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広告主と媒体社、両サイドで広告関連サービスを展開するアドプラットフォーム事業を中心に、幅広い事業を手掛けるVOYAGE GROUP(ボヤージュグループ)。2014年7月、東証マザーズに上場。連結子会社も15社を数え、2016年9月期の連結売上高は208億円を超えた。社長兼最高経営責任者(CEO)の宇佐美進典氏はIT(情報技術)業界では珍しい朴訥(ぼくとつ)タイプ。風貌に似合わぬ大胆さと情熱の原点について聞いた。

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◇   ◇   ◇

原点といって思い出すのは、やはり19歳で学生結婚したことです。いわゆる「授かり婚」でした。

当然、周囲には反対されました。みんな、僕たちのことを思ってアドバイスしてくれていたとは思います。けれど、反対している人たちの中で学生結婚をしたことのある人は誰もいないことにも、気がつきました。

ほかの人たちが失敗したからって、僕たちも同じように失敗するとは限らない。考えてみたら自分の人生なんだし、後悔のない決断をしたい。ある意味、吹っ切れたんでしょうね。自分で選んだ道を信じてやりきろう、と思った最初の瞬間でした。

息子を保育園に送り迎えしながらの学生生活

VOYAGE GROUP 社長兼CEO 宇佐美進典氏

VOYAGE GROUP 社長兼CEO 宇佐美進典氏

一人息子を授かった時、僕は早稲田大学の1年生でした。キャンパスのすぐ近くに保育園があり、毎朝、息子を自転車に乗せて、保育園に送ってから授業に出ていました。

妻と交代で迎えに行くのですが、周りはいわゆる「ママ友」ばかり。僕はひとりだけ若いし、男性だし、完全に浮いてましたね。

2人とも親のすねをかじりながらの生活ではありましたが、アルバイトはかなりしました。土日はほぼ毎週、結婚式場でビデオ撮影の助手をしていました。カメラマンの後ろに付いて、ケーブルを巻いたり、ほどいたり。「8の字巻き」ってわかります? あれを、よくやっていたんです。

平日も週に3、4日、多い時はほぼ毎日のようにアルバイトを入れていました。職種はいろいろです。事務の仕事もやりましたし、いわゆるバーテンも。ビジネスホテルで宿直のアルバイトをしたこともあります。

早稲田の商学部だと、2年生に進級する時、ふつうはゼミに入るんです。ただ、成績が悪かったりしてゼミに入れない学生が毎年、1、2割は出る。学内では「ゼミなしっ子」と呼ばれていたのですが、僕はそのゼミなしっ子でした。

ゼミに入れないと卒論も書かないことになる。それじゃあ、なんのために大学に行ったのかわからない。だったら会計士の勉強でもしようかと思い、専門の予備校に通ったりもしました。

入ったのは1.5年本科生のコースでしたが、10カ月くらい続けたところで「これは向かないな」とわかりました。論文が苦手だったんですよ。原価計算は割と得意だったのですが、財務会計や商法などテーマごとに論文を書かないといけない。

昔から、僕、作文が苦手なんです(笑)。

「アウトローの人生を歩むんだろうな」と思った

「人前で話すのも、そんなに得意じゃないですね。能弁でもないし」

「人前で話すのも、そんなに得意じゃないですね。能弁でもないし」

人前で話すのも、そんなに得意じゃないですね。能弁でもないし。ITベンチャーの社長ってもっとギラギラしているかと思いましたか?

全然、そんなことないです。みんな、ふつうの人です。なかでも、僕は際立ってふつうだと思っています。「ふつうの星」と言いますか……。いや、星じゃないか。まあ、僕みたいな人間でもここまでやれるんだと思ってもらえれば、それもいいかなと思っているんです。

今ではこれも単なる思い込みの一つにすぎなかったとわかりますけれど、学生結婚した時、僕はもうこれで完全にアウトローの人生を歩むんだろうなと思いました。会社員になって社内で出世していくようなふつうの人生は望めないんだろうな、と。

けれど運良く、卒業と同時にトーマツコンサルティング(現デロイトトーマツコンサルティング)に入社することができました。他社は箸にも棒にも引っかからなかったんですけれど、トーマツコンサルティングの場合は「こいつ、なんか面白いぞ」と思ってもらえたようで、僕はその「面白枠」で入社できたようなものです。

大学を卒業したのは1996年でしたが、当時はちょうど日本が第1次ITブームに沸いていた時期。学生がウェブ制作会社を立ち上げて独立するケースも多かったのですが、僕自身はまだ、そこまでする勇気は持てずにいました。

じつは、高校生の頃、パソコン通信をかじっていたんです。ニフティがサービスを始めた、ちょうど初期の頃で、3行しか表示されないワープロにモデムをくっ付けてフォーラムに入り、掲示板に書き込みをして楽しんでいました。今でいうSNS(交流サイト)みたいなものでしたが、フォーラムのメンバーには僕のような高校生もいれば、大学生や社会人もいて、そういう様々な人たちとつながることができるのがおもしろかった。

本格的にITの世界と接触を持つようになったのは社会人になってからです。担当したのがたまたまシステムコンサルティングだったため、知識もまったくない状態から、実務を通じて学んでいった感じです。

起業家になった息子へのアドバイス

起業家の息子には「人に迷惑をかけるなよ」

起業家の息子には「人に迷惑をかけるなよ」

仕事は面白かったですし、条件的にも恵まれていました。けれど、逆に焦ったんです。学生結婚した時に、自分はほかの人とは違うアウトローの人生を歩むんだ、自力で生きていくんだと決意したはずなのに、このままここで働いていたら、レールの上に乗ってしまう。そしたら、僕はきっと後悔するんじゃないか、と。

状況に追い込まれて決意したというのではなく、自分の意思でもう一度、ジャングルの中に飛び込む決断をしたという意味では、この時が最初だったかもしれないですね。結局、2年でトーマツコンサルティングを辞めました。

19歳の時に授かった息子は今、東京大学を休学して仲間とベンチャー企業を立ち上げています。儲かりそうにないことをやっているなとは思いますが、息子の人生だから、好きなように生きればいい。

僕自身も、19歳で学生結婚をするという決断をしたことで、世間の価値観に縛られない生き方ができるようになった。仮にこのまま大学を辞めるようなことになっても、それはそれで彼の決断ですから、自分を信じてやりきればいいと思います。

親として息子にアドバイスしていることですか?

それも案外、ふつうですよ。「人に迷惑をかけるなよ」ということくらいでしょうか。

宇佐美進典氏(うさみ・しんすけ)
1972年愛知県生まれ。96年早大商卒。トーマツコンサルティングなどを経て99年10月にアクシブドットコム(現VOYAGE GROUP)を創業。同年に懸賞サイト「MyID」をオープンし、2004年価格比較サイト「ECナビ」にサービス転換。01年サイバーエージェントと資本業務提携し、05年から5年間サイバーエージェント取締役も務める。12年サイバーエージェントからMBO(経営陣が参加する買収)で独立。14年東証マザーズ上場、15年東証1部に市場変更。

(ライター 曲沼美恵)

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「キャリアの原点」は原則木曜日に掲載します。

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