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スタンフォード大学経営大学院のキャンパス(C) Elena Zhukova

スタンフォード大学経営大学院のキャンパス(C) Elena Zhukova

世界でもトップクラスの教授陣を誇るビジネススクールの米スタンフォード大学経営大学院。この連載では、その教授たちが今何を考え、どんな教育を実践しているのか、インタビューシリーズでお届けする。

最初に登場するのは、リーダーシップを教えるジョエル・ピーターソン教授。同校を代表する人気教授だ。起業家、投資家として成功を収めた教授の秘策は、「人を信用すること」にあるという。裏切りやうそが多い世の中で、なぜそう言えるのか。「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」(原題 The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great)を出版したばかりの同氏に聞いた。(聞き手はコンサルタント、作家の佐藤智恵氏)

(C)Michael Schoenfeld

(C)Michael Schoenfeld

ジョエル・ピーターソンJoel C. Peterson
スタンフォード大学経営大学院兼任教授。専門は不動産投資、起業家精神、リーダーシップ。スタンフォード大学フーバー研究所監督委員会会長、米ジェットブルー航空取締役会長。投資マネジメント会社、ピーターソン・パートナーズ(ユタ州、ソルトレークシティー)創業者兼取締役会長。1971年ブリガム・ヤング大学卒業、73年ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。著書に"The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great" (AMACOM, 2016)。

◆トランプ氏もクリントン氏も「信頼されていない」のが問題

「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」

「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」

佐藤:今年5月に出版した「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」は、著名な経営者、投資家であるピーターソン教授が初めて書いた本ということで話題になりましたね。

ピーターソン:これほど注目されたのは出版したタイミングもよかったからだと思います。今年は大統領選挙があり、「この候補者は本当に信頼できる人かどうか」という点に国民の関心が集まっていましたから。

両候補者とも「人気がない」のは、それほど大きな問題ではありません。私が大きな問題だと思うのは、両候補者とも「信頼されていない」ことです。国民から信頼されていなければ、大統領は権力に頼ります。しかしながら、権力で国民を従えようとする大統領に、国民は協力しようとはしません。すると、大統領は、最も高い地位にいながら、国民のために必要な変革をおこすことも、政策を実行することもできなくなってしまう。これは大問題です。今回の大統領選で、候補者の信頼性そのものが大きな争点になっていないことを残念に思います。

リンクトインで30万フォロワー

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。「ハーバードでいちばん人気の国・日本」など著書多数。

佐藤:どのような経緯で本を執筆することになったのでしょうか。

ピーターソン:リンクトイン(LinkedIn)の公式ページで、スタンフォード大学の学生向けに「ビジネスと信用」をテーマにいくつか記事を掲載したところ、次第にフォロワー数が増えて、ついには30万人ほどになりました。それを聞きつけた出版社から「本を書きませんか」というお話をいただいたのです。

これだけ反響があるということは、「ビジネスを発展させる上で『信用』というものが強い威力を発揮する」ということに人々が気づきはじめているのだ、と思います。たとえば、相手を信頼できなければ、どんなビジネスも円滑に進みませんが、信頼できれば、そもそも弁護士などいらないのです。

佐藤:現実の世界では、信用していた上司や部下から裏切られることも多々ありますし、長年尽くした会社から退職勧奨をされることもあります。それでも、なぜ信頼関係を築くことがビジネスの発展につながる、と言い切れるのでしょうか。

ピーターソン:私自身が自分の会社で実証してきたことだからです。私は何も「いかなるときも、あらゆる人を信頼せよ」「契約書など不要だ」などと言っているわけではありません。信頼関係で結ばれている企業はなぜ強いのか。全社員が会社のミッションを心から信じて、一丸となって実行しているからです。

佐藤:スタンフォード大学経営大学院のジェフリー・フェファー教授は「理想論より現実を見よ」とピーターソン教授とは正反対の考え方を主張しています。

ピーターソン:フェファー教授とは論争したこともあります。素晴らしい組織をつくりあげるにはどうしたらよいか、について、彼と私の考え方は根本的に違います。彼は「権力」の専門家で素晴らしい学者ですが、私は現実の世界で多くの会社を起業し、育ててきた経営者です。その私だからこそ、信頼関係で成り立っている会社をつくることは可能だ、と言いきれるのです。

◆自らが高潔な人物になることから始めよ

佐藤:部下から信頼を得るために、管理職や経営者はどのようなリーダーシップをとらなくてはならないのでしょうか。

1. 自らが高潔な人物になることから始める
2. 尊敬を得られることに投資する
3. 周りの人を啓発する
4. 達成したい目標を明確にする
5. 共通の夢を形成する
6. 社員全員に情報を共有する
7. 建設的な意見の相違を尊重する
8. 謙虚にふるまう
9. ウィンウィンとなる交渉をする
10. 注意深く進める

「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」より

ピーターソン:全社員が世の中の役に立つ仕事をしていて、ともに成果を喜び合い、お互いを信頼し、お互いをほめあう。こういう企業文化を形成できるかどうかは、リーダーにかかっています。そのリーダーが守るべき10カ条を記したのが、「ビジネスを発展させる信頼関係を築く10の法則」(原題)です。これらを指針として守っていけば、必ず強い信頼関係で結ばれた企業をつくりあげることができると思います。

ここで私が言っている「信用」とは、そう簡単に得られるものではありません。その人の人格、信頼性、影響力など、すべてが問われるからです。「この人は締め切りを守る人だろうか」「この人は予算を守る人だろうか」といった細かいことも全部信用に関わってきます。

佐藤:ビジネスを成長させるには、まず信頼関係を築くことが大切だ、という教訓をどのように学んだのでしょうか。

ピーターソン:子どものときに学びました。私がはじめて商売というものを体験したのは、11歳のときです。自分で育てたトマト、キュウリ、ニンジン、自分でつくったレモンスカッシュを近所のお客さんに販売したのが最初です。そのとき、気づいたのです。お客さんから信用されるとうれしいな、もっと良いものを売れるように努力しよう、と。人から信頼されると自分の人生も豊かになるし、創造性も高まる。これこそ、素晴らしいビジネスを築き上げる基本だ、ということを学びました。

◆規律、ぶれないミッション、明確な説明責任が必要

佐藤:信頼関係をベースにした組織づくりをするのに必要なことは何でしょうか。

ピーターソン:規律、ぶれないミッション、明確な説明責任です。この3つがなければ、固い絆で結ばれた組織は成り立ちません。「あなたのことを信頼します」「あなたのことを気に入っています」というような曖昧な関係で成り立っている組織ではだめなのです。

佐藤:ピーターソン教授は、自分を裏切った人でも信頼しつづけますか。

ピーターソン:それはケース・バイ・ケースです。悪意がなかったことがわかれば、もう一度信頼してみよう、とは思いますが、悪意で裏切った人を再び信用するのは難しいですね。

佐藤:悪意がなくて裏切ってしまう、というのはどういうケースでしょうか。

ピーターソン:上司はきちんと部下に指示したつもりだったが、部下はその内容をきちんと理解していなかった、というケースです。すると上司は「期待を裏切られた」「この部下は信頼できない」と感じてしまいます。

たとえば、あなたが言ったことをきちんとやらなかった部下がいたとします。でもその人は悪気があってやらなかったわけではなく、何をやるべきかを理解していなかったかもしれないのです。予算を守らなかった、締め切り日を守らなかった、頼んだことをやらなかったのは、「あなたが何を要求しているのか」を正確に理解していなかったからかもしれません。

このような状況を避けるためには、部下がきちんと指示を理解しているかどうかを要所要所で確認しておくことです。こうした問題も早く意思の疎通をしておけば、信頼関係を回復することができます。

佐藤:明らかに故意に裏切った人に対しては、どうしたらいいのでしょうか。

ピーターソン:故意に裏切った人を再び信頼するのはとても難しいです。そのようなビジネス相手に出会ったら、早々に見限って、信頼できる人や企業を探すのがよいでしょう。悪意をもって裏切った人との信頼関係を回復しようとするのは、時間とエネルギーの無駄だと思います。

スタンフォード大学経営大学院世界トップクラスのビジネススクールの一つ。シリコンバレーの中心地、パロアルトにあり、IT関連のマネジメントに強いとされるほか、競争的なハーバード・ビジネス・スクールに対して学生同士の協力を重んじるコーポラティブな文化が特徴とされる。卒業した日本人には冨山和彦・経営共創基盤CEO、石黒不二代ネットイヤーグループ社長兼CEO、湯崎英彦・広島県知事らがいる。

The 10 Laws of Trust: Building the Bonds That Make a Business Great

著者 :Joel Peterson
出版 : Amacom Books
価格 : 1,751円 (税込み)

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