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世界のホンダブランドが再び輝き始めた。約10年ぶりに復活した高級スポーツカー「NSX」がヒットし、ビジネスジェット機「ホンダジェット」の受注も快調。円高でも業績は堅調だ。ところでホンダの社長の名前をご存じだろうか。実は創業者の本田宗一郎氏を除く歴代社長もそれほど有名とは言い難い。なぜなのか。

注文殺到NSX 年産1500台に

「NSXは今からの注文ですと、来年中の納車は無理ではないかと……」。都内のホンダのディーラーを回るとこんな答えが返ってきた。ホンダは今春、米国でNSXの販売をスタート。日本でも8月から受注を開始したが、すでに国内の割り当て年間販売予定数の倍にあたる200台を突破した。価格は1990年発売の初代NSXの3倍にあたる2370万円と高額だが、世界中から注文が殺到しているという。

実は新型NSXの生産拠点は日本ではなく、米オハイオ州の専用工場。初代は栃木県に専用ラインを設けていたが、高級スポーツカーの主な需要先は米国市場として生産も切り替えた。10月下旬からは1日あたりの生産台数を8台に引き上げ、フル稼働状態にした。だが、手作業の工程が多く、増産しても年間約1500台にとどまるという。

「今回の記者会見には社長が出ます」。ホンダがNSXを日本でお披露目したのは8月25日。その際、報道各社の関心事は社長の八郷隆弘氏が会見の場に現れるかどうかだった。別に八郷氏がメディア嫌いというわけではない。ホンダの場合、通常の新製品発表会など記者会見の場にめったに社長が顔を出すことがないからだ。

社長はめったに記者会見に出ない

5月の本決算会見にはトヨタ自動車でも豊田章男社長が自ら出席するが、ホンダは「決算発表は最高財務責任者(CFO)の仕事。新製品発表で社長が出るのはグローバルな戦略製品の場合に限る。国内販売向けの新車発表会を仕切るのは国内本部長の仕事」(広報部)という。ホンダは日本のほか北米、南米、欧州、中国、アジアと世界6極体制を敷いているが、それぞれに本部長がおり、開発・生産・販売に責任を持つ。ホンダの社長が記者会見に出るときは、業界的には一大事なのだ。

「ホンダは製品がすべて。トップの顔が売れても製品が売れなければ、意味がない」(元社長の福井威夫氏)というのが歴代社長の口癖だ。宗一郎氏以降、ホンダには7人の社長が誕生したが、いずれも技術系の出身。栃木県にある本田技術研究所をベースに国内外の工場を回り、現場でキャリアを積み上げてきた。歴代社長の大半がべらんめえ調で話す。「営業トークは苦手だね」(元社長の吉野浩行氏)と公の場に出ることを好まなかった。

ホンダの八郷隆弘社長

ホンダの八郷隆弘社長

それでも、場数を踏むうちに公の席に出ることを好むようになるトップも現れそうなもの。しかし、ホンダの企業風土がそれをよしとはしない。そもそも長期ワンマン政権は許されない。ホンダの社長は退任すれば、取締役相談役となり、完全に権限を移譲するのが「しきたり」だ。

社長、会長と、10年以上トップの座にあった人はおらず、もちろん経団連など経済団体の長になることはない。「もしワンマン体制をしけば、口のうるさいOBたちに株主総会の場で袋だたきにあう」(ホンダOB)というのがこの会社の伝統だ。

独裁社長が出ない「SED体制」

ホンダの創業時には、技術を宗一郎氏、販売など経営を藤沢武夫氏が担ったが、その経営形態を継承する形で「SED(販売・生産・開発)」と呼ばれる独自の組織部門制度が生まれた。D出身者が社長になるが、副社長にはS出身者がなり、CFOとして会社の経営を厳しく取り締まるという形態だ。14兆円を超す巨大企業にもかかわらず、今も副社長は1人。代表権を持つのも社長と副社長の2人だけ。元副社長の雨宮高一氏はかつて「社長が威張れる会社ではない。専横できない体制だ」と語った。

「スポーツカーでホンダのエンジニアを磨く」。8月の記者会見でこう語った八郷社長も武蔵工業大学(現東京都市大学)出身の典型的な技術者だ。これまでの社長とは異なり、本田技術研究所の社長は経験しておらず、ホンダ本体の社長候補として下馬評にも上がっていなかった。だが中国で実績を上げ、米国と並ぶ主力市場に押し上げた。地味だが、実務派の企業家だ。

自動車業界には創業家出身のトヨタの章男社長や日産自動車のカルロス・ゴーン社長、スズキの鈴木修会長など強力なリーダーシップを誇る著名経営者が少なくない。しかし、「有名なのは本田さんだけで十分だ。社長が名をなす必要なんてない。5~6年の任期に全力を注ぎ、後は後輩に託す。それだけだ」(ホンダ元社長)という意識が今も強い。ホンダは年内に八郷社長が記者会見を行う予定は今のところないという。これもホンダイズムというわけだ。

(代慶達也)

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