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実は「子育てしやすい街」? 東京一めざす千代田区 千代田区の石川雅己区長が語る

2016/11/19

東京都心のど真ん中にある千代田区。政治の中枢である永田町、霞が関、ビジネス街の丸の内、大手町に加え、秋葉原や神田など学生街もあり、昼間人口は82万人に達する。ただ、人が暮らす街という印象は薄い。居住人口は約5万9000人だが、実は若いファミリー層を中心に人口が急激に増えている。仕掛け人は元都庁マンの石川雅己区長。子育て・高齢者支援のみならず、「猫の殺処分ゼロ」を実現するなど、新機軸の政策を次々と繰り出し、大都会での住みやすい街づくりに挑んでいる。

■18歳まで医療費はゼロ

「うちは『東京一子育てしやすい街』を目指し、0歳児から18歳までトータルでサポートしている」。石川区長はこう強調する。同区は東京23区では唯一の待機児童ゼロを実現したほか、0~18歳の医療費はゼロ。しかも、区立で初となる中高一貫校までつくった。

千代田区の石川雅己区長

大都市圏ではいずれも保育所不足は深刻だ。しかし、同区は2002年から16年までの間に、保育所の受け入れ定員数を3倍に増やした。しかも認証保育所の保育料も補助。利用者の月負担額は、区立保育所の月負担額より2割安い額とし、最大8万円まで補助する。

都の医療費負担ゼロ対象は0~15歳までだが、同区は18歳までと延長した。最近は都立の中高一貫校が人気だが、同区は都立九段高校を区立化し、中高一貫校にした。区立九段中等教育学校の定員は160人。うち区民の割り当ては80人で平均倍率は2倍程度だが、区外の倍率は10倍を超す年もある。

石川区長は「全国の自治体は高齢者や介護負担コストが高いが、ウチは子育てコスト負担の方が上回っている」という。一方で、高齢者にやさしいまちづくりも進めている。75歳以上の区民が入院した場合、入院に要した日用品等の費用を入院日数に応じて最大5万円を支給する。石川区長は「医療費自体は各種保険でカバーできるだろうが、入院すれば、色々物入り。オムツだって必要でしょう」と話す。

■猫にもやさしく

子供や高齢者どころか愛護動物にも配慮している。猫の殺処分が都内で唯一ゼロの自治体となった。繁華街が多いので、野良猫が増えて困った時期があった。石川区長は区と保健所、さらに100人前後のボランティアの協力を得て、野良猫を捕獲して去勢・不妊手術を施し、元の場所に戻す活動を開始した。また、譲渡会などを開催し、里親を探して1匹ずつ引き取ってもらっている。

これらの政策のすべては人が暮らしやすい住環境を整備するためだ。石川区長を最初に有名したのは、02年に日本で初めて路上での喫煙に対して過料を適用する「安全で快適な千代田区の生活環境の整備に関する条例」の制定。「たばこのポイ捨てをやめると、他のゴミの投げ捨ても少なくなる。しかし、区は口だけじゃないかともいわれた。だから職員全員を投入して、街中にポスターを貼り、今でも係長級以上の職員は街をパトロールして条例を守るように努めている」という。

■人口増加率は23区でトップ

千代田区の新築マンションは高額だが

子育て支援、高齢者対策、住環境整備――。次々新機軸の政策を打ち出した結果、千代田区の10~15年の人口増加率は24%と23区でトップに。しかも65歳以上の人口比は都平均の22%を下回る18%になった。30~40歳代の子育て世帯が流入しているためだ。

これほどの住民サービスを展開できるのは同区の財源が豊かなためとみる人も少なくない。確かに市町村税にあたる固定資産税などは3500億円規模と巨額だが、これは東京都に入るおカネだ。実質的に同区に戻るのは50億~70億円程度でしかない。石川区長は子育て支援など各種サービスを充実させるため、区の職員を1360人から1070人程度にまで削減。一連の合理化で財源を確保した。

■課題は高地価と外国人との共生 

しかし、課題はやはり東京都心の地価の高さ。千代田区の平均地価1平方メートル当たり500万円を突破する、もちろん全国の自治体でトップ水準だ。同区で人気の番町エリアの新築マンションは「億ション」ばかり。同区にも様々な家賃補助制度はあるが、大型の格安物件を次々用意することはできない。石川区長は「確かに地価は高い。しかし、中古マンションだと、60~70平方メートルのマンションは20万円程度で賃貸できる地区もある。食品スーパーも増えている」という。

もう一つ、同区にとって課題にとなっているのが外国人との共生だ。大使館や外資系企業のオフィスが多い割には、外国人の住居者は少ないといわれる。隣の港区などの方が人気がある。ちなみに海外の都市と姉妹都市提携もない。2020年の東京五輪・パラリンピックを控え、国際化対応、外国人を含めた共生が重要課題だ。

さて千代田区に住むのはお得なのか。半年前に東京郊外の三鷹市から区内に引っ越してきた40歳代のビジネスマンは「娘が近くの私立中学に合格したのがきっかけ。夫婦共働きだけど、2人のオフィスも近いから時間を買った。通勤・通学時間に往復2時間×3人で計6時間。それが今は平均20分×3人で計1時間。家賃は30万円で10万円以上上昇したけど、まあ仕方がないかな」という。

「世田谷に自宅があるが、専門学校や大学も近いし今後の勉強をしたいから最近、部屋を借りた」という大手町の50歳代の証券大手幹部もいる。昔から区内に暮らす60歳代の女性は「確かに区の支援は手厚い。皇居があって緑もあるし、いい病院もある。しかし物価はやはり高い」という。

■豊洲問題は「おかしな話」

石川氏は元都庁幹部だ。日本最大の湾岸開発と呼ばれた「臨海副都心開発」を担当する港湾局長や福祉局長などを歴任し、知事や大物都議にもの申す都庁マンとして知られた。しかし、今や都庁は「伏魔殿」と呼ばれ、都庁幹部のイメージもよくない。「豊洲」問題に揺れる都に対して「おかしな話だ。昔は設計図とか、何でもオープンにして協議を進めてきたが」と石川氏は首をかしげる。

五輪が開催される2020年。千代田区の人口は6万2000人に増える見込みだ。子育て支援など住民サービス向上のため、様々な改革を推し進めてきた石川氏。高地価の首都の中心部は本当に住みやすい街になるのか。元都庁マンの改革の成果を見極めるにはまだ時間がかかりそうだ。

石川雅己氏(いしかわ まさみ)
1963年東京都立大学(現首都大学東京)卒、東京都庁に入庁。千代田区企画課長、都総務局職員課長(人事課長に相当)などを経て港湾局長、福祉局長などを歴任。2001年に千代田区長に当選、現在4期目。75歳

(代慶達也)

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