戦艦大和を建造したドックを見下ろす

すずさんの夫・北條周作さんは、日本海軍呉鎮守府で軍法会議録事として勤務していたという設定だ。「裁判所の書記のような仕事」(福原さん)という。

当時の呉は東洋一の軍港だった。呉の市街から見て、JR呉線よりも海側はすべて軍港だったという。どのくらい広いかというと、港の東側をゆっくりクルマで移動しながら、福原さんが「ここまでが軍港だったんです」と教えてくれた場所まで、直線距離にして3kmくらいあるだろうか。呉鎮守府や海軍病院といった施設はもちろん、造船所や兵器工場、倉庫などが並んでいたという。次の写真の一番左にある建物は、戦艦大和を建造したドックだ。この港に浮かぶ戦艦大和を、すずさんたちは眺めていた。

呉の海軍下士官集会所は壁の色は変わっているが、建物は当時のまま残っていた。呉での新生活を始め、気苦労の多いすずさんを夫の周作さんが呼び出して息抜きに誘う場所だ。現在は自衛隊の集会所になっている。

高台にある「歴史の見える丘」からの眺望

アニメは当時の街並みを徹底した考証によって再現したという。今回撮影した呉や広島の街並みは戦災と戦後の復興によって変わってしまった部分が多いが、そこにARを使って戦争の時代を生きた登場人物を重ねてみると、すぐに「この世界の片隅に」の作品世界に引き戻されてしまう。と同時に、70年を経て私たちが恵まれた世界にいることを意識せずにいられない。

映画を見たあと、劇場が自然に拍手で沸いた。舞台となった場所を訪ねると、一段と感慨が深まるだろう。

次回「下」(11月下旬掲載)ではヒット作「ガールズ&パンツァー」の茨城県大洗町と、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の舞台、埼玉県秩父市を訪ねる。

※AR写真に含まれるキャラクター画像の著作権は、こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会に帰属する。

(渡辺 享靖)