「家を買う」と決めたら 知っておくべきこと不動産コンサルタント 長嶋修

2016/11/16

不動産リポート

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Sさん(39)は奥さんと小学生の子ども2人の4人家族。超がつく低金利のいま、東京郊外に建つ4000万円の4LDK、新築一戸建てを契約しようかどうか迷っている。

現在住んでいる2LDKの家賃は11万5000円。年間では138万円だ。2年ごとに1カ月分の更新料がかかることも踏まえると10年で約1437万円、20年だと2875万円を支払うことになる。家賃はただ出ていくだけで手元に残ることはない。このまま一生家賃を払い続けていてもいいのか、年をとってもずっと払い続けることができるのか不安だ。

なにより子どもが大きくなり、以前より荷物もだいぶ増えて、いま借りている賃貸住宅もかなり手狭になってきた。これより広いところに引っ越すなら、さらに高い家賃を払い続けなければならない。

昨今の低金利で住宅ローンはより借りやすくなった。4000万円を丸々借りても、35年返済なら月々の支払いは12万円台で済むうえ、住宅ローン減税で年末ローン残高の1%が所得税から控除される。年末残高が3600万円なら控除額は36万円で、月当たり3万円に相当する。ということは実質的に毎月9万円程度の支払いで、いまより格段に広く新しい、そしていつかは自分のものになる夢のマイホームに手が届くのだ。

一方で気になることが大きく2つある。ひとつは「建物の将来価値」。「日本の住宅は新築で買ったときに最も高く、10年でおよそ半値、20~25年程度で価値はほぼゼロ」とよく聞く。土地建物それぞれ2000万円とすると、仮に土地の価値がまったく下がらないとしても、4000万円で買った住宅が20年後には2000万円程度になってしまうわけだ。

手持ち資金はそこそこあるが、今後子どもの教育費がかかることや不測の事態に備えるため、なるべく使いたくない。

仮にSさんが4000万円の新築一戸建てを、諸費用の120万円だけ手元資金を使い、4000万円の住宅ローンを借りて買った場合、住宅の資産価値とローン残高の関係はグラフのようになる(期間35年、金利1.5%)。

新築住宅は買って住んだ瞬間に「中古市場」という全く性質の異なるマーケットに移行する。すると建物の価値は20%程度落ちて3600万円程度となる。

そのとき住宅ローンはほぼ丸々残っており、いきなり400万円程度の「家計内債務超過」の状態となる。建物は減価し続けるため、債務超過が解消されるのは18年目から。

もし「転勤」「リストラ」「親と住むことになった」「住みたくなくなった」など、様々な理由でこの期間中に売却を余儀なくされた場合は、差額の数百万円に加え、売却費用約100万円を別途、捻出しなければならない。しかもこのシミュレーションはあくまで、地価が変わらなかった場合だ。

ずっと住み続けていればこの問題は顕在化しないだろう。しかし、東日本不動産流通機構によると市場で売りに出されている中古住宅のうち2割以上は10年以内、3割以上が築15年以内の物件だ。人生には結構、不測の事態が起きるのだ。

しかしこの点についてはさほど心配はいらない。というのも国は現在、築年数で一律に減価する現行の建物評価を根本的に改めようとしている。

簡単にいうと「現実の築年数」を無視し、「事実上の築年数」によって評価するというもの。こうした制度は日本以外の先進国では当たり前のように行われているが、日本も遅ればせながら先進国に追いつこうとしている。

これから全国およそ30カ所で、中古住宅の評価の仕組みを実証実験するプロジェクトが国のサポートを受けながら走り出す予定だ。この際に高く評価される要件は大きく3つ。(1)耐震性(2)省エネ性(3)雨漏りや水漏れがないこと――だ。

今後は「事実上の築年数」によって評価されることを踏まえて、(1)(2)については現行水準の中で可能な限り高い性能のものを選ぶといい。(3)については年に1度、可能なら半年に1度、建物をざっと点検することで早期発見・対応が可能だ。

Sさんにとってもう一つ気になるのが人口減少。昨今は空き家問題が深刻化していると聞く。これから本格的な人口減少、少子化・高齢化の波が押し寄せる中で、さらなる空き家の増加が懸念されているようだ。果たして住宅を買ってもよいのだろうか。

この点は確かに大きな懸念事項だろう。確かに、今後日本の住宅価格は2040年には10年比で46%下がるといったシミュレーションもある。

しかしこの点も、立地を吟味することでリスク回避は可能だ。というのも目下、これから訪れる本格的な人口減少社会をにらみ「生かす街」と「そうでない街」を分ける政策が進行中だからだ。

今年7月末時点で全国289の自治体がこの「立地適正化計画」に取り組んでいるが、都心や都市部の一部を除き、いずれほとんどの自治体が取り組むことになる。人口減少といえばかつては地方の問題だったが、今後この課題が表面化するのは、高度経済成長期にマイホームを求めて大量の人口が流入した「都市郊外」である。

具体的には都心から30~40キロ圏内、ドア・ツー・ドアで1時間から1時間半の、かつて「ベッドタウン」と呼ばれたところだ。すでに神奈川県の相模原市、横須賀市、埼玉県川越市、志木市、戸田市、春日部市、千葉県松戸市、柏市、流山市などが立地適正化計画の策定に乗り出している。

埼玉県毛呂山町が策定した「立地適正化計画」では20年後の公示地価の上昇率を目標に掲げている

計画では「都市機能誘導区域」には医療・福祉施設や子育て施設、商業施設などを集約する。この区域では容積率の緩和や税制優遇、補助金制度などを実施して移転を促進する。その周辺に「居住誘導区域」を設定、自治体が「人口密度を維持ないしは増加させる」と宣言し、生活サービスやコミュニティーが持続的に確保できるよう誘導する。例えば、埼玉県毛呂山町では居住誘導区域内について、10%の地価上昇を目指すとしている。

ここで留意したいのは、自治体は「これ以外の地域では人口密度は維持しません」といっていることだ。これ以外の地域では上下水道や道路の修繕など行政サービスも後手に回るだろう。

むろんこうした線引きが行われたからといって、その瞬間から街がガラッと変わるわけではない。街づくり、都市政策は10年単位の長い取り組みだ。ただ、この政策は「不断の見直しを行う」としている点に注目しておこう。区域外の地域は時間の経過に伴い、徐々に無居住化に向かうイメージだ。迷惑空き家があったとしても、取り壊しなどの対処も行わないだろう。

都市部でも地方でも、全体として住宅価格は下落するが、どの地域でも価格が下がらない、あるいはむしろ上昇に向かう地域がある。こうした地域に入るか、入りそうな立地を選択しよう。日本の住宅価格は今後大きく3極化に向かう。(1)価値維持ないしは上昇(2)半値あるいはそれ以下へ下落(3)無価値あるいは負債――といった具合だ。

割合としては(1)全体の20%(2)60%(3)20%程度――だろう。上位20%に入るには、建物の品質にこだわったうえで適切な点検を行うこと。そして立地をよくよく吟味することだ。

長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。

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