重点を置いた、ある意味MONOに近い位置付けのブランドといえるだろう。
Quaブランドの第1弾となる端末は京セラ製のタブレット「Qua tab 01」だが、2016年2月には同じ京セラ製のスマホ「Qua phone KYV37」を投入。その後もスマホ・タブレット共に継続的に投入されており、2016年7月にはLG製のスマホ「Qua phone PX」が登場している。いずれの機種も性能的にはあまり高くないが、シンプルなデザインでとがった要素がなく、親しみやすいこと、価格が安く購入しやすいことが、共通点のようだ。
また、Quaはスマホの通話着信やSMSをタブレット上で確認できる「auシェアリンク」に対応するなど、スマホとタブレットを連携して利用するための機能が充実しているのも大きな特徴といえるだろう。
目下の狙いはフィーチャーフォンユーザー
こうしてオリジナルブランドの歴史を振り返ると、キャリアのオリジナルブランドは、キャリア自身の当時の戦略と密接につながっていることが分かる。2013年に始まったisaiはキャリアが販売する端末が共通化していく中、auの独自性を打ち出すために生まれたブランドだったし、同年開始のdtabもNTTドコモが「dマーケット」などコンテンツサービスへの注力を進める過程から生まれたものだ。
では、16年に始まったQuaや発表されたばかりのMONOでは、各キャリアは何を狙っているのだろうか。それはやはり、キャリアにとって長年の課題となっている、フィーチャーフォンユーザーのスマホへの移行加速であろう。
大手キャリアはフィーチャーフォンユーザーをスマホに移行させるための施策をこれまでにも多数展開している。それでもシニア層を中心として、スマホは料金が高く、難しいというイメージを持つ人が少なくないことから、なかなか移行が進まないのが実情である。
それゆえ双方のブランドの端末は、機能・デザインがシンプルでありながら、使いやすさを重視し、なおかつ購入しやすい低価格も実現。加えて大手キャリア自身が手掛けているという安心感を前面に打ち出すことにより、フィーチャーフォンユーザーのスマホに対する不安感を和らげ、移行する上でのハードルを大きく下げる狙いがあるといえるだろう。
日本ではiPhoneが圧倒的なシェアを占めているが、実際のところ、iPhoneだけではサポートできていないユーザーも多数存在する。そうした国内独自のユーザーニーズを拾い上げるには、グローバル端末を提供するだけでは限界があり、日本市場をよく知り、資本力を持つキャリアの力が重要になってくる。各キャリアオリジナルのスマホは、単に売れ行きを狙うものではなく、キャリア自らが仕掛けるスマホユーザー拡大戦略の急先鋒なのだ。 。
(ライター 佐野正弘)
[日経トレンディネット 2016年11月8日付の記事を再構成]
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